スーパー・スターの凱旋門賞

10月1日、シャンティー競馬場、今年もヨーロッパ競馬のクライマックスがやってきました。去年はアイルランドのチャンピオン・ステークスに主役の座を奪われた感のあった凱旋門賞ですが、今年は話題と言いレヴェルと言い、文句なくヨーロッパ最高峰の地位を取り戻したレース内容でした。
フランスの、そしてヨーロッパ最大の競馬の祭典、日本では凱旋門賞だけに関心が集まりますが、一日6鞍のG戦は全て最高格のGⅠ戦で、ここではレースが行われた順にレポートしていきましょう。
馬場状態は予報通り soft で、この時期らしく各馬の能力がいかんなく発揮されるコースでもありました。

最初はマルセル・ブーサック賞 Prix Marcel Boussac (GⅠ、2歳牝、1600メートル)。7頭立てとやや寂しいメンバーでしたが、アイルランドからオブライエン厩舎が送り込んだマジカル Magical が7対5の1番人気。前走モイグレア・スタッド・ステークス(GⅠ)は2着でしたが、勝ったハッピリーは次のジャン=リュック・ラガルデール賞で牡馬に挑戦する道を選んだため、ここはライアン・ムーアも迷うことなく彼女をチョイスしました。
オマール賞(GⅢ)勝馬で4番人気(43対5)のスーストラクション Soustraction が逃げましたが、外の2番手を追走していた6番人気(155対10)の伏兵ワイルド・イリュージョン Wild Illusion が残り2ハロンで抜け出し、中団の内から外に持ち出して伸びる2番人気(9対5)で2戦無敗のポリドリーム Polydream に1馬身半差を付ける小波乱。中団の外から伸びた3番人気(8対1)のミッション・インパッシブル Mission Impassible が頭差の3着に入り、3番手の内に付けていたマジカルは4着に終わりました。

サプライズを演出したワイルド・イリュージョンは、ゴドルフィンの所有馬で英国のチャーリー・アップルビー厩舎、ジェームス・ドイル騎乗。ヤーマスの1マイル戦でデビュー勝ちし、2戦目の前走はオマール賞、今回は逃げて6着に沈んだスーストラクションの3着に敗れていました。その実績から人気薄だったのは当然でしょう。このレースには2万1千600ユーロの追加登録料を支払って参戦したということで、陣営では期するところがあったのでしょう。アップルビー師はマルセル・ブーサック、去年のヴヘイダ Wuheida に続く2連覇です。ワイルド・イリュージョンには、来年の1000ギニーに14対1、オークスには16対1のオッズが出されました。

続いても2歳馬のGⅠ戦で、こちらは牡馬を対象にしたジャン=リュック・ラガルデール賞 Prix Jean-Luc Lagardere (GⅠ、2歳牡牝、1600メートル)。出走頭数は6頭とやはり少なくなりましたが、前項で触れたように、牝馬のハッピリー Happily が果敢に牡馬に挑戦するとあって7対5の1番人気。マルセル・ブーサックと同じオブライエン/ムーアのコンビです。
逃げたのは連勝を狙ってゴドルフィン/アップルビー厩舎の5番人気(108対10)ミシカル・マジック Mythical Magic 。本命ハッピリーはスタートで他馬にぶつけられて後方からの競馬と苦しい流れになりましたが、2番手でマークした3番人気(31対10)のマサール Masar と、内の3番手に付けた2番人気(5対2)のオルメド Olmedo が抜け出しての先頭争いを残り1ハロンであっさり交わすと、競り合いに勝ったオルメドに1馬身4分の1差を付けて見事人気に応えました。短首差でマサールが3着。

これで前走モイグレア・スタッド・ステークスに続きGⅠ戦2連勝としたハッピリー、ブックメーカーは直ぐに反応して来年のクラシックのオッズを上昇させています。即ち1000ギニーは6対1、オークスは7対1で、マルセル・ブーサックのワイルド・イリュージョンよりかなり上の評価を下しました。そもそも牡馬相手にフランス遠征するという計画はラッドたちが立てたもので、次はアメリカのBCに遠征するという企画が出てくるかもしれません。

