日本フィル・第338回横浜定期演奏会

このところ室内楽ばかりに足が向いていましたが、昨日の金曜日には6月最初のオーケストラ・コンサートを聴いてきました。日フィルの横浜定期、本来なら土曜日の9日の筈ですが、会場の都合なのか6月定期は金曜日の夜7時から。土曜日と思い込んでいる会員のために先月の定期の段階から大々的にアピール、定期会員には案内のハガキまで届いていて、僅か1日のことながら事務局の手間やコストが大変だなぁ~、と改めて思った所です。

その変則6月定期はオール・メンデルスゾーン、これまでインキネンが集中して取り上げてきたワーグナーが余り好意的ではなかったと言われている作曲家ですね。横浜は名曲中の名曲が3曲、ズラリと並びました。

メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」
メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64
     ~休憩~
メンデルスゾーン/劇音楽「真夏の夜の夢」~序曲/スケルツォ/間奏曲/夜想曲/結婚行進曲
 指揮/ピエタリ・インキネン
 ヴァイオリン/川久賜紀
 コンサートマスター/木野雅之
 ソロ・チェロ/菊地知也

先月に続いて今月もプレトークは、音楽評論家の奥田佳道氏。氏拘りの、とっておきの秘話が披露されました。話のスタートは「今日、6月8日はロベルト・シューマンの誕生日です」。そう言えば5月の横浜はシューマンのピアノ協奏曲でしたから、プレトーク繋がりとしても恰好な話題でした。もちろんシューマンはメンデルスゾーンと親密な友人関係で、二人を巡る逸話には事欠きませんね。シューベルトの「グレイト」をシューマンが発見し、メンデルスゾーンに手渡して初演されたとか、どれも最近講座などで再確認したテーマ。
ヴァイオリン協奏曲についても、同じくメンデルスゾーンの親友フェルディナンド・ダヴィッドのために書いた、という解説では平凡。奥田氏が語られたのは、実はダヴィッドの若き弟子だったヨーゼフ・ヨアヒムもこの名曲誕生に絡んでいたのでは、という内容。メンデルスゾーンとヨアヒム(当時12歳)はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲で共演し、この時メンデルスゾーンがヨアヒムの高音(ハイ・ポジションのことか最高音の弦のことかは不明)に感心し、それが作曲中だった協奏曲に反映したのでは、という解説です。

コンサートでこれだけ名曲が並ぶと個々の作品に思いを馳せるということは無いのですが、こうしてプレトークで新しい視点に触れると、改めてプログラムやスコア、CDの解説書などを読み比べて見たくなってしまいますね。そういう意味でも事前解説がある演奏会は貴重で、今回もいつも以上にプレトークから耳を傾けているファンが多かったように思いました。余り知られていない作品では必須じゃないか、と小生などは常々考えています。

さて演奏ですが、当初日フィルから得た情報では弦は対向配置、とのことでしたが、予定が変わって通常の並びに戻りました。理由は「真夏の夜の夢」序曲のファースト・セカンド・ヴァイオリンのアンサンブルがし易いから、というより対向配置では合わせ難いという現場サイドの事情のようです。私共の定席は舞台上手寄りですから、この方がコントラバスの動きが良く見え、その音もより身近に聴こえてくるという利点もあるのです。ここは歓迎。
最初の「フィンガルの洞窟」は個人的に大好きな曲で、メンデルスゾーンに好意的ではなかったワーグナーも、この曲だけはマスターピースだと言明し、彼を「第一級の風景画家」と呼んだのは、昔から行われてきた解説。最近はメンデルスゾーン再発見の動きが加速しているようで、スケッチを破棄しなかったメンデルスゾーンには序曲にもヴァイオリン協奏曲にも第1稿なるものが存在するとのこと。現在ではオリジナル稿の録音が出たり、実際に演奏会で取り上げる指揮者やヴァイオリニストもいるようですね。インキネンはそういう小賢しいことはせず、今回も通常の従来版での演奏でした。

ということで序曲は真に爽やかに、かつコントラバスのボウイングもしっかり確認できる明快な演奏に大満足。
ところで私が昔から疑問に感じているのは、この序曲のタイトルについて。今回もそうですが、昔から日本では「フィンガルの洞窟」で通っていますが、例えば旧オイレンブルクのスコアでは序曲「へブリデス Hebrides」ですよね。フィンガルの洞窟は副題扱い。ところがドイツ語の表記では「Fingalshoele」となっていて、やはり「フィンガルの洞窟」。メンデルスゾーンだからドイツ語を採るのか、英国楽旅の産物と地名から英語を採用するのか、ということなんでしょうか?

