ウィーン国立歌劇場公演「シモン・ボッカネグラ」

ウィーン国立歌劇場のヴェルディ・シリーズ、第4弾となる「シモン・ボッカネグラ」のライブ・ストリーミングが始まりました。この10月1日に82歳となった演出界の大御所、ペーター・シュタインのプロダクションで、ウィーンでも指揮者、歌手を交代しながら続けられてきたお馴染みの舞台と言えましょう。
今回のものは10月23・26・29日の三日間公演されるもので、放映されているのは二日目の公演です。以下の配役。

シモン・ボッカネグラ/シモーネ・ピアッツォーラ Simone Piazzola
フィエスコ/フェルッチョ・フルラネット Ferruccio Furlanetto
ガブリエーレ・アドルノ/ファビオ・サルトーリ Fabio Sartori
アメーリア/マリーナ・レベカ Marina Rebeka
パオロ/クレメンス・ウンターライナー Clemens Unterreiner
ピエトロ/ダン・パウル・ドゥミトレスク Dan Paul Dumitrescu
射手隊長/ルカーニョ・モヤケ Lukhanyo Moyake
侍女/リディア・ラスコルブ Lydia Rathkolb
指揮/パオロ・カリニャーニ Paolo Carignani
演出/ペーター・シュタイン Peter Stein
舞台/シュテファン・マイヤー Stefan Mayer
衣装/モイデル・ビッケル Moidele Bickel

実はこの舞台、機会が幸いすれば私も現地で観戦したかもしれない公演で、ある種の感慨を以て鑑賞しました。
「シモン・ボッカネグラ」はミラノ・スカラ座、クラウディオ・アバドの指揮で行われた公演が有名ですが、中々舞台には掛からないオペラ。内容的には政治がテーマとなっているストーリーで、主な配役4人の人間関係が判り難く、ある程度の予備知識が必要とされることも、一般的には馴染みが薄い原因でもありましょう。

ヴェルディがピアーヴェの台本によって作曲したのは1857年、43歳の時で、ヴェネチアで初演されましたが大失敗。それから24年も経た1881年、68歳の時に今度はかつての宿敵だったボーイトが対本を改作し、改訂版がミラノで初演されて成功しました。現在は改訂版による上演が主流で、今回の公演ももちろん改訂版によるものです。
古い番号オペラのスタイルと晩年の円熟した書法が微妙に入り組んでいるため、音楽的にも複雑になっているのが特徴と言えましょうか。

作品はプロローグと三つの幕で構成されていますが、プロローグと本編の間に25年の歳月が流れており、登場人物の名前も二通りあるという複雑さ。タイトルのシモン・ボッカネグラという役名はプロローグでのもので、本編ではジェノヴァ共和国の総督を意味する「Doge」(ドージェ)という役名になっています。
一方、政敵であるフィエスコは、25年後はアンドレア・グリマルディーの名で登場するという具合で、主役4人の人間関係をあらかじめ頭に入れておくことをお勧めしておきましょう。
今回の公演ではプロローグと第1幕が続けて上演され、第1幕と第2幕の間に20分間の休憩が入ります。

平民派と貴族派の対立する政治劇、複雑な人間関係、華やかなアリアが少ないということで一度聴いただけで理解するのは難しいオペラですが、音楽的な聴き所は二重唱、三重唱などのアンサンブルにあると言えましょう。
特にプロローグでのシモンとフィエスコによる対立の二重唱と、第3幕の幕切れ近くで歌われる二人による和解の二重唱はシンメトリカルな意味でも最大の聴き所、と思慮します。シモンはバリトン、フィエスコがバスということで男声低声部によるデュオは、「リゴレット」におけるリゴレットとスパラフチーレの二重唱を発展させたものでもあるし、この後「ドン・カルロ」での国王と異端裁判長による二重唱の先駆けとなるものでもありましょう。
敵対する二人が最後には和解するというストーリー、ヴェルディとボーイトとの関係に擬えて聴いてみるのも楽しいと思いました。

タイトルロールのシモン・ボッカネグラを歌ったピアッツォーラは、6月に上演・放映されたヴェルディ「アイーダ」でアモナスロを歌ったバリトン。
対するフィエスコのフルラネットは、カラヤン指揮「ドン・カルロ」のフィリッポ2世で知られるように、優れた演技力と圧倒的な声量で知らぬ人のない最高峰のバス歌手ですね。

アメーリアを歌うマリーナ・レベカはラトヴィアのリガ生まれのソプラノで、今年のザルツブルク音楽祭で披露された「シモン・ボッカネグラ」の新演出でも同じ役を歌っており、アメーリアの第一人者と言うべきソプラノ。ウィーンでは来月予定の「エフゲニ・オネーギン」でもタチアーナを歌う予定ですが、11月に来日するトリエステ・ヴェルディ劇場の公演で当たり役「椿姫」のヴィオレッタを歌うことになっています。ウィーンのシモンを終えれば日本に向かうはずで、生身のレベカを聴けるのも間近でしょう。
ガブリエーレのサルトーリは9月の「ドン・カルロ」でもタイトル・ロールを歌ったテノールで、ウィーン国立歌劇場のライブ・ストリーミング・ファンにもお馴染みの舞台となりました。

指揮のカリニャーニも読響などで度々登場しており、懐かしく観戦しました。

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