フェスタサマーミューザ2018「神奈川フィルハーモニー管弦楽団」

全国的な猛暑、いや酷暑、人によっては暴暑と呼ぶべきだというほどの今年の夏。ミューザ川崎シンフォニーホールで開催中のフェスティヴァル、私が二つ目に選んだのが8月3日の夜に行われた神奈川フィルによる「絶品フレンチⅡ」コンサートでした。
最近では珍しくなってしまったオール・サン=サーンスのプログラムです。

サン=サーンス/歌劇「サムソンとデリラ」からバッカナール
サン=サーンス/ヴァイオリン協奏曲第3番
     ~休憩~
サン=サーンス/交響曲第3番
 指揮/川瀬賢太郎
 ヴァイオリン/神尾真由子
 オルガン/大木麻里
 コンサートマスター/石田泰尚

今年のフェスタサマーミューザで最も聴きたかったのが、このプログラム。今ノリに乗っている川瀬/神奈フィルを聴き逃す手はありません。加えて神尾真由子のソロが聴けるとあってチケットは完売、当日券の販売はありませんでした。
15時半から公開リハーサルも行われていたようですが、残念ながらこれはパス、19時からの本番だけを聴いてきた感想です。

今回の選曲、やたらに「3」が目に付きますが、3・3スの協奏曲も交響曲も3番。この「3」曲を指揮する川瀬は1984年、確か12月生まれだったはずですから、当日は33歳。まあ、偶然でしょうと思っていましたが、本人のツイッターを見ると、これは狙って選んだプログラムかも・・・。
フェスタではオーケストラのメンバーが入場してくる際に客席から拍手が起きる伝統がありますが、神奈フィルの場合はみなとみらいホールで行われている定期演奏会も同じ。楽員も全員が揃い、コンサートマスターが最後に登場して全員で客席に礼、というスタイルはすっかり定着しています。それにしても石田コンマスの人気は大したもので、彼が出てると拍手がひと際大きくなるのでした。“待ってました! 組長”

チューニングに続いて颯爽と川瀬登場、最初のバッカナールは人気曲でありながらナマで聴ける機会は決して多くありません。冒頭のオーボエによるカデンツァが異国情緒を醸し出し、2拍子の快いリズムに乗ってバレエが始まる。
ゆったり歌う中間部を経てリズムが高鳴り、最後はティンパニの乱れ打ちから壮絶なクライマックスへ。フレッシュな指揮者とオケの推進力溢れる快演で客席も最初から大きく盛り上がりました。

前半2曲目、期待のソリストを迎えてヴァイオリン協奏曲の傑作の一つ、第3番。これまた最近では演奏機会の減っている作品ですが、久し振りにナマ演奏に接して改めて素晴らしい協奏曲だと確信しました。
トレモロに乗って決然と弾き始める神尾。これに熱く応えるオケの瑞々しい響きは決してソロをかき消すようなことはありません。夜想曲風な第2楽章では、最後の短いカデンツァを経てソロとオケが交わす最弱音の会話が極上の美しさで、この協奏曲の白眉でしょう。キレの良い第3楽章のリズム、実にスタイリッシュで新鮮なサン=サーンスを堪能しました。

神尾が使用するのは、ストラディヴァリウス1731年製「ルビノフ」。1週前にお邪魔した名古屋の宗次コレクションから貸与されている名器だそうで、ホールのロビーに飾れていた写真の一つなのでしょうか。何かの縁を感じてしまいました。

後半の交響曲は、流石に現在でも人気曲の一つ。今年の4月から川崎シンフォニーホールのオルガニストに就任している大木麻里を迎えて、このホールの圧倒的な響きを体全体に浴びることが出来ました。
今回のプログラム(宮本明氏)にも「循環主題」のこと、「ディエス・イレ」の引用の事が触れられていましたが、第2楽章第2部に登場するもう一つのグレゴリオ聖歌由来のモチーフ、モーツァルトが多くの作品で用いた「ジュピター」首題を意識しないわけにはいかないでしょう。今回も「ドシドラ」と「ドレファミ」の饗宴を聴いていると、これは「オルガン交響曲」というより「グレゴリオ交響曲」と呼んだ方が相応しいのでは、と考えた次第。最近ではそうした解説を待ち望む声が多い、とも聞きました。

川瀬賢太郎と神奈川フィルが挑むサン=サーンス。弱音と強音との対比を明瞭に描き分け、華麗なオーケストレーションをバランス良く具現していく。スコアの指示を忠実に守ってインテンポに徹し、フィナーレの練習記号 FF ストリンジェンドで一気に加速、壮大な1分の「3」拍子で全曲を閉じる。最後のハ長調の和音を可能な限り長く引き伸ばし、ホールを暖かく包み込む場面は、往年の名指揮者シャルル・ミュンシュを思い出させるほどでしたね。

明らかに神奈川フィルの力量はアップしています。若き川瀬賢太郎をバックアップし、川瀬も真剣に作品に取り組む。その姿が客席に独特の高揚感を齎すのでしょう。個人的には、これからこのコンビを聴きに出掛ける機会が増えるのは間違いなさそうです。

 

 

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