ウィーン国立歌劇場公演「ウェルテル」

2019年も残り2か月、11月に入って早々、ウィーン国立歌劇場からのライヴ・ストリーミングは連日の放映となります。先ず10月31日の公演「ウェルテル」が始まるや、翌日からは「マクベス」が中継される予定。日本時間では11月1日から4日まで、間の二日間は2本のオペラが聴き放題・見るがままという、何とも贅沢な時間となっています。
ということで今朝は早起き、大注目のグリゴーロがタイトルロールを歌うマスネの「ウェルテル」を観戦しました。現地では10月22・27・31日の三日間行われた公演の最終日で、第2幕と第3幕の間に20分の休憩が入ります。

ウェルテル/ヴィットーリオ・グリゴーロ Vittorio Grigolo
アルベール/アドリアン・エレート Adrian Erod
シャルロット/エレーナ・マクシモワ Elena Maximova
ソフィー/イレアナ・トンカ Ileana Tonka
大法官/ハンス・ペーター・カンマラー Hans Peter Kammerer
シュミット/ベネディクト・コーベル Benedikt Kobel
ジョアン/アイク・マルティロッシアン Ayk Martirossian
指揮/フレデリック・シャスラン Frederic Chaslin
演出/アンドレイ・セルバン Andrei Serban
舞台/ペーター・パブスト Peter Pabst
衣装助手/ペトラ・ラインハルト Petra Reinhardt

ソフィーが予定のダニエラ・ファリー Daniela Fally からトンカに代わりましたが、心配していたグリゴーロは無事に出演しています。グリゴーロ・ファンの皆様、ご安心下さい。
グリゴーロは、9月のロイヤル・オペラ来日公演でグノー「ファウスト」を歌って日本のファンを魅了しましたが、残念ながら最終日の神奈川公演は体調不良でキャンセルとなってしまいました。実はこのキャンセル、既に公になっているので伏せることでもないでしょうが、本当の理由はグリゴーロのセクハラ行為だった由。今回の「ウェルテル」での対応が注目されていましたが、マイヤー総裁は契約通り決行。そう言えばウィーンはドミンゴとの契約も予定通り履行すると発表されていましたね。

余計な前置きかも知れませんが、ウェルテルは主役テノール次第というオペラでもあり、グリゴーロのタイトルロールを素直に楽しみました。
さて今回の「ウェルテル」。実は同じセルバン演出によるウィーンでの舞台が既にDVD化されていて、熱心なファンにはお馴染みのもの。2005年の舞台で、その時はアルバレスのウェルテル、ガランチャがシャルロットというキャストでした。アルベールとソフィーは今回と同じキャストですから、何度もご覧になった方も多いでしょう。

ルーマニアの演出家セルバンの演出は、舞台をゲーテの時代ではなく1950年代に置き換えているのが特徴で、ブラウン管のテレビ、カメラ、サッカーボールなどの小道具が、今時のファンにはレトロな感覚を呼び覚ますでしょう。
全4幕、どの場面でも舞台中央に巨木が2本屹立しており、これがワーグナー「指環」のトネリコを連想させます。「ウェルテル」の場合、これは菩提樹と思われますが、マスネは第2幕には「菩提樹」Les Tilleuls と表題を付していますし、最後のウェルテルの死の場面では、二本の菩提樹の下に墓を作ってくれ、という台詞が出てきますから、その象徴としての菩提樹なのでしよう。

更には第1幕、ウェルテルが登場して最初に歌うアリア「おお、恵みに溢れた自然よ」ではシャルロットが密かにウェルテルを見つめていますし、ウェルテルとシャルロット二人だけの第4幕でも、二人のやり取りをアルベールが具に窺っているという演出。
台本とは離れて象徴的に暗示させる手法もワーグナーの楽劇を連想させますが、そもそもマスネが「ウェルテル」の作曲に際してバイロイトで「パルシファル」を観戦したという経緯にヒントを得たものと思慮します。もちろんマスネの音楽にワーグナーの影響が感じられるのも、演出のアイデアに寄与しているのでしょう。

指揮のシャスランはウィーンでのフランス・オペラを専ら担当しているようで、先シーズンの「マノン」、今期の「ホフマン物語」に続いての登場。前奏曲ではピットの様子が長々と映し出されますが、コンサートマスターがシュトイデであることも確認できました。

グリゴーロはパヴァロッティの再来と騒がれているテノールで、わが国でも、特に女性ファンから「グリゴーロ様」と呼ばれて慕われている存在。高い弱音が美しく、歌唱はもちろん演技力も秀逸で、ウェルテルは適役と断言できましょう。
一方のシャルロットのマクシモワは、カルメンでウィーン・デビューを飾ったメゾ。2016年には新国立劇場でもシャルロットを歌いましたし、2017年にも同劇場でカルメンを披露してくれた日本でもお馴染みの名花。脇役の多いメゾ・ソプラノですが、フランス・オペラにはカルメン、デリラ、シャルロットと存在感ある役柄が多く、今回も彼女を満喫できました。

他ではアルベールを歌うエレートにも注目。来年6月に予定されている新国立劇場の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」でベックメッサーを歌うことになっています。
もう一つ目を瞠ったのは、最後のカーテンコール。二度目に一人でコールを受けたグリゴーロが血まみれの衣裳を脱ぎ、シャツ姿で登場、そのシャツに「I ♡ U, Stefi」と大書してありました。ステフィ、って誰? グリゴーロ・ファンの皆様、教えてくださいな。

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