競走中止と落馬、波乱の仏オークス
昨日の日曜日、ヨーロッパは英国を除くアイルランド、フランス、イタリア、ドイツでG戦が行われましたが、当欄はアイルランドとフランスを紹介します。
先ずはクラシック・レースのフランス、シャンティー競馬場から始めます。馬場は good 、気温が高かったというのがポイントになったようです。この日のG戦は3鞍でしたが、先に仏オークスをレポートしちゃいましょう。
通称フランス・オークス、ディアーヌ賞 Prix de Diane (GⅠ、3歳牝、2100メートル)は事前に枠順を紹介したように16頭立てで行われましたが、ゴール板を通過したのは14頭。スタートからゴールまでドラマに満ちたクラシックとなりました。
予想通り人気を二分したのはイギリスとアイルランドからの遠征馬。ミュジドラ・ステークス(GⅢ)に勝って3戦無敗、英オークスをネイブル Enable で制したジャドモント・ファーム/ジョン・ゴスデン厩舎のシャッター・スピード Shutter Speed が23対10の1番人気に推され、英国牝馬2冠で何れも2着だったロードデンドロン Rhododendron が17対5の2番人気で続きます。
地元フランス勢では、やはり2戦2勝ながらクレオパトラ賞(GⅢ)勝馬でゴールディコヴァ Goldikova の娘、テラコヴァ Terrakova が53対10の3番人気。4番人気以下は単勝10倍以上のオッズが付いていました。
一斉のスタートから15番人気(74対1)のハヤ・オブ・フォーチュン Haya Of Fortune が飛び出しましたが、2ハロンほど進んだ地点で14番人気(71対1)のノルマンディー Normandie が替わっての逃げ。レースが半ばに差し掛かった時、最初のドラマが起きます。先行グループの直後に付けていたロードデンドロンがズルズルと後退。すわ故障かと思われましたが、どうやら競走馬の宿命でもある鼻出血を発症した模様で、騎乗したライアン・ムーアが大事を取って馬を止めたのでした。幸いレース後の獣医の診断では問題がないとのこと。
2番人気の脱落で場内が騒然となりましたが、ノルマンディー先頭で直線。愈々勝負所と思われた時に第2のアクシデントが起きます。7番手で内を衝いた4番人気(104対10)のオンザムーンアゲン Onthemoonagain が残り300メートルで行き場を失って落馬、騎乗していたクリストフ・スミオンがコースに叩きつけられます。馬に付いてはその後の情報は入っていませんが、こちらも幸いにしてスミオンは無事、この後のレースも予定通り騎乗して事なきを得ました。
さてレース、外枠をデットーリが巧みに克服して本命シャッター・スピードが先頭に躍り出ると同時、中団の後ろ10番手の外を回っていた8番人気(218対10)のセンガ Senga が外から並び掛けて先頭。ここから伸び悩む本命馬を尻目に一気にリードを奪うと、後方から追い込んだ5番人気(121対10の)シスターチャーリー Sistercharlie に1馬身差を付けて鮮やかな逆転勝ちです。同じく後方からアクシデントにも拘らず末脚を爆発させたテラコヴァがハナ差の3着に食い込み、シャッター・スピードは1馬身及ばず4着に終わりました。
レースがゴチャ着いたことに対する審議が行われましたが、結局は入線通りで確定しています。因みに、女性騎手マリリン・イオンが騎乗したイエロー・ストーム Yellow Storm は、実績以上の11番人気(51対1)を集め、結果も8着と好走しました。
勝ったセンガは、パスカル・ベイリー師が管理し、ステファン・パスキエ騎乗。オーナーは団体名になっていますが、事実上は名門ニアルコス・ファミリーが所有しており、故スタヴロス・ニアルコス氏が残した偉大なファミリーを受け継ぐ1頭でもあります。プロフィールは後日紹介する予定。