そして凱旋門賞 Prix de l’Arc de Triomphe (GⅠ、3歳上牡牝、2400メートル)。去年はオペラ賞が先に行われましたが、今年は入れ替えて凱旋門賞がこの日三つ目のGⅠ戦です。事前に枠順を紹介した18頭が取り消しも無く揃い、予想通りイネイブル Enable が4対5と単勝2倍を切る断然の1番人気に支持されていました。面白いことに、単勝10倍以下なのは本命馬只1頭で、2番人気に上がったウインター Winter でさえ114対10。イネイブルは勝てるか、という段階ではなく、何馬身差で勝つか、という興味のみ。実際にそういう賭けもあったほどでした。問題があるとすれば、春のクラシックからGⅠ戦に勝ち続け、ピークが過ぎたのではないか、ということ位。既にオンタイムでレースをご覧になった方がほとんどでしょうから、その不安は全く感じさせませんでしたね。

レース内容を詳しく振り返ることもありますまい。オブライエン・チームのペースメーカー10番人気(36対1)アイダホ Idaho を早めにマーク、ある時は2番手、流れに応じて4番手辺りを楽走していたイネイブル、直線に向くと力の違いは歴然でした。何かに交わされるという心配は皆無、あっと言う間に抜け出すと、中団から追い上げる8番人気(209対10)クロース・オブ・スターズ Cloth Of Stars に2馬身半差を付けて堂々のチャンピオンに就きました。1馬身4分の1差で本命馬をずっとマークしていた3番人気(121対10)のユリシーズ Ulysses が3着に入り、2番手を進んだ4番人気(141対10)のオーダー・オブ・セントジョージ Orser Of St George が今年は4着、そしてフランスの期待7番人気(174対10)ブラムトー Bramtot は5着。
ムーアが選んだウインターは内を衝くも9着に終わり、ドイツの期待5番人気(145対10)ジンギス・シークレット Dschingis Secret  が6着で、我らがサトノダイヤモンド(217対10、9番人気)は15着、サトノノブレス(108対1、最低人気)も16着と仲良く討ち死にです。とは言っても両馬ともイネイブルからは11馬身差でしたから、惨敗、完敗という表現にはならないと思いますがどうでしょうか。要するにイネイブルが強過ぎた、ということでしょう。

これが2勝目のジョン・ゴスデン師、5度目のランフランコ・デットーリは共に余裕綽々、勝って当然という受け答えが何とも大人でした。恐らくイネイブルは今期はこれで終了でしょう。オーナーであるハーリッド・アブッダッラー氏のジャドモント・スタッドで繁殖入りし、同じオーナーの生産馬フランケル Frankel に配合するという夢もありますが、どうやら来年も現役に留まって、新装なったロンシャン競馬場で凱旋門賞2連覇を目指す、というプランが現実的なようです。凱旋門賞の歴史の中で2連覇した馬は多けれど、もし来年イエイブルが達成すれば、シャンティーとロンシャンで連覇と言う事例は空前絶後のことになるでしょう。

凱旋門賞はここまでにして、次はオペラ賞 Prix de l’Opera (GⅠ、3歳上牝、2000メートル)。1頭が取り消して13頭立てとなり、アイルランドから態々デルモット・ウェルド師が送り込んだアガ・カーンのシャムリーン Shamreen が4対1の1番人気。GⅡとGⅢながらG戦に2連勝中の4歳馬です。狂うとすれば、近年このレースは3歳馬が圧倒的に優位で、クラシック世代にも強力なメンバーが揃っていること。
レースは10番人気(238対10)の4歳馬ザ・ブラック・プリンセス The Black Princess の逃げで始まり、最後は先行した馬たちによる大混戦。結局は6番人気(92対10)のロードデンドロン Rhododendron が2番人気(42対10)のハイドランジア Hydrangea に頭差で優勝し、3着の11番人気(39対1)のレディー・フランケル Lady Frankel も首差という緊迫したゴール。4着8番人気(126対10)のヴヘイダ Wuheida まで上位は全て3歳馬で、シャムリーンは13着大敗に終わりました。

