読売日響・定期聴きどころ~09年4月

読売日響・聴きどころシリーズを2年チョッと、正確には2シーズンと3ヶ月に亘って定期演奏会と名曲シリーズについて続けて参りましたが、この企画もそろそろ潮時が来たのではないでしょうか。
多少マンネリに陥っている感がありますし、新シーズンの曲目を概観すると、既に「聴きどころ」を紹介した作品が少なからず取り上げられていますしね。更に最近では機関誌「Orchestra」の曲目解説も充実してきているようです。

そこで2009年4月以降は、特に紹介しておきたい作品に限って取り上げることにしたいと思います。

まず4月、名曲シリーズはベートーヴェンの交響曲2本立てですから、「聴きどころ」はお休みしましょう。

定期演奏会は下野竜也の指揮で日本人作品が取り上げられます。没後20年の芥川作品と生誕80年の黛作品。それに読売日響の委嘱になる藤倉作品の世界初演というプログラム。

このコンサートについては、「Orchestra」2月号に《読売日響ピックアップ・プログラム》として西耕一氏が既に作品解説や聴きどころを書かれています。
恒例の日本初演についても写真入で紹介されていますので、詳しくはそちらをご覧下さい。

ここではこの解説に書かれていないことを補足することで「聴きどころ」と致します。

芥川也寸志の「エローラ交響曲」、楽器編成は以下です。

フルート3(3番奏者ピッコロ持替)、オーボエ3(3番奏者イングリッシュホルン持替)、クラリネット3(3番奏者バスクラリネット持替)、ファゴット3(3番奏者コントラファゴット持替)、ホルン6、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、打楽器6人、ハープ、ピアノ、チェレスタ(ピアノ奏者が兼務)、弦5部。

以上は全音楽譜のホームページのレンタル楽譜カタログに掲載されているものです。打楽器の詳細は記されていません。

楽譜は一般に販売されていませんので、私はスコアを見たことがありません。CDなどの解説によると、2月号の作品解説にあるアダージョ楽章は「女」を意味し、アレグロ楽章が「男」を表すのだそうです。
全20楽章の組み合わせということですが、実際には15だか16だかの断片を定着した順番で演奏する版が作られた由。今回はどういう形で取り上げるかについては、恐らく当日のプログラムで紹介されるでしょう。

いずれにせよ「女と男」。“男は身を固く狭めて、身を開いた女に向かってゆく” という解説もあるくらいですから、かなりエロティックな作品だと想像されます。楽しみですな。

黛敏郎の「涅槃交響曲」もオーケストレーションを書き出しておきましょう。

これは先ず3つのオーケストラで構成されるところがポイントで、第1グループと第3グループは舞台脇などに分散されて置かれます。舞台に乗るのがメインボディーである第2グループ。

第2グループの編成は、

ピッコロ・フルート・バスフルートを持ち替えて使用する奏者2人、フルート、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン3、トランペット3、トロンボーン3、打楽器4人、チェレスタ、ハープ、ピアノ、弦5部、12声部に分かれた男声合唱(6人のソロを含み、60人から120人の規模)。打楽器は、ティンパニ、シロフォン、チューブラー・ベル、ヴィブラフォン、クラッシュ・シンバル2、サスペンディッド・シンバル、タムタム(中型)です。

第1グループは、ピッコロ2、フルート、クラリネット2、ESクラリネット、グロッケンシュピール、橇のベル。
第2グループは、ホルン3、トロンボーン3、チューバ、コントラバス2、タムタム(大型)。

以上の大編成で、スコアの扉にはオーケストラの配置について二つの案が示されています。
当日ホールに着いたら、まず別働隊が何処に置かれるのか確認しておくことをお勧めします。

スコアはペータース社から出版されていますが、表紙には Nirvana Symphony (Buddhist Cantata) と表記されています。
合唱と言っても、いわゆる西洋クラシックの音程、ハーモニー、リズムがキチンと揃ったものではありません。むしろ「お経」を連想された方が近道でしょう。

涅槃交響曲が初演された頃は何度も放送されていましたから、私も繰り返し聴いた記憶があります。
一見すると相当な難曲のように見えますが、楽譜を追って見るとそれほど複雑な作品とも思えません。
例えば第1楽章は変拍子の連続。冒頭から5・4・7・3・6・2・1・2---という具合に、小節毎に拍子が変わっていきます。時には2と2分の1とか、4と3分の2などというのも出てきますが、数え間違いにだけ注意すれば、追いかけるのは比較的に容易です。

聴きどころを1箇所挙げるとすれば、何と言っても第2楽章でしょう。
テノールのソロが、“なぁ~むぅ~ぼぉ~ぎゃぁ~ぼぉ~てぃぃ~” と歌い出すと、バス・バリトンが唱和して行く。ここを繰り返し聴いていくと、いつしか呪術的な世界に惹き込まれて行く自分に気が付くのです。

最後に、読売日響が藤倉大に委嘱した新作「ATOM」については当日のプログラムを楽しみに待ちましょう。
藤倉大については、作曲者自身のホームページを紹介しておきます。

http://www.daifujikura.com/

サウンドクリップをクリックすると、これまでの作品を聴くことができます。
小川典子によって初演された「リターニング」、芥川作曲賞にノミネートされた「ヴァニシング・ポイント」などは特にお薦め。私もナマで体験した作品です。

以上、4月定期は日本の現代作品尽くし。「三人の会」の2人、政治的に右翼(黛)、左翼(芥川)でありながら友情で結ばれていた二人。その芥川を記念した作曲賞にも縁のある藤倉。
一晩のコンサートとしての繋がりもシッカリ意識されている好プログラムではないでしょうか。

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