ウィーン国立歌劇場公演「ナクソス島のアリアドネ」

今シーズンのウィーン国立歌劇場はヴェルディ作品を集中的に取り上げていますが、もう一人力を入れている作曲家がいます。それがリヒャルト・シュトラウスで、10月はシュトラウス作品が2演目放映される予定。その第一弾が「ナクソス島のアリアドネ」でした。
現地では10月6・8・11の三日間行われ、最終日の模様が12日から14日までライブストリーミングで楽しめます。

前回はブリテンの「真夏の夜の夢」でしたが、登場人物が極めて多いこと、劇中劇があること、語りが重要な役割を担っているという点でも共通しているのが面白い所でしょう。主な配役は、

執事長(語り)/ハンス・ピーター・カマーラー Hans Peter Kammerer
音楽教師/ヨハン・シュメッケンベッカー Jochen Schmeckenbecher
作曲家/ケイト・リンジー Kate Lindsey
テノール歌手(バッカス)/ステファン・グールド Stephen Gould
士官/オレグ・ザリッキー Oleg Zalytskiy
舞踏教師/トーマス・エーベンシュタイン Thomas Ebenstein
ツェルビネッタ/ダニエラ・ファリー daniela Fally
プリマドンナ(アリアドネ)/アドリアンヌ・ペジョンカ Adrianne Pieczonka
かつら師/ヴォルフラム・イーゴル・デルントル Wolfram Igor Derntl
召使/マルクス・ペルズ Marcus Pelz
ハルレキン/サミュエル・ハッセルホルン Samuel Hasselhorn
スカラムッチョ/カルロス・オスナ Carlos Osuna
トゥルファルディン/ペーター・ケルナー Peter Kellner
ブリゲッラ/レオナルド・ナヴァッロ Leonardo Navarro
ナヤーデ/マリア・ナザロヴァ Maria Nazarova
ドリヤーデ/スヴェトリーナ・ストヤノヴァ Svetlina Stoyanova
エコー/イレアナ・トンカ Ileana Tonca
指揮/ミヒャエル・ボーダー Michael Boder
演出/スヴェン=エリク・べヒトルフ Sven-Eric Bechtolf
舞台/ロルフ・グリッテンベルク Rolf Glittenberg
衣装/マリアンネ・グリッテンベルク Marianne Glittenberg
照明/ユルゲン・ホフマン Jurgen Hoffmann

開幕に先立ち、国立歌劇場の総裁でしょうか、幕前に登場して告知があります。ドイツ語なので良く判りませんが、どうやらツェルビネッタが急遽交替するようで、そのアナウンスだと思われます。
予定ではヒラ・ファヒマ Hila Fahima でしたが、上記のファリーに変更されました。

交代劇は他にもあって、指揮者が当初予定のペーター・シュナイダー Peter Schneider からボーダーに変更。更にマイナーな交替でしょうが、語りの執事長が Peter Matic からカマーラーに、トゥルファルディンもヴォルフガング・バンクル Wolfgang Bankl からケルナーに、更にはナヤーデもブリオニー・ドゥワイヤー Bryony Dwyer からナザロヴァに変わりました。配役の交替はオペラではつきもの。理由は様々ですが、オペラを楽しむ場合はある程度の覚悟が必要でしょう。

その配役、人名の表記は中々に難しく、アリアドネもオッタヴァのホームページでは上記の通りですが、エイドリアン・ピエチョンカという表記もよく見かけます。この辺りも深く詮索せずにお読みください。
ということでアリアドネ、ブリテンの放映時のような字幕トラブルはありませんでしたが、字幕のフォントが変わったことに気が付きました。より見易くなっており、関係者の努力に敬意を表したいと思います。

アリアドネはプロローグと劇中劇の二部構成になっており、前半と後半の間に20分間の休憩が入ります。
プロローグだけにしか登場しない出演者、逆に劇中劇のみの登場人物もいて舞台構成が難しい作品ですが、それを見事に解決しているのが今回のべヒトルフ演出でしょう。
べヒトルフは俳優出身で、ウィーン国立歌劇場でも演出家として成功している方。来年3月に放映予定のニーベルングの指環も彼の演出ですね。今回の演出は2016年、初演から100年記念となるザルツブルク音楽祭でも紹介されたものと同じでしょう。ウィーンでも定評あるもの。

当演出の特徴は、プロローグと劇中劇を緊密に関連させていることで、通常は片方の幕にしか登場しない歌手たちも、黙役として両方に出演するのが最大の特徴と見ました。これによってチグハグ感が一掃され、「ナクソス島のアリアドネ」という作品に統一感が生まれていることに感心しました。
もう少し具体的に紹介すると、劇中劇では舞台後方に客席が設けられ、10人ほどの観客が観戦しているという設定。この中にはシュトラウスのオリジナルでは登場しない館の主人と思しき人物も劇中劇を観戦していて、時折オペラに反応するのです。

プロローグでは作曲家が、館主の悲劇と笑劇を同時に上演せよという我儘に納得する過程が、歌唱も演技も見事に描かれます。前半が終わると、プロローグにしか登場しない出演者7人が勢揃いでカーテンコールを受けますが、作曲家のリンジーに盛大な歓声が挙がりました。
普通ならリンジーはこれで舞台を降りるのですが、この演出では劇中劇でも頻繁に登場。特に有名なツェルビネッタのレチタティーヴォとアリアではピアノを伴奏し、最後の聴かせ所となるカデンツァでは即興で作曲するシーンも。ここで聴き手は、この作曲家はシュトラウス自身のことでは、と勘繰ってしまうのでした。
この見事なコロラトゥーラ、オッタヴァのホームページで紹介されていたヒラ・ファヒマが聴けなかったのは残念ですが、代役のファリーが大熱演で客席から大歓声を浴びていました。

プロローグのフィナーレも、劇中劇の最後も作曲家とツェルビネッタの愛が描かれて両幕の統一感を創り出しているのにも注目。幕切れのシーンは、予想されることとは言え、意外なラスト。これはネタバレになりますから、見てのお楽しみとしましょう。
最後のカーテンコールは出演者17人が登場する壮観。これはブリテンを上回る人数ですね。
語りのカマーラーがチョッとカラヤンに、指揮者のボーダーもどことなくクナッパーツブッシュに似ているのも面白く見ることができました。

最後のカーテンコール後も拍手鳴り止まず、指揮者・アリアドネとバッカス・ツェルビネッタの4人が再度カーテンコールに応じて漸く拍手納まります。公演の大成功を味わえるシーンでしょう。

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