エイダン・オブライエン厩舎のワン・ツー・フィニッシュでしたが、ジョッキーは勝馬にシーミー・ヘファーナン、2着はライアン・ムーア。ハイドランジアは前走マトロン・ステークス(GⅠ)を制しており、ロードデンドロンは同じレースで7着に敗退していたというのが人気の違いですが、ロードデンドロンは1000ギニー2着、オークスでもイネイブルの2着していた実力馬。春の状態に戻った同馬が、凱旋門賞の結果を見て奮い立った、とでもいうことでしょうか。2頭ともアスコット、アメリカへと挑戦が続くようです。

最後から2番目のアベイ・ド・ロンシャン賞 Prix de l’Abbaye de Longchamps (GⅠ、2歳上、1000メートル)は13頭立て。去年の勝馬で、前走ナンソープ・ステークス(GⅠ)も快勝している英国のマーシャ Marha が23対10の1番人気に支持されていました。
レースは二手に分かれ、ダッシュ良く飛び出した2番人気(33対10)のバターシュ Battaash が有無を言わせない逃げ切りの圧勝。後方2頭の1頭だった本命マーシャも猛然と追い上げましたが、勝馬に4馬身離された完敗の2着でした。馬場の中央グループの先頭を走っていた4番人気(78対10)のプロフィタブル Profitable が首差の3着に食い込み、人気上位馬が上位を独占する順当な結果で収まっています。終わって見れば短距離に強い英国馬の5着まで独占。

チャールズ・ヒルズ厩舎、イギリスのチャンピオン・ジョッキーであるジム・クロウリーが騎乗したバターシュは、前走ナンソープこそマーシャの4着に敗れたものの、その前はG戦2連勝を含めて3連勝していた3歳馬。短距離界でも3歳馬優位が証明された形です。アスコットのブリティッシュ・チャンピオンズ・スプリントに5対1、BCターフ・スプリントにも5対1、そして来年のキングズ・スタンド・ステークスには7対2のオッズが出されました。

そしてロンシャン競馬フェスティヴァルの最後は、ラ・フォレ賞 Prix de la Foret (GⅠ、3歳上、1400メートル)。10頭が出走し、去年のジャン・プラ賞(GⅠ)勝馬で前走サセックス・ステークス4着のゼルザル Zelzal が19対10で1番人気。
本命馬のペースメーカーを務める、同じアル・シャカブ所有の4番人気(83対10)で去年の2着馬カラール Karar が逃げてペースを創りましたが、後方を進んだゼルザルは3番手まで押し上げるもそこで一杯。替わってインコースを先行していた2番人気(16対5)のアクレイム Aclaim が抜け出すと、中団5番手から追い込む8番人気(32対1)の伏兵ソー・ビラヴド So Beloved に4分の3差を付けて優勝。逃げたカラールは短頭差で今年は3着に粘り、人気のゼルザルは6着に沈んでしまいました。なお日本から遠征していた川田騎手がヴァリアン厩舎のレアルトラ Realtra で参戦していましたが、腕を見せる間もなく10頭立ての最下位に終わっています。

勝ったアクレイムは又しても英国のマーチン・ミアード厩舎、オイジン・マーフィー騎乗の4歳馬で、前走ドンカスターのパーク・ステークス(GⅡ)に続いてG戦2連勝。その前はフランスの短距離GⅠ戦モーリス・ド・ギースト賞で2着しており、チャンピオン・スプリントに10対1のオッズが出されました。ミアード師にとっては、これが念願のGⅠ戦初制覇でもあります。師は感激のあまり涙。アクレイムの今シーズンはこれで終了、と思わず叫びましたが、アスコットでGⅠ戦再挑戦の芽が消えたわけではないでしょう。

以上が今年の凱旋門賞ウィークの結果ですが、6鞍のGⅠ戦のうち、4鞍が英国調教馬。残る2鞍は何れもアイルランドのオブライエン厩舎が勝ったということで、地元フランスは顔色無し、という週末でもありました。

 

 

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