クーシストはヴァイオリニストか?
答えは、普通の意味でのヴァイオリニストじゃありませんね。
ということで、BBCスコティッシュ交響楽団の二日目は、曲目だけを見れば普通のシベリウス・プログラムでしたが・・・。
8月3日 ≪Proms 20≫
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
~休憩~
シベリウス/交響曲第5番
BBCスコティッシュ交響楽団
指揮/トーマス・ダウスゴー Thomas Dausgaard
ヴァイオリン/ペッカ・クーシスト Pekka Kuusisto
前日はメルニコフを迎えてシューマンの協奏曲を取り上げたダウスゴーとBBCスコティッシュ、昨日は鬼才クーシストをソリストとしてシベリウスのヴァイオリン協奏曲を演奏します。
ところでこのプログラム、実は今年4月にインキネンが日本フィルと演奏したプログラムと同一で、ソリストも同じクーシストでした。従って記憶も生々しく甦るプロムス、楽しみにBBCのネット回線に繋ぎました。
さてクーシストと言えば、2016年のプロムスでチャイコフスキーを聴き、極度の拒絶反応を起こしたことを思い出しました。その時は「クーシストって何」という疑問符を付けてレポートした記憶があります。
ところが先の横浜定期、実際にクーシストを眼前で聴いて評価は180度転換してしまいました。これほど真逆の感想を持った演奏家は他にいないし、これからも目が離せないヴァイオリニスト、いや音楽家と言って間違いないでしょう。
放送が始まると、先ずダウスゴーが登場して挨拶。このコンサートの趣旨などを語ります。協奏曲に先立つプレリュードとしてフィンランド民謡がいくつか歌われたのでした。歌の間にはヴァイオリン協奏曲のフレーズもいくつか挟まり、これが何の違和感もない。
民謡が一頻り歌われると、間髪を入れずに協奏曲に突入していきます。
因みに後半の第5交響曲に先立っても民謡が紹介されますが、これらの断片が夫々協奏曲や交響曲に引用されているそうで、その意味でも興味深い企画だと言えるでしょう。
いつものBBCオケでは楽章間に拍手が入るものですが、流石にこの日は客席も水を打ったような静けさ。誰もがクーシストに惹き込まれているのが判ります。
演奏が終わると歓声が爆発。自然な流れでアンコール曲名が告げられ、同じくシベリウスのユーモレスク第4番ト短調作品89-2。
余り聴く機会のない弦楽合奏が伴奏する小品ですが、クーシストの手に掛かると天下の名曲として琴線に触れれてくるのが不思議です。
後半は第5交響曲ですが、前半と同様、歌手と民族楽器、それにクーシストが加わってのフィンランド民謡続編から始まります。そのままシンフォニーに流れ込むのですが、インキネンの横浜とは違い、4楽章から成る初稿が紹介されました。この版はこれが英国初演とのこと。レコード・ファンはヴァンスカが録音したBIS盤で知ったものでした。
第5交響曲は1915年に完成し、その年の12月8日に初演されましたが、シベリウスはこれに満足せず、翌年改訂して丁度1年後の同じ12月8日に第2稿を初演。
これにも不満だったシベリウスは、苦闘の末に決定稿となる最終稿に辿り着き、漸く1919年11月24日に自らの指揮で初演したのが、現在普通に演奏される第5交響曲となるのです。
横浜と同じようにクーシストも参加しての第5交響曲初稿の英国初演。当然ながらアンコールは歌手や民族楽器奏者にクーシストも加わってフィンランド民謡をもう一つ。今度は客席に呼びかけ、6千人のハミングを加えて“Absolutely Nothing”という意味合いの民謡でファンタスティックな夜を締め括りました。
BBCスコティッシュの演奏会ではありますが、企画・監督はペッカ・クーシストであることは間違いなさそう。クーシストは作曲でもあり指揮もし、ジャス・プレイヤーでもあります。音楽祭の企画から総監督まで、その才能は単なるヴァイオリニストには留まりません。それがチャイコフスキーの協奏曲を単発で演奏した場合には、時に聴く者に誤解を与えたかもしれません。
クーシストはヴァイオリニストというより、音楽の、フィンランド芸術の伝道師とでも呼ぶべき存在なのでしょう。
因みに民謡で参加した音楽家たちは、歌手が Taito Hoffren 、Ilona Korhonen 、Minna-Liisa Tammela の面々。カンテレ(5弦の民俗弦楽器)を弾いたのが Vilma Tomonon 、そしてハーモニウムは Timo Alakotila でした。
最後に、2016年のアンコールがユーチューブに挙がっていますから、こちらをご覧ください。
最近のコメント