サルビアホール 第117回クァルテット・シリーズ
クァルテット・シリーズのシーズン35は、出場3団体共にサルビアホールのリピーターという共通点があり、どれも鶴見の常連諸氏から好評を以て迎えられてきた面々。昨夜のタカーチは今回が3度目のサルビアで、またしても圧倒的な感銘を残してくれました。
ハイドン/弦楽四重奏曲第32番ハ長調作品33-3「鳥」
ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第12番へ長調作品96「アメリカ」
~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第9番ハ長調作品59-3「ラズモフスキー第3」
タカーチ・クァルテット
タカーチQの初登場は2013年9月、前回が2016年の同じく9月ということで、3年ごとの9月に聴いてきたことになります。このローテーションが変わらなければ、次回は2022年の9月ということになりますね。もっと頻繁に聴きたいクァルテットではありますが、年間80回の公演をこなす、世界中で引っ張りだこのタカーチだけに、出演依頼しても3年先、ということなんでしょう。
定席に着き、期待に胸をを膨らませてメンバー登場を見ると、アレレ、セカンドが見慣れない顔。しかも東洋系の様でもある。プログラムで確認すると、これまでの2回と同じカーロイ・シュランツと表記されています。
不思議に思って出演者のプロフィールを最後まで読むと、2018年からハルミ・ローデスに交替したと書かれていました。なるほど、迂闊でしたね。
休憩時にプロデューサー氏に確認すると、やくぺん先生こと音楽ジャーナリストの渡辺和氏が、ブログ(やくぺん先生うわの空)に「秋のTOKYOクァルテット祭り開幕」という記事で詳しく書かれているとのこと。実は先生には開場時間前にお会いして雑談していたばかりですが、話題は音楽以外の下世話な話に終始していました。繰り返しですが、迂闊でしたワ。
ここから先は「うわの空」を各自見て頂くこととして、ポイントだけを纏めると、去年4月に引退されたタカーチ創設メンバーのカーロイに替わって2代目セカンドに着任されたローデス女史は、かのジュリアードQの2代目ヴィオラ、サミュエル・ローズの娘さんで、ご母堂がガリミアQで弾いていた矢島廣子さんとのこと。彼女にとっては今回が日本デビューなのだそうな。クァルテットの世界って狭いんだなぁ、ということなんでしょう。
従ってハルミ・ローズとは Harumi Rhodes 。ここから先はタカーチの公式ホームページで確認してください。
http://www.takacsquartet.com/index.php?lang=en
結成から今年で45年となるタカーチ、創設メンバーではチェロのフェイェール一人を残すのみとなってしまいましたが、フェイェール氏の独特な風貌を見ると、あぁ、またタカーチが聴けたな、という感想に落ち着きます。
タカーチの来日は今回が何度目になるのかは知りませんが、香港で2回演奏してから(無事にコンサートは開催できたのでしょうか?)の日本で、今ツアーはサルビアホールを皮切りに銀座のヤマハホール、武蔵野、兵庫と続く4回のみ。全て同じプログラムで、確か前回のオール・ベートーヴェンも一つのプログラムで日本全国を回っていましたっけ。同一プログラムで集中する、というのが彼等の最近のスタイルなのでしょうか。
選ばれた3曲はどれも名作中の名作。作品について詳しく触れる必要はありますまい。
冒頭のハイドンからして速めのテンポ、聴き手を退屈させる隙はありません。確信に満ちたフレージングと、浮き立つようなリズム感が抜群。タイトルとなっている「鳥」を連想させる冒頭、第2楽章のトリオ(ここはヴァイオリン2本のみ、鳥の夫婦の囀りを連想させます)、そしてフィナーレなど、音楽する楽しみがこれでもか、と聴き手に伝わってくるのでした。
前半の締めが、何とアメリカ。手垢が付いた、と表現しても許されるような人気作品ですが、タカーチで聴くと、改めてアメリカとはこういう曲だったのか、作品を初めて聴いたような錯覚に陥ってしまいます。
恰もたった今、ドヴォルザークの手によって書き下ろされたばかりであるような新鮮な喜び、新たな発見。
最後のベートーヴェンも同じで、さり気無く演奏しているようで、密度の濃いこと。
タカーチはハンガリーから出発したクァルテットですが、イギリスの洗練された趣味を加え、更にアメリカの斬新な風を加えて、向かうところ敵無し。
思えばハイドン、ベートーヴェン、ドヴォルザークの名作をハンガリーの団体が演奏する、と言っても要するにハプスブルグの音楽ですよね。伝統と革新の絶妙なバランスを体現したクァルテット、これを100人で聴く贅沢。サルビアホールの演奏史にまた新たな一ページ加わりました。
もちろんアンコールも。セカンドのハルミさんが流暢な英語(って、当たり前か)で曲名を告げたのは、メンデルスゾーンの第2番から第3楽章インテルメッツォ。
2代目のファースト・ドゥシンベルが奏でるテーマに出る付点リズムに注目しましょう。譜面に書かれたとおりに、作曲家が指定したメトロノーム通りに弾いても、決してこうはなりません。メンデルスゾーンが頭の中で響かせていたテンポ、そして付点リズムがこれなのです。音符から離れて音楽を奏でる。それが如何に大切であることか。
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