ウィーン国立歌劇場公演「エフゲニ・オネーギン」

ウィーン国立歌劇場からのライヴ・ストリーミング、11月最後の演目はチャイコフスキーの「エフゲニ・オネーギン」です。
実は先週、国立歌劇場のバレエ公演が放映されていましたが、私はこの分野に疎く、知識もないので記事は遠慮しました。演目は「ペール・ギュント」で、グリーグの表題作を中心に同じグリーグのピアノ協奏曲やホルベルク組曲の音楽を使って現代風に再編成したバレエ。私も楽しく観戦しましたが、特にピットに入ってピアノ・ソロを担当されたのがウィーン国立歌劇場バレエ団のピアニスト、滝澤志野さんで、最後のカーテンコールにも参加、とても頼もしく思いました。
バレエの最後は彼女のソロ、抒情小品集第4集(作品47)に含まれている「メロディー」で終わるのが印象的で、客席に大きな感銘を与えていたのが印象的でした。オッタヴァ・テレビのスペシャルコラムには彼女が投稿された見所が掲載されていますので、そちらもお読みください。

さて日本時間の27日早朝から3日間放映される「エフゲニ・オネーギン」は以下のキャストだと思われます。11月21・24・26日の3日間行われた公演の最終日。

タチアーナ/マリーナ・レベカ Marina Rebeka
エフゲニ・オネーギン/ボリス・ピンハソヴィチ Boris Pinkhasovich
レンスキー/パヴォル・ブレスリク Pavol Breslik
グレーミン侯爵/フェルッチョ・フルラネット Ferruccio Furlanetto
オリガ/マルガリータ・グリツコヴァ Margarita Gritskova
ラーリナ/モニカ・ボヒネック Monika Bohinec
フィリピエヴナ/アウラ・ツヴァロフスカ Aura Twarowska
トリケ/パーヴェル・コルガティン Pavel Kolgatin
陸軍大尉&ザレツキー/イゴール・オニシュチェンコ Igor Onishchenko
指揮/ミヒャエル・ギュトラー Michael Guttler
演出/ファルク・リヒター Falk Richter
衣装/マルティン・クレーマー Martin Kraemer
振付/ジョアンナ・ダッドリー Joanna Dudley
照明/カーステン・サンダー Carstn Sander
舞台/カトリーン・ホフマン Katrin Hoffmann

思われますと書いたのは、放送冒頭で紹介されるキャストのタイトルロールと、最後に流れるそれとが微妙に異なっているから。実際に舞台を見、ネットなどで確認した結果、最後に流れるタイトルロールが正しいものと判断しました。特にタチアーナは10月の「シモン・ボッカネグラ」にも出演しており、間違いなく彼女です。
レベカは、つい先頃まで日本で椿姫を歌っており、彼女の充実した舞台に接せられた方も多いでしょう。またグレーミン侯爵を歌うフルラネットとの共演と言えば、「シモン・ボッカネグラ」に続くもの。ライブ・ストリーミングのファンにとってもお馴染みのキャストになりましたね。

この夏は松本で、先月は新国立劇場でも取り上げられたオネーギンですが、ウィーン国立歌劇場の「エフゲニ・オネーギン」と言えば、2008年の「東京のオペラの森」との共同制作が現在も使われています。演出のリヒター以下、ホフマンの舞台まで、舞台スタッフは全て同じ。今回のウィーンも、10年前の小澤征爾指揮の舞台を思い出しながら聴かれた方もおられましょう。

ほとんどの場面で雪が降っており、全体に暗く、シンプルな演出。どの時代にも適応できる舞台となっており、息長く続けられているのは、その普遍性故でしょうか。
登場人物たちの衣裳も地味なものが多く、母親のラーリナと妹のオリガだけが比較的明るい色合いの衣裳で登場します。これもオペラの性格を意識した選択なのでしょう。

第1幕第3場、オネーギンがタチアーナを諭し、彼女の愛を拒絶する場面では、舞台に立つカップルたちが次々と別れていく。これが作品の悲劇を象徴的に表現します。有名な第3幕冒頭のポロネーズも、登場人物全員に笑顔は無く、華やかさとは無縁の舞台でした。
第1幕と第2幕は続けて上演され、数年が経過したという設定の第2幕と第3幕の間に20分の休憩が入ります。伝統的なカットがあり、全曲をほぼ通して見ることが出来るコンパクトな公演と言えるでしょうか。

もちろん、10年前のウィーンや東京とは歌手たちがすっかり入れ替わっています。上に紹介したタチアーナとグレーミン侯爵以外では、タイトル・ロールのオネーギンを歌うピンハソヴィチとオリガ役のグリツコヴァは、共にロシア生まれ。
特にグリツコヴァは2012年からウィーン国立歌劇場のアンサンブル歌手を務めており、ウィーン国立歌劇場の来日公演では、ムーティの指揮でケルビーノを歌っていた日本でも人気あるメゾですね。
レンスキーのブレスリクは、スロヴァキア生まれで、モーツァルトが得意のテノール。モーツァルトを収めたCDもあるそうです。抒情的で美し声の持ち主と聴きました。

第2幕までに登場するレンスキー、オリガ、ラーリナは第3幕では出番がなく、逆にグレーミン侯爵は第3幕第1場のみ。そこで有名なアリア「恋は年齢を問わぬもの」を歌って喝采を浴びるのですから「美味しい役」なんでしょうね。当然ながらフルラネットに大喝采。
全幕を通して二人の心情の機微と移ろいを巧みに表現するタチアーナのレベカ、オネーギンのピンハソヴィチの競演を楽しむオペラでしょう。

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