サルビアホール 第89回クァルテット・シリーズ

今年も師走に入り、最初のコンサート通いはやはり鶴見。サルビアホールのクァルテット・シリーズ、シーズン27の2回目アトリウムQでした。

ブラームス/弦楽四重奏曲第1番ハ短調作品51-1
ヴィトマン/弦楽四重奏曲第3番「狩の四重奏」
     ~休憩~
チャイコフスキー/弦楽四重奏曲第1番ニ長調作品11
 アトリウム・クァルテット

ロシアの若手、と言っても早くも結成から17年、今やヴェテランの部類に入るアトリウムは、サルビア二度目の登場。4年前の同じ12月、前回の感想をご覧ください。↓

サルビアホール クァルテット・シリーズ第26回

4年前と違っていたのはファースト。前回はアレクセイ・ナウメンコでしたが、今回の来日ツアーでは2代目(恐らく)のセルゲイ・マーロフ Sergey Malov と発表されていました。鶴見以外の公演チラシもマーロフとなっていましたが、当日手渡されたプログラムにはボリス・ブロフツィン Boris Brovtsyn に変更になった旨の記載が。理由は特に明示されていませんが、ファーストが交替したのではないのは、彼らのホームページでも一切記載がなく、写真もマーロフのままであることから間違いないでしょう。今回は特別にブロフツィンがピンチヒッターを務めたと理解して良さそうですね。

本来のメンバーで聴けなかったのは残念ですが、ブロフツィンも1977年生まれですから、見かけとは違って(失礼!!)未だ40歳。他の3人とは同じ世代で、テクニックは遜色ありません。モスクワ音楽院を首席で卒業した逸材で、在学中からケルンのコンクールやメニューイン・コンクールで優勝し、その後もティボール・ヴァルガ国際ヴァイオリン・コンクールで優勝するなど輝かしいキャリア。ソリストとしても室内楽奏者としても活躍しており、ナクソス図書館でもかなりの音源を聴くことが出来ます。この夜のアンダンテ・カンタービレでも素晴らしい音色を聴かせてくれました。

アトリウムQとしての今ツアーは、京都(青山バロックザール)と東京(紀尾井ホール)とではピアノのヴィルスラーゼとの共演でショスタコーヴィチとシューマンのピアノ五重奏を中心にしたプログラム、大阪と鶴見が同じプロ、そして武蔵野ではチャイコフスキーの代わりにブラームスの2番と言うプログラムだったようです。サルビアホールがツアーの最終日でした。
赤いドレスに長身を包んだチェロのアンナが颯爽と男性3人を引き連れて登場、という印象のアトリウム。先ずは彼らが本拠にしているドイツを代表するブラームスから。

曲目解説にもあったように、ブラームスが最初の弦楽四重奏曲を発表したのは40歳になってから。それまでにもかなりの数の室内楽作品を世に問うていましたが、それらはトリオ、ピアノ四重奏やピアノ五重奏、弦楽六重奏曲など、ベートーヴェンが余り手掛けていないジャンルばかりです。交響曲と同じように弦楽四重奏曲にはベートーヴェンと言う大きな壁があり、ブラームスとしては容易に取り組めない領域でした。
ハ短調の第1番は、3部形式の第3楽章を別にすれば全てソナタ形式ですが、第1楽章を除いては敢えて展開部を避け、ベートーヴェンと比較されることを回避しているようにも思われます。言わば「逃げ」でしょうが、それがまたブラームスの個性。アトリウムは第1番の構成の弱さには目を瞑り、作品のブラームスらしさ、シンフォニックな性格に光を当てるべく演奏していたように聴きましたが、どうでしょうか。今回はファーストがピンチヒッターと言うことでもあり、アンサンブルがシックリ行っていないようにも感じられました。

