ウィーン国立歌劇場公演「イル・トロヴァトーレ」(1)
ウィーン国立歌劇場からのライブストリーミング、9月最後となる第4弾はイル・トロヴァトーレ。今シーズンはヴェルディを集中的に取り上げているウィーン、早くも3作目となります。
なおトロヴァトーレ、今シーズンは来年6月にも別キャストによる公演が中継される予定のため、「イル・トロヴァトーレ」(1)としました。19・22・25日の3日間に亘って行われた9月公演、最終日3日目の模様が放映中で、主なキャストは以下のもの。
ルーナ伯爵/ロベルト・フロンターリ Roberto Frontali
レオノーラ/ミシェル・ブラッドリー Michelle Bradley
アズチェーナ/モニカ・ボヒネク Monica Bohinec
マンリーコ/ユシフ・エイヴァゾフ Yusif Eyvazov
フェランド/ソリン・コリバン Sorin Coliban
イネス/シミーナ・イヴァン Simina Ivan
ルイス/カルロス・オスナ Carlos Osuna
老ジプシー/オレグ・サヴラン Oleg Savran
使者/オレグ・ザリッキー Oleg Zalytskiy
指揮/アルベルト・ヴェロネージ Alberto Veronesi
演出/ダニエレ・アバド Daniele Abbado
舞台装置/グラツィアーノ・グレゴーリ Graziano Gregori
衣装/カーラ・テティ Carla Teti
照明/アレッサンドロ・カルロッティ Alessandro Carletti
演出助手/ボリス・ステトカ Boris Stetke
舞台装置助手/アンジェロ・リンザラータ Angelo Linzalata
フェランドとイネスが当初発表から変更になりましたが、主役4人は予定通り。豪華な声の競演が楽しめます。
さてウィーンのトロヴァトーレと言えば、オールド・ファンには甘酸っぱい思い出があるかも知れません。実は私もその一人で、朧げな記憶ながら、1960年代のある時期にウィーン国立歌劇場が来日公演を行うのではないか、という噂が飛び交いました。指揮者は当時の音楽監督カラヤンで、その出し物が「イル・トロヴァトーレ」では、と期待されたものです。
結局それは実現せず、日本でカラヤンがオーケストラ・ピットに入るという夢は儚くも潰えたものでした。
ヴェルディ中期の傑作と呼ばれるトロヴァトーレ、実はイタリア・オペラの定型を知るには格好の題材と言えるでしょう。当時のイタリア・オペラはいわゆる番号オペラと呼ばれていて、ドラマの進行、その作曲法には一定の規則が存在しました。例えばアリアの形式にしても5つの部分から構成されるとか、歌手の登場パターンについても一定の決まりがあるとか・・・。
詳しいことは参考書などで確認して頂くとして、ここはヴェルディが完成させたイタリア・オペラのしきたりを確認し、それを見事に活用してスペクタクルな舞台を創り上げたヴェルディの才能に改めて浸りましょう。
主役は4人と言いましたが、夫々がソプラノ、アルト(メゾ・ソプラノ)、テノール、バス・バリトンとバランス良く配置されているのが見所で、4役夫々に聴かせ所のアリアがあるのも特徴。前回のドン・カルロのように様々な要素が複雑に絡み合っているわけではなく、椿姫の様に専らラヴ・ストーリー中心というわけでもない。
演出のアバドとステトカのコンビは、ドン・カルロと同じ。場面場面が美しい宗教画のような造りになっているのも楽しめました。隠れテーマでもある「火」の扱いにも注目したいところ。
タイトルロールの吟遊詩人マンリーコを歌うエイヴァゾフは、ご存知のようにアンナ・ネトレプコの旦那さん。日本でも2人揃ってのデュオ・コンサートなども度々開催されていますから、実際の歌声を聴かれた方も多いでしょう。オリジナルの楽譜には無いものの、後に某テノールが要求してヴェルディも許可したという第3幕のアリアでの「ハイC」も、長々と響かせています。
レオノーラ役のブラッドリーは、米テキサス州ヒューストン出身で、これからのドラマティック・ソプラノ界を担っていく期待の新人。ここは伸び盛りの若手を聴く絶好の機会かも。
ルーナ伯爵は、個人的には遥か昔にイタリア歌劇団の来日公演で聴いたエットーレ・バスティアニーニが忘れられませんが、今回のフロンターリもデビューして30年以上第一線で活躍している大ヴェテラン。安定したバリトンの美声が楽しめます。
アズチェーナのボヒネクはスロヴェニア出身のメゾで、ウィーン国立歌劇場のアンサンブル・メンバーでもある由。ウィーンでは第9のソリストとしても知られているそうです。
4人4様の歌を思う存分楽しめるオペラ。それはカーテン・コールで、4人と指揮者ヴェロネージのたった5人だけが客席の歓声に応えていたことからも知れるでしょう。
通常レパートリーの公演の所為か、最初の内はアンサンブルに乱れがあったのはご愛嬌と言うべきか。こうした公演も気軽に楽しめるのがライブストリーミングの有難い所ですね。
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