東京フィル・第839回定期演奏会

アベック台風が列島に近付く中、東フィルのサントリー定期を聴いてきました。雨は未だ小雨、それでも東京23区には大雨洪水注意報が発令されています。
今月東フィル定期を聴くのは二度目、先日オペラシティーで沼尻指揮のヘンツェを楽しみましたが、今回は定期会員であるサントリーでの定期。来月の東フィルはチョン・ミョンフンの「トリスタン」が予定されていますが、何故かオーチャードのみの公演で、12月も定期は無いことから、早くも今年今年最後のサントリー定期でもあります。

10月は常任指揮者エッティンガー登場、ソリストに鬼才ファジル・サイ登場とあって、客席もかなり埋まっていました。プログラムはズバリ名曲二本立て。一般的にも食欲をそそるメニューでしょう。

ラヴェル/ピアノ協奏曲ト長調
     ~休憩~
リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」
 指揮/ダン・エッティンガー
 ピアノ/ファジル・サイ
 コンサートマスター/荒井英治

例によってエッティンガーは対抗配置の並び、いつも以上に低音が前面に出てくる印象。

前半のラヴェル、これはプログラムでも紹介されていましたが、イスラエル人の指揮者とトルコ人ピアニストが日本のオーケストラで共演するという、グローバルな視点が聴きものです。
そもそもラヴェル自身がフランス人とは言いながらバスク地方の生まれ。この協奏曲もルーツはバスク民謡を主題にした未完成の小品集で、数年前のアメリカ旅行で接したジャズの影響を加味したもの。作品自体に異国趣味が横溢した協奏曲でもあります。
ところで、ラヴェルの作品解説については東フィルのプログラムに毎回掲載されているエイプリル・ラカーナ April L. Racana 女史の英文が秀逸。失礼ながら平均的な日本語解説より遥かに得る所の多いプログラム・ノートです。面倒がらずに是非一読されることをお勧めしておきましょう。

登場したファジル・サイは、青い袖に黒のジャケット。“サイが着ているのはシャンハイタンよ”と、これは家内の解説。全てに国際色豊かなラヴェルを堪能しました。
サイのピアノは柔らかく透明で、特に高音のキラキラした響きが独特。これに活き活きしたリズムが加わり、これが普段聴いている同じスタインウェイのピアノかと耳を疑います。サイは「ピアノを弾く」のではなく、「ピアノで歌う」とでも表現しておきましょうか。

当然ながらアンコールが弾かれ、サイ自身の作品から「Ses」と「Duserim」の2曲。共に原曲は歌曲で、抒情的なメロディーが美しい作品。華麗なテクニックより、その歌心を聴くアンコールでした。ここでのサイは、ピアノの吟遊詩人。

そして後半のシェエラザード。前半は指揮棒を使っていたエッティンガー、リムスキー=コルサコフでは棒を使わずにオーレストラをコントロールして行きます。

この所極めてシンフォニックなシェエラザードを聴く機会が多かった小生ですが、やはりエッティンガーは劇場的なアプローチが特色。全体としては速目のテンポ設定を採り、随所にドラマティックな解釈を付加して行きます。
いくつか気が付いた点を記録しておくと、第2楽章に出てくる弦のピチカートに乗ってクラリネット、後半ではファゴットがカデンツァ風にソロを披露する所。特にファゴットでは、3回演奏するパッセージの3度目にピチカートを激しくクレッシェンドさせて興奮の度を高めていくやり方。
終楽章冒頭のヴァイオリン・ソロを最初と二度目では著しく表情を変えて弾かせる手法。シャリアール王の主題の後、最初は低弦が ppp で静かに入るのに対し、二度目の低弦はズシンと f で入り、直ぐに pp に落とす。もちろん譜面を深読みした結果ですが、如何にもオペラ畑で活躍している指揮者を意識させる解釈と言えるでしょう。

シェエラザードも、ロシア人作曲家がアラビアをテーマに異国趣味を前面に出した作品。こちらもグローバルな演奏という意味で共通点が感じられます。
その所為でしょうか、客席を見渡すとグローバルな顔、顔、顔。先日のラザレフ/日フィルにも共通していましたが、真に外国人聴衆率の高い公演でした。

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