読売日響・第473回定期演奏会

7月、東京はお盆の最中ですが、月曜日からいきなりコンサートというのは些か辛いものがあります。気持に鞭打つようにサントリーホールへ。
《アメリカ・プログラム》
ヴァレーズ/アメリカ(改訂版)
     ~休憩~
ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」
 指揮/ゲルト・アルブレヒト
 コンサートマスター/小森谷巧
 フォアシュピーラー/鈴木理恵子
確かにプログラムにも「アメリカ・プログラム」と書いてありました。個人的に興味津々で出掛けたのは、「ライオンの唸り声」という名前の打楽器。さすがにプログラムにも紹介があって、“片面太鼓の中央に紐を通し、その紐を指や皮でこすって振動を皮に伝える”とあります。これは一見して直ぐに判りました。舞台左奥に高々と吊るされた太鼓。これですな。
音は、言われてみればライオンの唸り声ですが、私には牛または牛蛙の鳴き声のように聴こえましたね。この特殊楽器、他に使用している作品ってどんなものがあるのかしら。
客席はよく入っていました。まさかヴァレーズ目当てではないのでしょうが、新世界があることと、やはりアルブレヒト再登場を懐かしむ人たちが多かったんでしょう。
マエストロ登場と共に沸き起こった拍手には、“お帰りなさい、マエストロ”という気持が篭められていたような気がします。
アルブレヒト御大、最近流行りのクールビズ・スタイルというのでしょうか、ノーネクタイで開襟、表情も何処となくにこやかに見えましたね。
それは音楽にも言えることで、首席指揮者時代よりも肩の力が抜け、全体にリラックスした音楽造りが感じられます。オーケストラとの疎通も以心伝心、メンバーも楽しそうに演奏している様子でした。
冒頭にヴァレーズの野心作を置くのはアルブレヒトの真骨頂。普通の名曲を定期に並べるのに、一捻りも二捻りもしたプロと言えましょうか。
5管を主体にした大編成オケ。読響メンバー総動員で、オケの二人づついる首席クラスもほぼ全員舞台に乗っていたような感じでした。
打楽器はスコアには9人と指定されていますが、数えてみたら当夜は12人いたと思います。つまり分担を細かく分け、演奏難度を軽減したのではないでしょうか。何とも贅沢な演奏。読響って恵まれた環境にあるんだなぁ、ということを改めて実感しました。
それは後半のドヴォルザークでも感じたことで、例の第2楽章のイングリッシュホルンは、そのパートだけのために浦丈彦が待機していました。これなら第2オーボエは慌しく楽器を取り替える必要もないし、パートを途中で端折ってしまう誤魔化しもしなくて済む。些細なことでも、“カネのあるオケやなぁ”と、つい呟いてしまうのでした。もちろんチューバも第2楽章のためだけに準備されていましたよ。
前置きしたように、アルブレヒトと読響のコンビは、首席指揮者時代にはあまり感じられなかった余裕に満ちた演奏。オーケストラも世界のトップ・ファイヴに君臨するに恥じない名演奏で応えました。私が聴いた限りでは、アルブレヒトのベスト演奏と断言しても良いくらいの出来。どこにも文句の付けようがありません。
特に第2楽章の美しさが印象的でしたね。
ただ誤解を恐れずに指摘すれば、アルブレヒトの指揮は面白みに欠ける。感動というかスリルというか、サプライズは一つも存在しません。故に安定した名演奏が生まれるのですが、一生の想い出になるような性質の音楽ではない。巨匠と言うよりは、名トレイナーという印象。
(私的感想ながら、ベートーヴェンの第9やマーラーの第9のような至高の名曲では最高の感動にまでは至らなかったことを思い出しました)
聴いていて思い出したのは、オーマンディとフィラデルフィア管弦楽団のコンビ。何処から見ても最高のオーケストラ演奏なのですが、何か物足りない。アルブレヒトと読売日本交響楽団の関係は、これに近いような感じがします。
従って、これだけ充実したコンサートを聴き終えても、満腹感はありません。コンサートが終了したのが8時45分と、比較的短めだったことばかりが原因じゃないと思うのです。

 

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