帰って来た尾高忠明

BBCウェールズの二日目は、同オケと30年に及ぶ信頼関係で結ばれてきた桂冠指揮者の尾高忠明が登場しました。
尾高は闘病による活動休止から復帰したばかりで、先のN響に続いてのプロムス。帰国するやサマーミューザのフィナーレにも出演することになっていますが、復帰早々のハードスケジュール、どうか無理をせずに、と願わずにはおられません。

ところで今年のプロムス、アジア系では中国や韓国勢の活躍が目立ちますが、我が日本人の音楽家、作曲家が取り上げられるのはこの回のみ。ま、来年は東京オリンピックがありますから、日本勢の活躍は2020年に期待しましょうか。

8月8日 ≪Prom 28≫
武満徹/トゥイル・バイ・トゥワイライト
ヒュー・ワトキンス Huw Watkins/The Moon
     ~休憩~
ラフマニノフ/鐘
ボロディン/歌劇「イーゴリ公」ダッタン人の踊り
 BBC National Orchestra of Wales
 指揮/尾高忠明
 ソプラノ/ナタリア・ロマニウ Natalya Romaniw
 テノール/オレグ・ドルゴフ Oleg Dolgov
 バリトン/ユーリ・サモイロフ Iurii Samoilov
 合唱/BBC National Chorus of wales, Philharmonia Chorus

今回の尾高プログラムは、日本では中々聴けないレパートリーが並びます。それでも冒頭に武満作品が置かれたのは嬉しい限り。モートン・フェルドマンの追憶に捧げられ、読響の創立25周年に委嘱された作品から始まりました。

これに続いては英国の作曲家ワトキンス。BBCプロムスの委嘱作品で、このコンサートが世界初演となります。ワトキンスの出版社は武満と同じショット社で、同社のプロフィールをご覧ください。

https://en.schott-music.com/shop/autoren/huw-watkins

何とこのページにある作品表 Works をクリックし、ジャンルから交響的な合唱作品を選ぶと今回の作品「The Moon」が表示されます。更にスコアの表紙をクリックすると、100ページほどの総譜が表示され、ペルーサル・タイプながらこれを見ながら聴くこともできるのです。ダウンロードも可能ですから、いつでもオフラインで表示することも出来ます。
何と世界初演でもスコアを見ることが出来る、時代は変わりましたねェ~。

ザ・ムーンは、当然ながら月面到着50周年に因むもので、パーシー・ビッシュ・シェリー (1792-1922)、フィリップ・ラーキン (1922-1985) 、ウォルト・ホイットマン (1819-1892)という時代の異なる詩人による月に関する詩をテキストにしたもの。地球から月を眺める経験と、地上で上から自分たちを振り返るというコンセプトで作曲された、ということもスコアの序文で読むことができます。

後半はガラリと趣が替わり、今年のもう一つのテーマであるヘンリー・ウッド生誕150年記念プログラム。最初のラフマニノフは1913年12月にロシアで初演され、英国では1921年にヘンリー・ウッドが初めてプロムスで紹介したという歴史があります。
今回ロシアから招かれた4人のソリストは、何れもこれがプロムス・デビューでした。

ラフマニノフは当初この作品を交響曲と考えていて、合唱交響曲とも呼ばれています。全編に亘って合唱が活躍し、第1楽章でテノール、第2楽章ではソプラノが、最後の第4楽章でバリトンが加わる全4楽章で、ラフマニノフが得意とするディエス・イレに良く似た動機が各楽章で用いられているのが聴き所でしょう。

2曲目のボロディンは、歌劇「イーゴリ公」の第2幕の最後で歌い、踊られる場面。これまた1897年のプロムスでヘンリー・ウッドが紹介したのが英国初演なのだそうです。
BBCウェールズにとって無二の友人であるマエストロ尾高に、客席からも熱烈な喝采が続いていました。

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