今日の1枚(27)

ベイヌム/コンセルトへポウ・ライヴも4枚目になります。今日はこれ、
①ヘンク・バディングス/チェロ協奏曲第2番(1940)
②チャイコフスキー/交響曲第4番
①は1941年3月27日の収録。
②は変則的で、第1楽章から第3楽章までが1941年2月13日の演奏、第4楽章のみは1940年5月26日のものです。つまり二つの演奏会を繋ぎ合わせているのです。
そこで②から。解説書によるとこういう事情だそうです。
このセットに使用されている音源は、コンセルトへボウの演奏会をラジオ放送する目的で直接ガラス・ディスクに刻み込んだもの。ダビングなどは行われず、唯一無二のディスクです。当然ながら損傷し易く、劣化も酷いものでした。
1941年の第4は、こういう事情で第4楽章は残っていません。そこで1940年の録音を代用した由。(あくまでも解説者の想像ですが)
ところが1940年の演奏も曰くがあるのです。それはこういうこと。
この年はチャイコフスキーの生誕100年に当たっていますね。コンセルトへボウではそれを記念してチャイコフスキーを纏めて取り上げていました。(このシリーズの1枚目に収録されている「ロメオとジュリエットもその一環」)
チャイコフスキー100年祭のコンサートには3種類のプログラムが用意され、全てメンゲルベルクが指揮をする予定でした。
しかしコンサートの直前、第2次世界大戦が勃発します。この時ドイツにいたメンゲルベルクはアムステルダムに戻れず、代理で全てのコンサートをベイヌムが振ることになったのですね。
資料や印刷物の変更は間に合わず、記録上はメンゲルベルク指揮とされているのが1940年の第4交響曲。
しかし以上の事実関係が明らかになった現在では、実際に指揮台に立ったのがベイヌムであることが証明されているそうです。
以上の経緯を持った録音ですが、この演奏はメンゲルベルクではないかと疑われるくらい、大胆なものです。ベイヌムの解釈が何処まで徹底しているのかは不明。
例えば第1楽章。展開部に入って間もなく、啜り泣きのテーマに入る直前(練習記号Oの直前、第236小節)で思い切ったテンポのギアダウンが行われます。これは再現部の直前(第281小節)も同じで、かなり衝撃があります。
第1楽章ではコーダも傑作で、例の繰り返しの箇所(第381小節から)ですが、ゆっくりと始めて次第に加速、繰り返しでは気が狂ったようなテンポで突き進みます。更に401小節と402小節の間には、当時は習慣的だった「休み」を置いています。
第2楽章も全体にテンポの揺れが大きい演奏で、三部形式の主部が再現する直前(199小節)にはパウゼがあります。
第3楽章には変わった箇所はありませんが、第4楽章がまた変わっています。例えばマーチ風の主題(第38小節)は必ずテンポを落としますし、副次部に入る直前(練習記号B、第59小節と60小節の間)にはパウゼが当然のように入ります。再現部の同じ箇所(練習記号E、148小節と149小節の間)も同様です。
このパウゼ、練習記号C(第91小節と92小節の間)にも入るのは驚き。ここに休みを置く演奏を私は他に知りません。
最高に傑作なのはコーダに入ってから。ここはイン・テンポで盛り上げるのが普通ですが、この演奏では266小節と267小節のシンコペーションと、273小節と274小節の2箇所に大胆なギアダウンが出てきます。
以上、第4楽章は直前の代演としても、最初の3楽章はベイヌム自身の解釈。妙に統一が取れていて、ベイヌムらしくない大芝居が仕掛けられているのが興味をそそります。あるいはコンセルトへボウにおけるメンゲルベルクの「伝統」を継承したのかも。
①のソロを弾いているのは、カレル・ヴァン・レーヴェン・ブームカンプ Carel van Leewen Boomkamp (1906-2000) 。1926年から1930年までコンセルトへボウの首席チェリストだった人で、この演奏の時はソリストとして独立していました。
後にはオランダにおけるオーセンティックな演奏の道を拓いた方で、グスタフ・レオンハルト Gustav Leonhard とアンナー・ビルスマ Anner Bijlsma は彼の弟子だそうです。
ヘンク・バディングス Henk Badings (1907-1987) はデルフトの工科大学で学んだ変り種。オランダ現代音楽界の重鎮です。
スコアがないので内容に触れることは出来ませんが、第2チェロ協奏曲は3楽章形式。第1楽章アレグロ・モルト、第2楽章ラルゴ、第3楽章アレグロの伝統的な協奏曲スタイルで書かれています。
初演は1940年に同じチェリストとメンゲルベルクの指揮で行われていますが、このディスクに収録されているのは翌年の再演の記録。
なお、オランダの出版社ドネムス Donemus の販売カタログに第2チェロ協奏曲のスコアが載っていますが、これは1948年に改訂した第2版。もし興味を持たれてスコアを取り寄せても、このディスクの演奏とは違いがあるはずですから念のため。
参照楽譜
①なし
②ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.71
このシリーズ、明日は都合によりお休みです。

 

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