仏1000ギニーのトライアルでもあるグロット賞(GⅢ)に勝って仏1000ギニーでは1番人気に支持されたほどの馬。残念ながらギニーは不本意な11着と惨敗し、続く2週間前のサンドリンガム賞(GⅡ)でも5頭立ての3着でしたが、その後の状態が極めて良いので敢えて初距離の仏オークスに挑戦したという経緯があります。ベイリー師は、ファミリーの伝統であるマイル路線に拘り過ぎたのかも、との反省の弁も。
ベイリー厩舎は2005年、やはりスタヴロス・ニアルコス所有のディヴァイン・プロポーションズ Divine Poroportions で制して以来2度目の仏オークスとなり、パスキエ騎手は念願の仏オークス初制覇となりました。
8週間で4走をこなしたセンガ、この後は休養を取って秋へのステップへ。8月のドーヴィルで行われるジャック・ル・マロワ賞が次走の有力候補に上がっているようですが、マリア・ニアルコス、エレクトラ・ニアルコスとファミリーのレーシング・マネージャーが合議の上に決定することになるでしょう。
仏オークスは以上で、次はクラシックの前に行われたG戦2鞍を取り上げましょう。
先ずオカール賞 Prix Hocquart (GⅡ、3歳牡牝、2400メートル)ですが、本来はロンシャン競馬場の2200メートルで、仏ダービーのトライアルの一つだったもの。去年は5月15日、仏ギニー当日にドーヴィル競馬場の2000メートルで行われていますが、またまた条件が変わっての一戦。5頭が出走し、前走リス賞(GⅢ)2着のアイス・ブリーズ Ice Breeze が19対10の1番人気に支持されていました。
最低人気(99対10)のファルコン・ウイングス Falcon Wings が逃げ粘りましたが、中団待機から一旦は最後方にまで下げたアイス・ブリーズが追い上げ、同じく後方2番手から伸びた4番人気(33対1)のシャキール Shakeel を頭差抑えて人気に応えました。ファルコン・ウイングスが4分の3馬身差で逃げ粘っての3着。
これで4戦2勝2着2回となるアイス・ブリーズも、後で仏オークス調教師となるパスカル・ベイリー厩舎で、こちらはヴィンセント・シャミノー騎乗。オーナーは仏オークス本命馬と同じハーリッド・アブダッラー氏(ジャドモント・スタッド)です。
最後に取り上げるのが、ベルトラン・デュ・ブレイユ賞 Prix Bertrand du Breuil (GⅢ、4歳上、1600メートル)。ここは7頭が参戦し、厩舎に流行したヘルペス・ウイルスのためシーズン始動が遅れたジャン・プラ賞(GⅠ)勝馬のゼルザル Zelzal がイーヴンの1番人気。
ダッシュが良かったのは本命馬と同厩の3番人気(51対10)ターリーフ Taareef でしたが、300メートルほど進んだ地点で4番人気(69対10)のブラック・マックス Black Max が掛かり気味に先頭に立っての逃げ。一旦2番手に控えたターリーフが直線で再び先頭に立つと、後方2番手から追い込むゼルザルを1馬身4分の3差抑えての優勝。3番手を進んだ5番人気(114対10)のシユーシェイク Siyoushake が半馬身差で3着に入りました。
結果ワン・ツー・フィニッシュとなったジャン=クロード・ルジェ厩舎は、上記の様にウイルスの蔓延で一時は厩舎存続も危ぶまれたほど。その災禍を克服し、漸くシーズンが始まったという気持ちでしょう。
イオリッツ・メンディザバルが騎乗したターリーフは、去年の仏2000ギニーの7着馬で、ギニーの後ダフニス賞(GⅢ)に優勝。一つ置いてダニエル・ウイルデンシュタイン賞(GⅡ)も制して3歳シーズンを終えましたが、疫病のためここがシーズン初戦となりました。
ターリーフとゼルザル、順当にシーズンをスタートさせた2頭が活躍するのはこれから。夏から秋にかけてはルジェ厩舎の馬に要注意と言えそうです。
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