日本フィル・第341回横浜定期演奏会
10月最後のコンサート行は、27日土曜日に横浜みなとみらいホールで行われた日本フィルの横浜定期でした。ハロウィン(10月31日)を控えた土日ということで混乱を警戒していましたが、横浜・桜木町界隈は静かなものでしたよ。仮装している人は桜木町のカフェで一組見かけたくらい、だったかな?
10月の日フィル横浜は、何と9月に続いて小林研一郎の指揮。先月ある団員氏にコバケンばっかりですねと聞いたら、案外定期は久し振りなんですよ、とのこと。確かに私のブログの中で探してみると、9月の前に横浜でコバケンを聴いたのは去年の暮れ、12月の第9でした。それを読み返してみると、二人のお名前が今回の定期でも共通していましたね。オルガン・ソロの石丸由佳さんと、プレトークを担当された奥田佳道氏です。
ということで、今回も恒例のプレトーク・レポートから。
ウェーバー/歌劇「オベロン」序曲
サン=サーンス/チェロ協奏曲第1番イ短調作品33
~休憩~
サン=サーンス/交響曲第3番ハ短調作品78
指揮/小林研一郎
チェロ/辻本玲
オルガン/石丸由佳
コンサートマスター/扇谷泰朋
ソロ・チェロ/菊地知也
横浜定期の有難い所は、特別な予習をせずに出掛けてもコンサートのキモを聴き逃さずに鑑賞できることでしょう。初めて聴く作品が少ないということもありますが、うっかりして気が付かずにいた聴き所について練達の評論家氏が指摘してくれるという真にグッド・タイミングな企画のお陰なのです。昨今はコンサート前のプレトークは珍しくありませんが、こうした企画を定期的にスタートさせたのは日フィル横浜定期が嚆矢だったのじゃないでしょうか。奥田氏はその当初から大役を引き受けられ、現在まで続けておられるその道の開拓者。聞いていて安心感に包まれる15分でもあります。
さて10月の名曲プロでどんな解説をされるのか。
日本フィルは来週、ソウルの国際音楽祭に参加しますという話から始まり、最近特に深まって来た日本とアジアの接点に関しても。さり気無く日フィルのヨーロッパ・ツアーにも触れてから本題に入ります。落語で言えば「枕」ですが、本題に導く話術も名人芸に域に達しているのでは、とヨイショしておきましょう。
先ずはウェーバー、ここではオベロン序曲の主部がアレグロ・コン・フォーコ Allegro co fuoco であることを紹介し、メンデルスゾーンのアパシオナート共々初期ロマン派の作曲家たちが単なるロマンティックなサロン音楽を書いていたのではない、ということを強調されます。最近では殆ど取り上げられませんが、かつてホルスト・シュタインが得意としたウェーバーの第1交響曲も、第1楽章はアレグロ・コン・フォーコなのだとか。これはかなりマニアックな世界でしょうか。
オベロンが書かれた1826年は、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」序曲が書かれた年でもある、という辺りは大いに好奇心をそそられましたね。
サン=サーンスのチェロ協奏曲では、冒頭いきなり登場するチェロのパッセージが作品全体のライト・モチーフとして使われ、それが形を変えて繰り返し現れる循環形式と呼ばれていることに言及。
メインの第3交響曲では同じ循環形式であるということに留まらず、グレゴリオ聖歌のディエス・イレと、やはりグレゴリアンを出自とするジュピター・モチーフ(ドレファミ)が執拗に登場してくることを力説されました。特にドレファミについては、これまでフランス音楽の専門家たちが触れてこなかった話題だけに、今回初めて氏のプレトークに接した会員諸氏にとっては目から鱗だったのではないでしょうか。
プレトークで聴き所を確認し、序曲→協奏曲→交響曲という王道プログラム、現在では懐かしくなった感のある正統派コンサートを味わいました。
序曲はどこまでもコバケン流の濃ゆいオベロン。譜面に書いてなくとも、第2主題のクラリネット・ソロではグ~ンとテンポが落ちます。
次の協奏曲は、チェロの演奏台が据えられ、指揮者用の指揮台もより低いタイプのものに入れ替えるという念の入れようで、弦楽器も12型にサイズを落とします。
ソロは日フィルのソロ・チェロを務める辻本で、オケ本体の菊地共々揃い踏みという珍しい光景も見られました。辻本はソリストや室内楽奏者としても活躍しており、今回のサン=サーンスも滑らかな音色と図抜けた音量で堂々と主役の座を張ってくれました。早々にアンコールを始め、バッハの無伴奏から第1番のサラバンド。いずれ彼もバッハ組曲全集を録音する日が来るでしょう。
休憩を挟んでオルガン交響曲、いやグレゴリオ交響曲と改称しても良いかも。オルガンの石丸は、奥田氏によれば引っ張りだこの名手と言うことで、つい先日もこの曲をチョン・ミュンフンと東フィルで演奏したばかりだそうな。そう言えばこの10月は、都響と東フィルでサン=サーンス第3の競演があったんでしたっけ。
サン=サーンスの第3交響曲の場合、オルガン奏者の名前がプログラムにも明記されていないケースがありますが、知らず知らずの内に石丸ソロのオルガン演奏を聴いていたのかもしれません。彼女は去年の12月横浜定期(小林研一郎指揮)でも前半にバッハを3曲披露してくれました。今年のコバケン第9も、前半は彼女のバッハ演奏でしょ。残念ながら横浜定期では聴けませんが・・・。
私は以前にコバケンのサン=サーンスを聴いたことがありますが、最後の壮大な盛り上げ方は独特のコバケン・ワールド。熱烈なファンが多いことを裏付ける解釈こそ聴き所でしょう。エリック・パケラの派手なティンパニが大喝采を浴びていました。
アンコールもまたマエストロのやりたい放題。何故かブラームスのハンガリー舞曲第5番でしたが、ハンガリー語と日本語の共通点なども紹介し、コバケン節のマル秘レシピなども敢えて演じて見せる上機嫌のアンコールでした。
そしてお決まり、サン=サーンスの最後の2分間を壮大に鳴らしてのお開き。次の小林/日フィル横浜は何時になるのかな?
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