サルビアホール 第92回クァルテット・シリーズ

改めてサルビアホールのチラシを眺めると、シーズン28の3回は日本の団体、乃至は日本人が複数参加しているグループで構成されていることが判ります。選ばれている作品も室内楽の王道、または名曲と呼ばれている作品がほとんどで、初めて聴くような新しモノはなく、バルトークが最も現代に近い作曲家であることにも気付きました。
先週のアマービレに続いて鶴見を沸かせたのは、何とこれがサルビア登場4回目、4年連続というQBT、クァルテット・ベルリン=トウキョウです。

ハイドン/弦楽四重奏曲第64番ニ長調作品76-5「ラルゴ」
バルトーク/弦楽四重奏曲第1番
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第9番ハ長調作品59-3「ラズモフスキー第3」
 クァルテット・ベルリン=トウキョウ

彼らの衝撃的な初登場は2015年の2月、これをスタートにして毎年出演を果たし、全てが2月というのが面白い所。もちろん札幌・六花亭ふきのとうホールとの絡みもあるのでしょうが、2月は鶴見でQBTを、というのが合言葉になりそうですね。
これまでの3回を振り返ると、恰も最初から意図されていたような選曲であることにも注目。即ちハイドンとベートーヴェンに近現代の作品を組み合わせるというもの。その新しモノ、最初は細川作品でしたが2回目からはバルトークで、今回で1・3・6と半分を聴けたことになります。ベートーヴェンも徹底していて、これでラズモフスキー3曲シリーズが完結し、セリオーソも2016年に取り上げましたから、次はハープでしょうか。
またハイドンも初回の作品33-4のあとは作品76に集中、名前付きの皇帝、日の出、ラルゴと引き継がれ、来年は五度でしょ、と予想も立てられるほど。もちろん偶然でしょうが、プログラムの組み立てにもQBTならではの拘りがあると、と読みました。

去年は交替して間もないヴィオラのケヴィン・トライバーが左手の小指を負傷、3本指で弾くという神業を披露するハプニングがありました。今回はそのようなことはなく、すっかりメンバーとして定着した4人の見事なアンサンブルが復活しています。4人のプロフィールに付いては、当ブログ内で過去の3回を検索してください。
それでも今回、一点変わったことがあり、セカンドとヴィオラの位置が入れ替わっていました。つまりヴァイオリンが対向配置を採ることになり、ファースト→ヴィオラ→チェロ→セカンドの並び。この形は比較的珍しく、クァルテット・エクセルシオと同じですね。彼らのフェースブックなどを見ると、去年の11月にはこの配置になっていたようです。

QBTの大きな特徴は、演奏する作品を厳選して徹底的にアナリーゼを施し、細部まで緻密に磨き込んで寸分の揺るぎも無いように創り上げること。彼ら独自の解釈もあって、一聴すると自由奔放に弾いているようにも取れますが、実は細かい計算が働いています。もちろん良い意味で・・・。
得意のハイドンで例を採ると、第3楽章のメヌエット。ニ長調の主部に対してニ短調のトリオが置かれますが、このトリオを主部より速いテンポで弾き、スケルツォ的な性格を持たせる。それは主導するチェロの表情の変化を見ても知れるでしょう。続く第4楽章は、欣喜雀躍するような超特急のプレスト。ここは全員が音楽するのが楽しくてたまらん、とでもいうような表情に変わる。
QBTは調性の変化、その色彩にも敏感で、綽名の由来ともなっている第2楽章のラルゴ。ニ長調が主調のこの作品で、ラルゴ楽章は♯が6つも付いた嬰へ長調なのですが、この音程の取りにくい楽章をいとも楽々と弾き、単にメロディーの美しさだけが愛称の所以ではないことに気付かせてくれるのでした。

続いて演奏されたバルトークは、そうしたQBTの分析力、構成感が最も顕著に表現された実例。作品の構成に不案内な人でも、バルトークが意図した作品の形が手に取るように聴き分けられたに違いありません。
バルトークは時に「むつかしい」等として毛嫌いする人もいますが、これほど東洋人にとって血が騒ぐ作品もないほど。それを実感させてくれるQBTのDNAに拍手喝采を贈りましょう。

後半は彼らのラズモフスキー完結編。予想したように全体が速いテンポで進められますが、少しも慌てた感じには聴こえないのが、しっかりとしたアナリーゼに基いた納得尽くしの速度だから。テンポが速い分、ベートーヴェンとしては軽さを感ずることもありますが、これは個人的な趣味の問題でしょう。時代の流れ、と言い換えられるかもしれません。
ベートーヴェンが終楽章に付けた速度記号は Allegro molto 。つまり very quickly という意味で、この速度がダッシュ良く飛び出すケヴィンにとってのモルトなのでしょう。次々に加わる3人たちも、このベートーヴェン特急を楽しんでいるよう。聴き手もこのスピードに気持ち良く乗っていると、いつしか第4楽章はダンスなのだと思い当たります。そう、古典派の多くは4楽章構成の場合、前半の2楽章は比較的真面目な音楽であるのに対し、後半2楽章はメヌエットだつたりロンドだったりと、舞曲風なスタイルで書かれるのが伝統でもありました。ラズモフスキーを書いていた頃のベートーヴェンは、未だ心の片隅でこの伝統に敬意を払っていたのだろう、ということを考えてしまうQBTのラズモフスキーでした。

アンコールは毎回思いがけないものを選んでくる彼等ですが、今回はオーソドックスに、モーツァルトの不協和音から第2楽章。今回のツアーの締め、六花亭で開く2回のコンサートの一つで全曲演奏する作品です。
彼らのフェイスブック、去年は初録音を果たしたように読めましたが、未だ販売には至っていないようです。それでも今回はサイン会が行われましたが、4人ともホワイエに出てくるなりファンや友人・知人が殺到。彼方此方で歓談の和が花開いてしまい、プロデューサーが何度促しても中々サインが始まらないという珍しい光景が展開していました。来年の2月、5年連続になるのかなぁ~。

 

 

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