日本フィル第45回九州公演・宮崎公演

1975年から始まった日本フィルの九州公演は、今年45周年という大きな節目を迎えました。実は日本フィルの全国公演は、北は北海道から南は九州まで、日本全国で実施されてきた実績があります。北海道各地、東北旅行、京都や大阪の関西公演などなど、それこそ日フィルは日本中を飛び回ってクラシック音楽をナマで体験出来る活動を続けてきたものでした。
どの公演も地方各地の実行委員会がヴォランティア、手弁当で作り上げてきたコンサート。国からも地方自治体からも、一切補助金などの援助は無かったと記憶しています。

やがて地方にも独自のオーケストラが誕生し、一方では観客の高齢化も進み、若者たちのクラシック離れも進んで、結局最後まで生き残っているのが毎年2月に行われる九州公演だけとなってしまいます。
喜ばしいことなのか、悲しむべきか。市民と共に歩むオーケストラを自負する日本フィルの活動、その原点を見失ってはいけないでしょう。今年も九州10都市での公演がスタートしましたが、その意気に感じて私も7日の宮崎、8日の鹿児島を聴いてきました。そのレポートです。先ずは2020年ツアーの皮切り、宮崎から。

ブラームス/ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83
     ~休憩~
プロコフィエフ/バレエ音楽「ロメオとジュリエット」(ラザレフ版)
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ピアノ/河村尚子
 コンサートマスター/扇谷泰朋

私は2010年、2013年、2014年と九州各地で参加し、今回が4回目となります。これまで長崎、福岡、佐賀、大分にお邪魔してきましたが、今年は初めて宮崎と鹿児島を訪問。初めての土地というだけでなく、二人のソリストが出演する2種類のプログラムを連日聴けるのがこの日程だけだったからでもあります。因みにオーケストラには3日間連続で演奏したら1日休むというルールがありますから、それに合わせての日程づくり。各地、各会場との調整もあって実行委員会間の連絡にもいろいろ苦労があるものと察せられます。先ずは裏方を務められた皆様の尽力に敬意を表しましょう。

さて宮崎、私はウッカリしていたのですが、今年は例年とは会場が異なっていたのだそうです。いつもは宮崎国際音楽祭の会場でもあるメディキット県民センター(宮崎県立芸術劇場)なのですが、今年はホールの改修が行われている関係からか、宮崎市民文化ホールでの開催となりました。
夜7時からのコンサートなので、7日の昼の飛行機で宮崎入り。天候は生憎小雨がパラついていて南国にしては寒く、取り敢えず宿を目指します。ホテルは駅前の高千穂通から直ぐ、取り敢えずチェックインし、会場までのアクセスを確認します。演奏会が終わってからでは夕食にありつけないと考え、駅前で早目の晩餐。
駅前のバスターミナルで乗り込んだバスは大淀川を渡り、ホール近くの福祉文化センターに付いた時は夕闇の中。暗くてホールが何処か分からず、地元の聴衆と思しき一団に付いて行きましたが、途中でこの集団が道を間違えたことに気が付いた様子。宮崎在住の人でも間違う程、この会場は余り利用されていないのでしょうか。

それでも開場前に到着し、無事にロビーのウエルカム・コンサートから参加できました。この日はヴァイオリン二重奏で、ボッケリーニとプロコフィエフが我々を迎えます。
顔馴染みの理事、団友で今は実行委員会で尽力されている元クラリネット氏と暫し談笑。このホールは日本フィルとしては初めてだそうですが、響きは決して悪くないとのこと。確かに如何にも市民文化会館という古いスタイルで、座席は2階まで含めて1246席。雨の平日、宮崎駅からバスで40分弱という距離感もあってか、客席は満員というわけにはいきません。2階は見えませんでしたが、見た目6・7割の入りでしょうか。

手渡されたプログラムは、九州公演統一の体裁で、広告と実行委員会の「ごあいさつ」だけが各地の仕様になっており、ご当地ごとの特色が出ていました。夫々の都市での45年の記録は貴重なもので、出演したアーティストたちが全員紹介されています。特に指揮者は19人、写真入りで掲載されていました。九州ツアーに聴衆として参加した若者の中から、今や日本楽壇を背負って立つ逸材が生まれていることにも思いを馳せましょう。
聴きどころと曲目解説は音楽評論家・奥田佳道氏。奥田氏は、度々ツアーでプレトークを行っていて、45年のツアー史に花を添えています。私も何度か氏のプレトークを楽しみました。今回の解説も簡潔に、かつポイントを漏らさず、新たな知見も交えて演奏への期待を高めてくれます。

今回のツアーは、大曲が4曲。前菜となる序曲などは無く、いきなり協奏曲のメイン・ディッシュから始まるのが特徴で、初日は河村尚子のブラームス第2ピアノ協奏曲。河村とラザレフの組み合わせでは、かつて同じブラームスの第1番を聴いたことがありますが、これで2曲完奏となります。今回の第2、東京では聴けないだけに、貴重な機会。ホルンの第一音から耳をそばだてて拝聴しました。
河村のピアノ、やはり素晴らしい。決然とした最初の一音、作品の構成を大きく掴んだ安定感、堂々たる歩み。解説の殺し文句、「気宇壮大な調べに抱かれ」ました。それでいてブラームスのユーモア、「まったく小さなピアノ協奏曲」が単なる戯れではないと納得するような室内楽的瞬間も聴かれます。この日のチェロ・ソロは、副首席の山田智樹。競争曲ではなく、あくまでも協奏曲ながらシンフォニックなバランスは、やはりラザレフの技でもありましょう。かつてジョージ・セルが「ブラームスのシンフォニーで最も好きなのはどれですか?」と質問され、「もちろんピアノ協奏曲第2番だよ」と答えた逸話を思い出してしまいました。そんなブラームスです。

九州公演の協奏曲ではソリストに、最後には指揮者とコンサートマスターに花束贈呈があるのが慣例で、大きな南国風花束を受け取った河村、早速アンコールに同じブラームスの作品119-3、間奏曲を弾きました。これがまた実に良い。横浜での第1協奏曲では間奏曲第2番がアンコールでしたっけ。

後半はプロコフィエフ。確か私は3度目となるロメオとジュリエットのラザレフ抜粋版。選曲と並び方は以前に書きましたから省略しますが、冒頭の轟音には改めて驚かされます。特に大太鼓の響きは一音一音が粒立って聴こえてくるようで、理事氏の言う「決して悪くないホール」を自身の耳で確認することが出来ました。
ラザレフ・マジック、この日は第3曲「ローレンス神父」で炸裂し、指揮台を降りてチェロとヴィオラの前に仁王立ち。いつものようにメロディックな場面では客席を向いての指揮に客席も大喜びでした。

実際に客席から笑い声が起こったのは、アンコールのガヴォット(古典交響曲の第3楽章)。ここでも指揮台を降り、客席に向かって音楽に合わせての身振り。最後は「どうぞみなさん、拍手を」で、一気に舞台の上と下との段差が取り払われてしまいました。
バスの時間が気がかりで最後のサイン会までは見届けられませんでしたが、2020年九州ツアーもラザレフ・ペースでスタートしました。宮崎で一泊、翌朝はJR九州・日豊本線で鹿児島を目指します。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください