サルビアホール 第115回クァルテット・シリーズ

鶴見サルビアホールのクァルテット・シリーズ、シーズン34の最後は日本を代表するクァルテット・エクセルシオ。このシーズンから始まった大阪国際室内楽コンクール優勝クァルテット・チクルスの第2弾となります。
エクセルシオは「優勝団体」ではありませんが(96年度の第2位)、大阪チクルスには特別参加の形で出演となりました。エクセルシオは確か5度目のサルビアホール登場となるはずで、同シリーズ第1回を飾ったクァルテットでもあります。

今年の1月には得意の現代作品を紹介した彼等ですが、今回は大阪コンクール・チクルスとあってクァルテットの王道、ドイツの3作品を並べてきました。

ハイドン/弦楽四重奏曲第31番変ホ長調作品20-1
メンデルスゾーン/弦楽四重奏曲第1番変ホ長調作品12
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調作品131
 クァルテット・エクセルシオ

チケットを提示してホワイエに入ると、この演奏会は日本室内楽振興財団との共催と書かれた案内が掲示されていました。1月のラボとは客席の雰囲気も少し違うようです。
ところでエクセルシオは昨年秋の定期演奏会を区切りとしてセカンドの山田百子が退任し、今年春の定期演奏会まではセカンドが会変わりで交代してきました。今年度からは正式に北見春菜がメンバーに加わり、今回のサルビアでも新セカンドのお披露目コンサートとなります。

冒頭のハイドン、実は山田最後の出演となった昨年秋の定期でも取り上げた作品で、奇しくも北見にとってはセカンドの重責を引き継ぐ意味でも特別な緊張感があったのではないでしょうか。客席にはエク定期の常連ファンの顔がいくつも見られましたから、どうしても比べてしまうことになり勝ち。
さてハイドン、通し番号に混乱がありますが、前回の定期では31番というホーボーケン番号を踏襲していたはず。今回のプログラムでは第28(31)番と表記されていました。番号などどうでもよいと言ってしまえばそれまでですが、そろそろ整理して貰った方が素人のファンには有難い所。個人的にはホーボーケン番号で統一しようじゃないか、と勝手に考えている昨今です。

ハイドンの弦楽四重奏は、この作品20辺りからが一般的に演奏会で取り上げられる曲集。20-1の印象に付いては去年11月にエク京都定期を聴いた際の感想に書きましたので、興味と暇のある方はそちらも参照してください。
要するにクァルテットとしては未だ風変わりな印象が伴う作品ですが、今回エクで二度目の体験をした限りでは、かなりスッキリと耳に馴染むようになってきました。特に唯一変イ長調(♭4つ)で書かれた第3楽章 Affetuoso e sostenuto が素晴らしく、エクセルシオはその祈りのような曲想を心を籠めて弾いているのに感心。初めて変ホ長調クァルテットの聴き所に気付かせて貰いました。

ハイドンの弟子だったベートーヴェンに入る前、そのベートーヴェンのクァルテットを徹底的に研究したメンデルスゾーンが最初にモノにした弦楽四重奏曲を聴きます。
第2楽章が単独でアンコールされることでも有名な第1番は、冒頭のハイドンと同じ変ホ長調。ハイドンが第3楽章以外は全て主調で書いていたのに対し、メンデルスゾーンの場合は主調は最初と最後だけ。カンツォネッタはト短調とト長調のサンドイッチ構成で、第3楽章 Andante espressivo は変ロ長調で書かれています。

クァルテット・エクセルシオは、やはり第3楽章が作品のキモと考えているようで、表情記号のエスプレッシーヴォに力点を置いた表現。これがハイドンのアフェットゥオーソとも連携し、メンデルスゾーンの祈りの音楽がひたひたと心に浸みてくるのでした。
大阪国際コンクールから間もなく四半世紀、緩徐楽章に深みが増してきているのは、明らかにエクの成長と時の積み重ねによるものでしょう。

最後は結成時からエクの中心に据えられていたベートーヴェン、それも後期の至高である作品131。クァルテット・エクセルシオによるベートーヴェンのCD全集が完成に近づいていますが、未だ未達なのが作品130と131(ハープは全集録音とは別のテイクあり)でしよう。来年にかけてこの2曲をじっくりと、焦らず取り組み、何とかベートーヴェンのアニヴァーサリー・イヤーでの完結に期待しましようか。
サルビアホールの「驚異の音響空間」効果もあって、エクセルシオの今を十二分に堪能した夜でした。

ベートーヴェンの大作の後でもアンコールがありました。ドイツ作品特集の環が最初に戻り、ハイドン後期の作品71-2から第3楽章メヌエット。このニ長調で書かれたメヌエットが、冒頭の作品20-1のそれと比べて肩の力が抜けて楽々と聴こえ、自ずとユーモアが滲み出してくることか。2曲の作曲年代には20年チョットの開きがありますが、それはエクセルシオの25年にも言えること。改めて時の積み重ねに思いを致してしまいました。
余談ですが、作品71-2、ホワイエの掲示板には第55番と書かれていましたが、ホーボーケン番号では70番。ここにも大きな開きがありました。

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