ウィーン国立歌劇場公演「サロメ」

ウィーン国立歌劇場の2019-20年シーズンはヴェルディに焦点を当てていますが、もう一人ツィクルスと呼んでも良いほどに多くの作品を取り上げているのがリヒャルト・シュトラウス。既にライブ・ストリーミングで紹介された「影のない女」と「ナクソス島のアリアドネ」に続き、「サロメ」の放映が始まりました。
登場人物の多いオペラで、以下の配役がクレジットされています。

ヘロデ/ヘルヴィッヒ・ペコラーロ Herwig Pecoraro
へロディアス/ワルトラウト・マイヤー Waltraud Meier
サロメ/リゼ・リンドストローム Lise Lindstrom
ヨハナーン/ミヒャエル・ヴォレ Michael Volle
ナラボート/カルロス・オスナ Carlos Osuna
へロディアスの小姓/ウルリケ・ヘルツェル Ulrike Helzel
ユダヤ人1/トーマス・エベンシュタイン Thomas Ebenstein
ユダヤ人2/ペーター・イェロジッツ Peter Jelosits
ユダヤ人3/パーヴェル・コルガティン Pavel Kolgatin
ユダヤ人4/ベネディクト・コーベル Benedikt Kobel
ユダヤ人5/ライアン・スピード・グリーン Ryan Speedo Green
ナザレ人1/アレクサンドル・モイシウク Alexandru Moisiuc
ナザレ人2/ハンス・ペーター・カンマラー Hans Peter Kammerer
カッパドキア人/ヨハンネス・ギッサー Johannes Gisser
兵士1/マルクス・ペルツ Marcus Pelz
兵士2/ダン・パウル・ドゥミトレスク Dan Paul Dumitrescu
奴隷/トーマス・ケーバー Thomas Kober
指揮/ミヒャエル・ボーダー Michael Boder
演出/ボレスワフ・バーログ Boleslaw Barlog
舞台及び衣装デザイン/ユルゲン・ローズ Jurgen Rose

当初の指揮者にはミッコ・フランク Mikko Franck の名が上がっていましたが、上記のボーダーに変更されました。先のローエングリンのような直前の交代劇ではありません。
ミヒャエル・ボーダーは現代音楽を得意とするドイツの指揮者で、現在はバルセロナのリセウ劇場の総監督。シュターツオバーにも度々登場しており、今シーズンのウィーンではマンフレッド・トロヤーンの「オレスト」やヒンデミットの「カルディヤック」を振っています。ただし、どちらもライブ・ストリーミングの対象ではありません。確か、去年5月に放映されたアイネムの「ダントンの死」も彼の指揮だったと記憶しています。

今回の舞台は、1972年にウィーンで初登場したプロダクション。もう半世紀近くも上演され続けているウィーンではお馴染みの演出でしょう。バーログは1999年3月に92歳で亡くなったドイツの演出家・映画監督で、本来は演劇の人。戦後、ベルリンの演劇界を復興させた人物として有名なのだそうです。
個人的な体験で言えば、サロメには物議を醸すような演出が結構多く、びわ湖でのカロリーナ・グルーバー演出、東京二期会のペーター・コンヴィチュニー演出などはその典型でしょう。去年6月にやはり東京二期会で観たヴィリー・デッカーの演出はオーソドックスなもので安堵したものですが、今回のバーログ演出は更に伝統的、というか台本に忠実な舞台で、初めてこのオペラを見る人にも安心して薦められる「サロメ」でしょう。

有名な7枚のヴェールの踊りもちゃんと踊られますし、銀の盆に乗ったヨハナーンの首も出てきます。最後にサロメを殺せ、と指示を出すのもヘロデ王です。
衣装も恰もクリムトの絵画から抜け出したようで、ヨハナーンが閉じ込められている古井戸も舞台中央に重々しく設置されています。サロメの白い衣装と、ヨハナーンの黒い服装が対象を成しているのにも好感を持ちました。サロメの台詞、ヨハナーンの白い身体、黒い髪、赤い唇といった色彩感とも整合性が取れています。

今シーズンのサロメ、実は去年の秋にも3公演開催されており、その時はデニス・ラッセル・デイヴィスの指揮、オーストリン・シュトゥンダイトがサロメを歌いました。先のローエングリンでオルトルートを歌ったリンダ・ワトソンもへロディアスで参加していました。
今回ライブ・ストリーミングされたものは、1月20日と24日の2公演のうち後のもの、ということになります。

主役のサロメを歌うリンドストロームは、アメリカのソプラノ。トゥーランドットが有名で、ウィーン国立歌劇場にはヴォツェックのマリーでデビューした由。ヘロデに踊りの代償としてヨハナーンの首を要求し、ヘロデが何とか要求を取り下げようとしますが訊かず、最後に「ヨハナーンの首」と絶叫する箇所は譜面を超えて真に迫っていました。
ヨハナーンのヴォレはドイツのバリトンで、大柄な体躯が如何にもヨハナーン。ヘロデを歌うペコラーロは、オーストリアのテノールで、ウィーン国立歌劇場のアンサンブル歌手でもあります。3月の指環ではミーメを歌うことになっており、今回のライブ・ストリーミングでは彼の案内で放送が始まる趣向になっています。
へロディアスのマイヤーは、グラミー賞を受賞したこともあるドイツのメゾ・ソプラノ。ウィーンでは宮廷歌手の称号も持っており、オペラ・ファンなら知らない人はいないでしょう。さすがの貫録を示していました。

極めてオーソドックスなサロメを堪能しましたが、最後の最後、ウィーン国立歌劇場の管弦楽団、すなわちウィーン・フィルともあろうものがどうしたことでしょう。最後の一撃、多くの楽員が落ちてしまいました。オーケストラの不注意というより、指揮者の責任じゃないでしょうか。最後でズッコケたサロメでしたね。長いシーズン、レパートリー公演ですから時々はこんな事故が起きるのかもしれません。

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