サルビアホール 第36回クァルテット・シリーズ

鶴見サルビアホールの弦楽四重奏例会も秋シーズン、シーズン11が始まりました。この3回はヨーロッパ、イタリアとドイツから今旬の3団体が登場することになっています。
その第一弾、昨日行われたプロメテオの初来日公演を聴いてきました。イタリアの団体とあってプログラムは以下のもの。

プッチーニ/弦楽四重奏のための「菊」
ヴェルディ/弦楽四重奏曲ホ短調
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第13番変ロ長調 作品130
 クァルテット・プロメテオ Quartetto Prometeo

私の世代でイタリアと言えばイタリア弦楽四重奏団ということになりますが、世代は移って今回のプロメテオがトップ・グループだそうです。しかし我々の視界に入ってきたのは極く最近のことの様で、幸松辞典にも掲載されていません。
プログラムからプロフィールを孫引きすると、メンバーは全て男性、ファーストはジュリオ・ロヴィーギ Giulio Rovighi 、セカンドがアルド・カンパニャーリ Aldo Camapgnari 、ヴィオラをマッシモ・ピーヴァ Massimo Piva 、そしてチェロはフランチェスコ・ディロン Francesco Dillon という面々。如何にもイタリア人というファースト・ネームじゃありませんか。

1998年にプラハの春国際コンクールで優勝したのが世に出る切っ掛けの様ですから、結成して20年弱、決して若手グループということではありませんね。他にも様々なコンクールや受賞歴もあって、ボルドーで第2位、ミュンヘンでは特別賞というのが必ず挙げられる勲章です。
彼等のホームページをジックリ見れば、初来日が遅かった感も。

http://quartettoprometeo.com/

CDもいろいろあって、特に有名なのはヴォルフ全集とシャリーノのアルバム。シャリーノはエクも録音(7番)していますが、プロメテオも彼等のために作曲された8番なども含めたレコーディングがあります。この日も会場で売られていましたが、ベートーヴェンとシューベルトはCDのほかにDVDも付いてくる1枚(2枚?)でした。
今回の日本ツアーは鶴見からスタート、武蔵野や日経ホールに加え、岐阜、名古屋、鳥取を回り、6日間ぶっ通しの公演が続きます。今日(19日)武蔵野で体験する方も多いでしょう。

イタリア代表ということで、前半はプッチーニとヴェルディ。そもそもイタリアはオペラやカンツォーネの国で、器楽曲は影が薄い面もあります。プッチーニとヴェルディは、今回演奏された2曲以外にはほとんど知られていないのが実情でしょう。
どちらも弦楽合奏版が創られているのもイタリアらしいところで、4人だけで緻密にアンサンブルというのは国民性に合わないのかも。

で、プロメテオですが、彼等ほどイタリアを感じさせる団体も無いでしょう。正にカンタービレの国から来たクァルテット。プッチーニの「菊」には墓参りの花という意味合いが込められているそうですが、暗さはほとんど感じられません。
ヴェルディも伝統的な4楽章制ですが、冒頭の主題はアイーダを連想させるし、第3楽章のトリオはチェロのアリアそのもの。終楽章は一応フーガ風に始まりますが、プロメテオのアプローチは楽曲の構成より、如何に四重奏から歌を引き出すかに専念している感じでした。

それはベートーヴェンでも全く同じで、いつも聴いているドイツ系ベートーヴェンとはかなり趣が異なります。第3楽章は Alla danza tedesca (ドイツ舞曲風に)と書かれていますが、イタリア語で書かれているのが、如何にもイタリアの視点で見た「ドイツ風」と言っているよう。武骨なダンスでは無く、テーマをボカしている部分にしてもメロディーが聴こえてくるような感じになってしまうのが、如何にもイタリア風。
作品130はフィナーレに大フーガを置くのが普通ですが、彼らの選択は軽快なアレグロ。これは正解でしょう、もし大フーガだったら違和感の方が先に立ってしまったかもしれません。従ってベートーヴェンの後期作品を聴いたというより、凝ったディヴェルティメントに接したような気がしたものです。
私はカヴァティーナが好きで、“自分の葬式にはこれを流してよ”なんて言っていますが、今回のカヴァティーナには、失礼ながら余り精神性は感じられません。やはりシンミリしたカンツォーネという印象。

これは別にプロメテオを否定しているワケじゃなく、アルプスの北と南では気候も自然も違い、それが音楽にも見事に反映しているということ。もちろんこういうドイツ音楽もありでしょう。ベートーヴェン、イタリアに遊ぶ、と言った所か。

アンコールも実に楽しいもの。2曲演奏され、共に3分前後の短い作品。チェロのフランチェスコが曲目を紹介してくれましたが、耳慣れない作曲家や楽曲名でその時は何だか判りませんでした。
ロビーのホワイトボードによると、1曲目はメルーラ作曲の「シャコンヌ」、2曲目がスコダニッビオ作曲の「サンドゥンガ」ということでした。帰ってからナクソスのライブラリーで検索すると、両曲とも正体が判明、流石にナクソスと感心した次第。

それによれば1曲目はバロック期イタリアはクレモナの作曲家タルクィニオ・メルーラ Tarquinio Merula (1595-1665) の「チャコーナ」という楽曲で、現代風な弦楽四重奏にアレンジしたもの。NMLでも様々なヴァージョンが聴け、パブリック・ドメインの楽譜サイトで譜面も見ることが出来ますが、オリジナルとは全く別物に聴こえます。楽器を弾く以外のパフォーマンスも加わり、アンコールには最適。

2曲目は私よりも年下で既に故人となったステファーノ・スコダニッビオ Stefano Scodanibbio (1956-2012) の作曲、というより編曲もので、5曲から成る「メキシカン・ソング・ブック」の1曲で「Sandunga」。
作曲者はシャリーノの弟子筋に当たる人で、コントラバス奏者でもあった由。アンコールされた曲は German Bilbao という人のオリジナルで、弦楽四重奏用にアレンジしたもの。幸松肇氏の「日本民謡集」のラテン・バージョンから1曲披露した、と見れば良いでしょう。
この曲集には有名な「べサメ・ムーチョ」もあって、プロメテオはECMレーベルに録音済み。この日も会場でたった1枚だけ見かけました。彼らのホームページからユーチューブでの視聴も可能で、このあとのツアーで彼らの演奏会に出掛ける方は、このサイトを一見しておくことをお勧めします。必ずアンコールがあると思いますよ。

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