サルビアホール 第78回クァルテット・シリーズ

6月8に始まったロータスQによるベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会、土日を挟んで6月12日の月曜日、第3夜が行われました。
会場の手前の掲示板、いつもは前売り時間が案内されていますが、この日はチケット完売のため前売りはありません、という告示。このプログラムだからですね。

ベートーヴェン・サイクル2017≪第3夜≫

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第7番ヘ長調作品59-1「ラズモフスキー第1」
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第8番ホ短調作品59-2「ラズモフスキー第2」
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第9番ハ長調作品59-3「ラズモフスキー第3」

「死と乙女」、「アメリカ」を除けば全四重奏レパートリーの中で最も人気があるのがラズモフスキー・セット3曲であることは明らか。3曲の中でどれが一番好きか、というアンケートを試みたら面白いと思いますが、この3曲は調性の点でもスケールという意味でもバランスが取れていて、3曲を一晩でというプログラムにも大いに説得力があります。
実際、ロータスQも確か2008年だったかにこのプログラムでツアーを敢行していた記憶がありますし、上野の文化会館での記録がCD化されてもいました。

完売は演奏会が始まる前にも話題になっていて、ロビー雀の噂では、月曜日は演奏会自体が少ないからかも、という意見も。他の作品と一緒にラズモ1曲という選曲より、お得感があるという「経済効果」もあるでしょう。
ロータスQによるライヴCDも現役とあって、この日はCD即売コーナーも設けられ、演奏後にはサイン会も行われました。今回のサイクルでは最初のサイン会です。

作品59の3曲はウィーン駐在大使だったロシアのラズモフスキー伯爵の依頼によって作曲されたのは夙に有名ですが、ラズモフスキー自身もアマチュアのヴァイオリニストで、私の記憶では世界初のプロ四重奏団と呼ばれるシュパンツィヒ・クァルテットでセカンドを弾いていたのではなかったかしら。
ドイツ音楽史事情に詳しい常連氏の話では、ラズモフスキーはアマチュア、シュパンツィヒはプロだから同居には違和感があるとのことでしたが、私の乏しい知識力ではシュパンツィヒQのフル・メンバー名が出てきません。

いずれにせよラズモフスキー四重奏曲の3曲は、弦楽四重奏曲の演奏史上、アマチュアとプロフェッショナルが交替する境目に位置していた作品。というよりアマチュアでは手に負えず、プロでなければ演奏できない最初の曲集と言うことになるでしょう。(現代のアマチュアは遥かにレヴェル・アップし、ラズモを軽々と弾きこなす人々も多いと思いますが、それは別の話)
今回のロータスQも、そんなことを連想させるほどに「プロフェッショナル」な演奏に徹していました。日本人が3人も占めている団体ながら、正にドイツの伝統的精神性と言ったものを強く感じさせる演奏で、私にはそれ以上表現する言葉が見つかりません。
最後のカーテンコール、何回かの挨拶の後で全員が舞台最前面に出て答礼するのが「お開き」の合図ですが、この日はそれでも拍手止まず、4人が再び前面に。会場の照明を明るくすることでコンサートの終了を宣していました。演奏が素晴らしかったことの証です。

2番の後の休憩、トイレも満員だったのは流石にラズモフスキー3曲一気演奏の威力と言うべきか。
尚この日、主催者発表のSQSニュースで、来年9月のウィハン・クァルテットによるドヴォルザーク・プロジェクト2018開催決定が報じられました。絶好調が続くサルビアホールです。

 

 

 

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