ウィーン国立歌劇場公演「ルサルカ」

2月のライブストリーミングは4本ですが、うち3本が上旬に集中。9日間連続でオペラ3作品が楽しめます。前回の「レオノーレ」に続き、水曜日からはドヴォルザークの「ルサルカ」が始まりました。
いつでも見られるオペラではなく、私が知っているのは有名なルサルカのアリア「月に寄せる歌」くらいのもので、通してジックリ見るのは初めてです。以下のキャスト。

ルサルカ/オルガ・ベスメルトナ Olga Bezsmertna
外国の王女/エレーナ・ツィトコーワ Elena Zhidkova
王子/ピョートル・べチャラ Piotr Beczala
水の精ヴォドニク/パク・ヨンミン Jongmin Park
イェジババ(魔女)/モニカ・ボヒネク Monika Bohinec
森番/ガブリエル・ベルムデツ Gabriel Bermudez
皿洗い(料理人の少年)/レーチェル・フレンケル Rachel Frenkel
第一の森の精/ディアナ・ヌルムカメトヴァ Diana Nurmukhametova
第二の森の精/シルヴィア・ヴェレシュ Szilvia Voros
第三の森の精/マーガレット・プランマー Margaret Plummer
狩人の声/ラファエル・フィンガーロス Rafael Fingerlos
指揮/トマーシュ・ハヌス Tomas Hanus
演出/スヴェン=エリック・べヒトルフ Sven-Eric Bechtolf
舞台/ロルフ・グリッテンベルク Rolf Glittenberg
衣装/マリアンヌ・グリッテンベルク Marianne Glittenberg
照明/ユルゲン・ホフマン Jurgen Hoffmann
振付/ルカ・ゴーダーナク Lukas Gaudernak

ウィーン国立歌劇場の「ルサルカ」と言えば、ある歴史的事件を思い出します。ルサルカはドヴォルザークの晩年、還暦を迎える年の3月にプラハで初演されましたが、その1年以内にウィーン国立歌劇場でも上演されることが決まっていました。音楽監督のグスタフ・マーラーが指揮し、王子役はあのレオ・スレザークが歌うことになっていたのだそうです。ところがこの契約は何故か延期され、結局は中止されてしまいました。もし上演されていれば、作曲者の生存中にチェコ国外でドヴォルザークのオペラが上演される初めての機会になる筈でした。
国立歌劇場では上演されなかったものの、ウィーンでは1910年9月26日にブルノ歌劇団によって「労働者の家」で初めて上演され、1924年(オルミュッツの歌劇団によりメトロポール劇場で)、1935年(スロヴァキア歌劇団によってウィーン・フォルクスオパーで)にも上演されましたが、何れもウィーン国立歌劇場ではありませんでした。
国立歌劇場での初演は遥かに遅れ、何と1987年4月10日にオットー・シェンク演出、ヴァツラフ・ノイマン指揮の公演がウィーン国立歌劇場での初演だったそうです。このときの演奏はオルフェオによってCD化されていますが、第一の森の精として佐々木典子が加わっているのに注目しましょう。

ということでウィーン国立歌劇場の「ルサルカ」。現在はシェンク演出に替ってべヒトルフの幻想的な舞台が使われていて、これもウィーンでは定番になっているようです。今回の放映でも第1幕と第2幕の間の休憩時間に舞台製作ドキュメントが紹介されており、私共にも懐かしい故ビエロフラーヴェクが指揮している映像を見ることが出来ました。
因みに「ルサルカ」は全3幕、各幕とも1時間弱とバランスが良く、各幕の間に20分づつ、2回の休憩が挟まれます。
このドキュメントでも一寸だけ姿が映るべヒトルフは、既に「ナクソス島のアリアドネ」の舞台を見ましたし、来月ライブストリーミングされる予定の「ニーベルングの指環」の演出も手掛けていますから、我々にもお馴染みの演出家と言えるでしょう。

ワーグナー作品を数多く手掛けているだけあって、今回の舞台も抽象的・象徴的な要素が取り入れられていました。そもそも「ルサルカ」は、おとぎ話であるという一方でワーグナーの影響を強く受けているオペラですから、べヒトルフの舞台との相性が良いのだと思います。水の国と人間の世界の対比など、ワーグナー世界との共通点に気付かせてくれました。
冒頭、三人の森の精と水の精ヴォドニクが戯れるところなど、ラインの黄金の最初(3人のラインの乙女とアルベリヒ)と重なるじゃありませんか。第2幕のルサルカと外国の王女の対立は、ローエングリンにおけるエルザとオルトルートとの関係を連想させますし、王子の犠牲死によってルサルカが水の国に戻るという設定も、如何にもワーグナー好み。歌劇「ルサルカ」にはライトモチーフの手法が使われていますが、当然ながらワーグナーの影響でしょう。

第2幕の中頃、本来なら結婚式の招待客が入場してくる場面と思いますが、ここでは一組の男女によるバレエというかパントマイムが演じられます。この場面は今一意味が分かりませんでした。
また第3幕でもイェジババが料理人の少年を殺し、3人の森の精たちが手と口を真っ赤にして血を啜るようなシーン。ここも私の理解力を超える演出で、首を傾げてしまったことを告白しておきましょう。欧米では子供たちにも人気があるオペラだと聞いたことがありますが、家族連れの聴き手には些か刺激が強過ぎるのではないでしょうか。

指揮するハヌスは、1月の「ヘンゼルとグレーテル」も振ったチェコの若手。ダイナミックな棒で客席の喝采を集めていました。何と言ってもウィーン・フィルが素晴らしく、大活躍するホルンやハープが如何にも中欧の響き。
ルサルカのベスメルトナは、去年6月のオテロでデスデーモナを歌っていたウクライナ出身のソプラノで、ウィーン国立歌劇場のアンサンブル・メンバーでもあります。
王子のベチャラに付いては改めて書くまでもないでしょう。ライブストリーミング・シリーズでもカヴァラドッシ、ローエングリンで今やウィーンの顔。
第2幕にしか登場しない外国の王女役のツィトコーワは、東京でもすっかりお馴染み。オクタヴィアン、フリッカ、ブランゲーネなどに接した方も多いはず。ライブストリーミングでもドン・カルロのエボーリ公女でした。
すっかり魔女役が定着しているイェジババのボヒネク、アジア系で健闘するヨンミンの水の精など、脇役というより準主役の頑張りです。

改めて「ルサルカ」、やはりドヴォルザークの音楽が素晴らしいですね。立ち入ったことを言えば、特に第3幕の幕切れなどホ長調と変イ長調の転調が絶妙だし、最後のページでは金管のコラールが響き、ハープが加わると、最後は弱音によるハーモニーが静かに消えていく。何度でも繰り返し見たくなる作品、舞台です。
今回は客席も大好評で、終演後に多くの聴き手がピット前に押し寄せ、何度もカーテンコールが繰り返されていました。

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