前半は続いてヴィトマンの人気作品が選ばれました。この作品、サルビアではミンゲットQに続く2度目の体験ですが、日本でも様々な団体が取り上げているようで、ヨーロッパではスタンダードなレパートリーとして定着しつつある由。4人で弓を強く5回振り、「Hai !!」の掛け声とともに狩りに出発、という出だし。初めて体験される方は間違いなく驚かれるでしょうね。
ミンゲットQによるヴィトマン弦楽四重奏全集がNMLで配信されていますが、そのブックレットによると、ヴィトマンは8年間で5曲の弦楽四重奏曲を作曲し、その5曲が夫々一つの四重奏を構成する5つの楽章として考えられているのだそうな。5曲とも単一楽章で、第2番「コラール四重奏曲」は緩徐楽章に、第3番がスケルツォに相当します。最後の第5番は「フーガの試み」と題され、ソプラノ独唱が加わる5曲の中では最も長い25分ほどの作品であり、終楽章の位置づけ。

今回、私は予習と言う名目で全5曲を聴いてみましたが、なるほどと思いました。第3番は「狩の四重奏」となっていますが、このタイトルはハイドンにもモーツァルトにもあるもので、いわば伝統的な弦楽四重奏曲への敬意とも考えられましょう。もちろんハイドンもモーツァルトも登場はしませんが、シューマンのピアノ曲「蝶々」からの引用がハッキリと聴き取れるのも人気の秘密でしょうか。因みにミンゲットのCDには「1分間に180回」という短い作品(弦楽四重奏にチェロが2本加わる)も含まれていて、ここにも掛け声や様々なノイズが含まれていて、第3番と同質な作品です。
アトリウムの場合、獲物となるチェロは女性ですから、別の意味で面白かったと言えそう。何れにしてもこの作品は音だけ聴いていても楽しさは半分以下。実際にプレイヤーが演奏する姿を見てこその音楽・演奏でしょう。予習でも感じたことですが、いずれはヴィトマンの弦楽四重奏曲全曲(5曲)演奏会を聴いてみたいもの。5曲の中の1曲として体験してこそ、この曲の本来の意義が理解できるのでは、と思ったのも事実です。

なお、今回ヴァイオリンの二人はタブレットにダウンロードしたパート譜を使いましたが、ブロフツィンが演奏前に画面操作を何度も確認する様子に、客席からも忍び笑いが・・・。また曲の中間点で、セカンドのアントンがヴィオラの譜面をひっくり返す光景(特別に張り付けたパート譜を使用)もあったりして、これは見て楽しむ作品だと改めて思いましたね。

さて後半は、お国モノのチャイコフスキー。前回の来日ではチャイコフスキー3曲の全曲演奏会を行い、サルビアでも第3番を弾きましたが、今回は有名な第2楽章を含む第1番。ファーストが代理とは言え、チャイコフスキーは流石でした。
ブラームスにも共通することですが、彼らの解釈はあくまでもシンフォニックなもので、室内楽と言うより交響曲を聴いているような印象。ブラームスは第2と第4交響曲の室内楽版という感想を持ちましたが、チャイコフスキーは第1と第4交響曲を思い出させます。特に第1楽章コーダ、 Allegro non troppo ma con fuoco に入ってからの追い上げと、第4楽章コーダ Allegro vivace からの切迫感は真にスリリング。ロシアン・パワー全開にアトリウムの本領を見た・聴いた想いがしました。

アンコールはボロディンの第2弦楽四重奏曲から、第3楽章「夜想曲」。次は本来のメンバーで全曲を聴けることに期待しましょう。
ところで今回の2曲、ブラームスとチャイコフスキーの1番は、会場でも販売されていた彼らの最新CDでもカップリングされています。そのジャケットには、ブラームス「対」チャイコフスキー、とあるのが暗示的。あくまでも vs であつて and でも with でもない。ブラームスとチャイコフスキーを対比して見せることが、アトリウムのメッセージだったのでしょう。この盤、NMLでも試聴できますから、聴かれた方も聴き損なったファンも是非試してみては如何。

 

 

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