河村尚子リサイタル@浦安音楽ホール

去年の春に新浦安に誕生した浦安音楽ホール、これまでレジデンシャル・アーティストを務めるクァルテット・エクセルシオを中心にコンサート、ホール内覧会、リハーサルなどを体験してきましたが、もう一つ気になっていたのが、同じくレジデンシャル・アーティストである仲道郁代氏が選定したというホール常設のピアノ。内覧会でもスタインウェイとヤマハ、2台のフルコンサートグランドの姿は拝みましたが、未だ実際の音は聴いていませんでした。
そこで出掛けたのが、2月12日にマチネーとして開催された河村尚子のリサイタル。普段はピアノのソロ公演には出掛けない私ですが、期待を胸に出掛けてきました。

J・S・バッハ/羊は安らかに草を食み
J・S・バッハ/パルティータ第1番変ロ長調
ブラームス/間奏曲イ長調作品118-2
ブラームス/バラードト短調作品118-3
ブラームス/間奏曲ホ長調作品116-4
ブラームス/奇想曲ト短調作品116-3
     ~休憩~
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番ハ短調作品13「悲愴」
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調作品27-2「月光」

前半にバッハとブラームス、後半はベートーヴェンの二大ピアノ・ソナタという、昔風に言えば三大Bによるコンサート。リサイタルのキャッチコピーは、「河村尚子の現在を聴く、~ベートーヴェンを中心に~」というもの。河村が選んだのはスタインウェイでした。
このホールのチケット販売は先ず申し込み、次いで抽選というもので、座席を指定して買うことは出来ません。席は全てお任せと言う変わった方法なのですが、今回当選したのは前から2列目のど真ん中。スタインウェイを聴き尽くすには絶好の位置取りで、初めて聴く最新モデルのスタインウェイを堪能できました。私はピアノには全く暗いのですが、天井の高いホールに包まれたピアノ・サウンドは癖になりそう。これからも機会があれば出掛けて見たいと思います。

ピアノ作品に付いては、大した感想は書けません。それでも河村が表情豊かに、強靭なテクニックを駆使して三大Bの世界を描き切っていたことは聴き取れました。冒頭のバッハ、いわゆる「狩りのカンタータ」に含まれる楽章をピアノ用にアレンジした小品に続き、間髪を入れずにパルティータへ。このパルティータも6つの楽章を通して一気に弾き、各楽章の性格付けが見事。特にサラバンドが感動的で、バッハ作品を現代ピアノで聴く醍醐味を味わいます。

一旦舞台裏に戻り、ブラームス。前日も同じ曲を鵠沼で聴きましたが、もちろんピアノ自体も音響空間も別。全く別の曲のように聴こえてくるのも、ピアノ鑑賞の楽しみなのでしょう。
今回選ばれた4曲は、いずれもブラームス晩年の小品集から。当然ながらアットランダムに並べたのではなく、4作品をあたかも一つのソナタのように構成しているのは明らか。調性への配慮、各小品の性格に変化を持たせ、渋いブラームスの世界に一種の華やぎを持ち込んでいたのが印象的でした。

後半は言わずもがなの名曲。パワフルな和音をすぐさま弱音に落とすテクニック、河村の表現力が見事であることに加え、楽器の性能の良さも与って大きな表現力が生まれるのでしょう。ここは改めてベートーヴェンの凄さに仰け反ってしまいました。
比較的短めなリサイタル、当然ながらアンコールも用意されています。同じドイツ作品で、バッハのフルート・ソナタ(BWV 1031)から有名なシシリアーノをケンプがピアノ・ソロ用にアレンジしたもの。往年の大ピアニストであるケンプは私も何度か聴きましたが、普通に「けんぷ」とカタカナ発音をしてしまいます。しかし河村は「Kempff」と、「f」が聴き取れる正統派の発音。さすがにドイツ生活が長い彼女ならではと感心してしまいました。
コンサート終了後のサイン会にも長い列ができ、彼女の絶大な人気を反映。ピアノもいろいろ聴いてみようかな。

 

 

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