日本フィル・第351回横浜定期演奏会

早くもベートーヴェン・チクルスが始まった日本フィル、先の東京定期に続いて横浜もベートーヴェンとドヴォルザークを組み合わせるプログラムが披露されました。以下のもの。

ベートーヴェン/交響曲第1番ハ長調作品21
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番ハ長調作品15
     ~休憩~
ドヴォルザーク/交響曲第8番ト長調作品88
 指揮/ピエタリ・インキネン
 ピアノ/アレクセイ・ヴォロディン
 コンサートマスター/田野倉雅秋
 ソロ・チェロ/菊地知也

日本フィルの全曲演奏会は東京定期と横浜定期に跨って開催されるのが恒例の様で、例えばシベリウス交響曲チクルスはかつてのネーメ・ヤルヴィも、そしてインキネンのシリーズも東京+横浜。同様にブラームス交響曲チクルスも、ラザレフとインキネン共に同じパターンでしたっけ。
ということで2シーズンに亘って開催される今回のベートーヴェン・チクルスも、東京と横浜の両方に通わなければ全曲聴くことは出来ません。私は現在、両方の会員に登録しているので問題はありませんが、以前は東京定期に横浜は1回券参戦という形で上記の全チクルスを聴いたものでした。

東京の第3交響曲に続いては、第1交響曲。必ずしも順番通りに取り上げないのもインキネン流で、エロイカと同じくピアノ協奏曲との組み合わせ。共に第1番、共にハ長調という所も聴き所でしょうか。
ホールに入ると、舞台奥にティンパニが2組置かれているのが目に入ります。中央は小振りなバロック・タイプ、左手奥がモダン・タイプで、もちろん前半のベートーヴェン用と後半のドヴォルザークで使い分けるため。東京定期は団友の森茂氏が久し振りに登場していましたが、横浜は首席のエリック・パケラ。他の楽員に先立って頻りに二組のティンパニを調節しています。

さて今回のオーケストラ・ガイド、例月とは異なってインキネン本人も登場してのインタヴュー形式。東京定期でのアフター・トークと同じく音楽評論家の舩木篤也氏が司会進行を務めます。
内容は東京とほぼ同じ。ベートーヴェンへの意気込み、ドヴォルザークとの組み合わせ、最後はバイロイト音楽祭の話題で締められました。東京とダブる項目が多かったので、テーマだけを列記しておきましょうか。

・今回のベートーヴェンが共に第1番であることについて。
・2作ともベートーヴェンの若書き、先人たちの影響が強いという定説に異議はないかとの問い。(インキネンの答えは、既にベートーヴェンそのもので、例えば第1交響曲のバスの動きは第7交響曲に通ずるものがある。各所に出現するサプライズはベートーヴェンならでは)
・ベートーヴェンのハ長調について。(ベートーヴェンにとって、ハ長調は大地そのものを意味する調との答え)
・ドヴォルザークについて。(プラハでの体験から、チェコの精神が深化している由)
・第8交響曲について。(作曲にいそしんでいたヴィソカの森から受けたインスピレーションが感じられる。作曲家にとって幸福な時代の作品とのこと)
・ワーグナーとバイロイトについて。
・バイロイト祝祭劇場の特殊な構造について。(既に何度も通っているし、聴衆として体験したこともある。木造の建物が放つ独特な響きが素晴らしいと絶賛。来年夏の経験・知見を日本フィルにもフィード・バックしたい)

凡そ以上のような話題でした。
もちろん対向配置、みなとみらいホールでは特に第2ヴァイオリンが良く響き、インキネンの緻密な音楽創りが更に徹底しているな、と感じます。管楽器の首席クラスは勢揃い、ホルンにかつての首席だった日橋辰朗氏を迎え、ヴィオラのトップにも東京定期に続いて安達真理氏を据えるなど、豪華メンバーがインキネンに応えます。

第1交響曲では殆どの繰り返しを省略してのコンパクトな演奏。ピリオド系とは無縁ながら、決して肥大化しないスタイルに共感します。
続くピアノ協奏曲は、東京定期の第4番に続いてアレクセイ・ヴォロディン。第4同様、包容力豊かに、粒の立った華麗な音色が光ります。何よりインキネンとの相性も見事に、若きベートーヴェンのライオンを連想させる推進力とキレッキレのリズム感が抜群。それでいて第1楽章の展開部、第2楽章の特に中間部などの静寂感と神秘感に思わず息を呑むよう。これ程のベートーヴェン第1ピアノ協奏曲を聴ける機会は少ないのじゃないでしょうか。カデンツァはベートーヴェン自作の一番長いもの。凄い集中力で弾き切ります。

よほど会心の演奏だったのか、ヴォロディンはショパンの子犬のワルツ(第6番変ニ長調作品34-3)だけでなく、ラフマニノフの前奏曲作品32-12(英ト短調)と、2曲もアンコールしてくれました。これは贅沢な時間でしたよ。

後半はドヴォルザーク。実はこれ、個人的には最も聴きたかった曲目で、白状すれば今日(27日)のサントリーでも聴く予定。チケットをブッキングしておいて良かったと、心底感服したドヴォルザークでした。
とにかく良く鳴りましたね。みなとみらいホールってこんなに響いたのか、と我が耳を疑ったほど。バスの深い音が地を這い、床を伝って座席を揺るがすのに思わず仰け反ってしまいました。

圧倒的な感銘を弥増してくれたのが、アンコールされた同じドヴォルザークのスラヴ舞曲第14番。作品72の6変ロ長調というアンコールされることが珍しい一品で、この日は真にお買い得、お聴き得な定期でした。今日も聴いちゃうもんね~。

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