ジャングルと化したロイヤル・アルバート・ホール

高らかに第9が鳴り渡った翌日、アルバート・ホールは不思議な音響に満ちていました。ベルリン・フィルを去ったサー・サイモン・ラトルが現在の主兵ロンドン交響楽団を率い、ラトルならではのプログラムを展開しています。

8月20日 ≪Prom 44≫
シャルル・ケクラン/交響詩「レ=バンダール=ログ」Les bandar-log
ヴァレーズ/アメリカ(オリジナル1921年版)
     ~休憩~
ウォルトン/ベルシャザールの饗宴
 ロンドン交響楽団
 指揮/サイモン・ラトル Simon Rattle
 バリトン/ジェラルド・フィンレー Gerald Finley
 合唱/ロンドン・シンフォニー・コーラス、オルフェオ・カタラ・ユース・コール、Orfeo Catala Youth Choir

今回のラトルの選曲は、ベルリンを辞して本来の姿に戻ったというか、デビュー当時のラトルを彷彿とさせるようなもの。前半はフランスの現代音楽を代表する二人、ドビュッシーやラヴェルと、メシアンやブーレーズを繋ぐ世代の作曲家を紹介しようという意欲が伺えます。

先ずケクランの、有名ではあれど中々ライヴでは聴く機会のないレ=バンダール=・ログは、プロムスでも26年振りとのこと。キップリングの「ジャングル・ブック」を基にした作品の一つで、その総決算でもありましょう。
副題に「猿のスケルツォ」と付されているように、タイトルのバンダール=ログとは、サルの軍団の名称。冒頭から熱気の立ち込めるジャングルの様子が目に浮かんできました。フランス音楽にこういう無調で得体の知れぬ世界があったとは・・・。

続くヴァレーズの出世作となったアメリカ、今回取り上げられたオリジナル版はプロムス初演だそうです。18人の打楽器がズラリと並んだそうですが、周文中による1927年改訂版は半分の9人ですから、オリジナル版がより複雑で、更に原始的な響きがするのは当然のことでしょう。
ニューヨークという大都会のジャングルを描き、サイレンが鳴り渡ります。因みにペトルッチで改訂版のスコアをダウンロードすることができますが、これは殆ど役に立ちません。特に後半は全く別の作品と言ってよいでしょう。

休憩を挟んで、ウォルトンの大傑作。エルガーに使徒たち、ブリテンには戦争レクイエム、ティペットにも我らが時代の子供たちがあるように、ウォルトンにもベルシャザールの饗宴という合唱の大作があります。
ラトルはかつて打楽器奏者として、このアルバート・ホールでベルシャザールの饗宴で参加した由。

今回は300人の大合唱団が舞台を埋め尽くし、特にオルフェオ・カタラ・ユース・コールはバルセロナから招待された合唱団。哀・怒・楽・喜の四つの感情が壮大に描かれましたが、流石にこれ程の大編成になると、ネット中継では限界を感じてしまいました。

プロムスの聴衆からの大歓声は、正にジャングルそのものだったかも。

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