日本フィル・第352回横浜定期演奏会

急に寒くなり、中々雨が止まない首都圏、横浜みなとみらいホールで日本フィルの横浜定期を聴いてきました。プログラムには「リムスキー=コルサコフ生誕175周年プログラム」という文字が踊っています。
で、こんな選曲でした。

リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲作品34
ロドリーゴ/アランフェス協奏曲
     ~休憩~
リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」作品35
 指揮/大井剛史
 ギター/朴葵姫
 コンサートマスター/田野倉雅秋
 ソロ・チェロ/辻本玲

横浜定期は開場が午後5時10分、20分から「オーケストラガイド」とタイトルが付いたプレトークがあり、6時開演がパターン。プレトークは毎回語り部が替わりますが、今回はやや久しぶりとなる奥田佳道氏。確か前回はインキネン指揮の神奈川県民ホールだったと記憶しますから、みなとみらいホールはもっと前、ラザレフの時でしたっけ?

今回のガイドは、プログラム誌にもあったリムスキー=コルサコフの生誕175周年から。175という日本では中途半端に思える数字が、欧米では重要な節目の「25」という数字に基づく区切りである、という解説から入り、話は自然にリムスキー=コルサコフへ。実は先日行われた東京定期ではグラズノフとストラヴィンスキーが演奏され、共にリムスキー=コルサコフの弟子であること。東京と横浜を聴いて日本フィルの意図が完結する、というオチもありました。
リムスキー=コルサコフと言えば管弦楽法の大家。彼が著した「和声法過程」と「管弦楽法原理」という2冊は未だに現役、という話題も提供され、テーマはこの日演奏される2曲に登場する様々な名人芸に。中でもコンサートマスターが大活躍するのは「シェエラザード」だけではなく、冒頭のスペイン奇想曲からして最初「スペインの主題によるヴァイオリンと管弦楽のための幻想曲」として着想された、という逸話からコンマス田野倉氏の話題へ。ある意味で今回は田野倉雅秋コンサートマスター就任記念コンサートでもある、と紹介されました。確か、9月の東京定期が正式な田野倉氏の「就任記念演奏会」だったと思います。

話はヴァイオリンから、第2のソリストとしてチェロの辻本玲氏へ。更にはシェエラザードの第2楽章、トロンボーンのソロは2番奏者の聴かせ所とのことで、伊波睦氏の名前も上がりました。ふとプログラムに目を落とすと、当の伊波氏は10月18日で定年を迎えていたそうな。今回も舞台に上がっていましたし、定年後も嘱託として演奏されると明記されていました。ということで2番トロンボーン、しみじみと聴くことが出来ましたね。
海軍出身で遠洋航海の経験もあるリムスキー=コルサコフが書いた、全員がソリストのようなシェエラザードですが、アランフェス協奏曲についても一言。第2楽章が有名な協奏曲を二つ挙げよ、というクイズがあれば、一つはモーツァルトのフルートとハープ、もう一つがアランフェスなのだそうで、また知識が一つ増えたな。

さて本番。オーケストラガイドに導かれて、耳はソリストの、楽員たちのソロに集中します。そして意外な共通点にも。
スペイン奇想曲は田野倉氏の華麗なソロが聴きどころですが、2曲目の変奏曲ではホルンが中心なれど、直ぐにイングリッシュ・ホルンのソロに耳を奪われます。この楽器、実はアランフェスの第2楽章でも大活躍しますよね。今回の選曲ならではのソロだったことに改めて気が付きました。

奥田氏のガイドのほかにも、注意しないと気が付かない共通点。
アランフェス協奏曲は、第1楽章冒頭のギターも、第2楽章頭のギターとイングリッシュ・ホルンも、陰で支えているのは3本のコントラバスの持続音。コントラバスの持続音と言えば、シェエラザードでも第2楽章冒頭のファゴットは4本のコントラバスが殆ど聴こえないような弱音で支えますし、第4楽章出だしのヴァイオリン・ソロはコントラバス全員(この日は7人)が支えていました。よく見れば、アランフェス協奏曲もシェエラザードも♯二つの調性じゃありませんか。そっくりに聴こえるわけだ。

演奏前に「聴き所」を喚起するガイド。お話を聞いてこその、聴き古した作品を再発見する醍醐味でしょう。お陰で大ホールで聴く繊細なギター・ソロにも更なる集中力で聴けたような気がします。
アランフェスと言えばこの夏、某コンサートでエレキ・ギターでの演奏に幻滅しましたが、朴葵姫(Park Kynhee)の美しいトレモロに耳を洗われる思いがしました。

ギター・ソロのアンコールは、タレルガの「アルハンブラの思い出」。誰でもが知っているあの曲、アンコールの定番に大満足。
そしてオーケストラも、当然ながらアンコール。生誕175周年プログラムですから、もちろんリムスキー=コルサコフの「雪娘」から「軽業師の踊り」。雪娘は歌劇と表記しても良いのでしょうが、組曲から、と書くのもあり、かも。この曲は通常、歌劇全曲の中で聴くことは滅多にないことで、作曲者がオペラから編んだ管弦楽組曲の1曲として楽しむことが多いからです。

大井剛史は、同じ横浜定期でメンデルスゾーン「エリア」で注目した働き盛り。自身のツイッターではシェエラザードのアプローチに迷った、と書かれていましたが、どうして自信に満ち溢れた指揮と聴きました。
同じプログラムは日曜日、杉並公会堂でも演奏されるようです。

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