ドイツ語でも英語でも、演奏が良ければどちらでも良いこと。ルーチン感の全くない序曲が終わると、ファーストが一旦舞台裏に退いての配置換え。ここで気付くのは、序曲と協奏曲のオーケストレーションは、弦楽器のプルト数が減ること以外は全く同じ編成と言うこと。ライヴで音楽を聴くということは、そうした些細な点にも目が行くということに他なりません。

インキネント同じくザハール・ブロンにヴァイオリンを師事した川久保賜紀のメンデルスゾーン、心が通じ合う二人の共演が聴き所というのは誰もが納得するのでしょう。今回の演奏を一言で表現すれば、弱音を大切にした室内楽的表現、ということでしょうか。
その真価はカデンツァに良く表れていました。ゆったりとしたテンポで始め、要所では更に速度を落とし、再現部に向かって次第に感情を高めながらア・テンポ a tempo に戻していく。第1楽章第2主題の歌わせ方も、思い切り開始のテンポより遅めに弾くのでした。イン・テンポで、華麗なテクニックを見せ付けるようにサッと弾き切るタイプの演奏とは対極に位置するメンデルスゾーン。

アンコールも、しっとりとした表現で客席を魅せたバッハの無伴奏パルティータからサラバンド。何番でしたっけ、あれあれ、ということで第2番。終楽章が有名なシャコンヌの、あの曲集です。

後半は、前半のメンバーに第3トランペットと3人のトロンボーン奏者とテューバ、シンバルが加わります。トロンボーン3、という表記ではなくトロンボーン2、バス・トロンボーンとなっているのは最近の傾向、というがこれが正しい表記で、スコアでもトロンボーンは上の2本(アルトとテノール)が一段、バス・トロンボーンとチューバが一段に書かれているのが常識でもありましょう。尤もメンデルスゾーンはチューバでなくオフィクレードとなっていますが、現在はチューバで代演というのが慣例で、今回も敢えて復元したオフィクレードで、ということはありませんでした。

有名な「真夏の夜の夢」ですが、定期演奏会の中でメインとして取り上げられること自体、最近では少なくなりました。次々と美しい旋律を聴き通すと、メンデルスゾーンの天才ぶりに改めて感服してしまいます。そして技術的には結構難しい、ということも。
この音楽もタイトルに拘ると、最近は「夏の夜の夢」という表記も時々見るようになりました。ドイツ語のタイトルでは「Ein Sommernachtstraum」となっいて、「真」に相当する「mitt」が無いからでしょうか。でもシェークスピアの原作は「A Midsummer Night’s Dream」ですから、これは「真夏の夜の夢」で良いと思いますがどうでしょうか。そもそも冒頭で奥田氏が紹介されたように、これは「夏至」前後の物語。正にミッドサマーなんですからね。

オーケストラが演奏するメンデルスゾーンのアンコール・ピース。まぁ、真夏の夜の夢こそが最適なのですが、他には中々適当な小品が見当たりません。実は8重奏曲のスケルツォをメンデルスゾーン自身が管弦楽用に編曲したものがあるのですが、奥田氏によればこれは滅茶滅茶難しいのだそうな。(私の従兄弟に聞いた話では、ミュンシュ/ボストン響が来日公演でやったそうです)
ということで何かな、と期待していたら、メンデルスゾーンの無言歌集から「舟歌」をオーケストレーションしたもの。メンデルスゾーンの「舟歌」と言っても3曲ありますが、この会でアンコールされたのは通常第2番とされている無言歌集第2集作品30-6の嬰へ短調。編曲者が誰かは知り得ませんでしたが、何となくイタリアの映画音楽のようにも聴こえました。

プレトーク付きの定期でしたが、この日はインキネン本人が流暢なドイツ語で喋るアフタートークも。ホワイエに場所を移して行われましたが、テーマは来年4月に決定した日フィルのヨーロッパ・ツアーに向けての抱負など。今回が6回目、実に13年振りのヨーロッパ楽旅だそうですが、渡邊暁雄氏縁のフィンランドは初めての由。ここで聴くシベリウスは特別な体験になることでしょう。
平井理事長に伺った所では、ファンによる応援ツアーも企画中とのこと。2週間全行程では体力的にも経済的にもきついので、前半・中盤・後半の3組程度に分割することも考慮中とのことでした。4月のフィンランドって未だ寒くて暗いような印象もありますが、ここは試案のしどころ。どうしようかな、今から悩みますなぁ~。

 

 

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