日本フィル第45回九州公演・鹿児島公演

第45回九州公演、初日の宮崎は雨でしたが、一夜明ければドピーカの快晴。10時の日豊本線に飛び乗って鹿児島を目指します。乗車時間2時間ほど、終点の鹿児島中央には昼頃到着しましたが、静かだった宮崎と比べると、鹿児島の賑わいは大したものでしたよ。ま、土曜日ということもあるのでしょうが、駅ナカと言っても良いホテルはほぼ満室なのだそうな。コロナ・ウイルスによる観光の落ち込みがニュースになっていますが、鹿児島では影響を殆ど感じませんでしたね。
私にとって鹿児島は初体験ですが、第一印象はバスと市電の町でしょうか。ホテルに荷物を預け、演奏会場である宝山ホールへの道順を確認します。バスでも市電でも鹿児島中央駅から10分ほど。ルートもいくつもあって、要するに時間は気にせず金生町(きんせいちょう)を通るバスか市電に飛び乗ればよろしい。ただし宮崎では使えたスイカが使えず、料金は現金払いでした。

そのやり取りを聞いていた子供連れの若いお母さんが、“何処に行かれますか”と聞いてきます。“たからやまホールに行きたいんですが”と答えると、“あぁ、ほうざんホールね。だったら、その郵便局を右に曲がると目の前ですよ”
と親切に教えてくれます。鹿児島、よか町じゃありませんか。薩摩おごじょも別嬪だし。ということで、一遍に鹿児島が好きになってしまいました。
天気は良し、宝山ホールの一帯は西郷隆盛自決で有名な城山の麓でもあります。ホールを見下ろすように西郷どんの銅像が立っていますし、時間もあり天気も良し、少し寒いけれど辺り一帯を観光してしまいましたワ。
九州公演、二日目のプログラムもヘヴィーな大曲プロ。

ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61
     ~休憩~
ブラームス/交響曲第1番ハ短調作品68
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ヴァイオリン/堀米ゆず子
 コンサートマスター/扇谷泰朋

宝山ホールは、宮崎同様如何にも市民会館風の客席で、1502席。1階のみの箱型で、宮崎より若干広く感じます。土曜日のマチネー、年配の方が多いようですが、満席ではないものの客席はかなり埋まっていました。彼方此方に挨拶しているグループがありましたが、皆さん年1回の日本フィルを楽しみに来ている様子が伝わってきます。
会場ごとに変わるプログラムの「ごあいさつ」。鹿児島編は実行委員長・平田宗興氏の一文で、ドーパミンをテーマにした報酬系の世界とか。これには笑ってしまいました。

二日目のウェルカムコンサートはクラリネット、ファゴット、ホルンの三重奏曲。挨拶が遠くて作品名は聴き取れませんでしたが、みな熱心に聴かれていました。
ホルンは新しく入団された方の様で、日フィル・ホルンの歴史を継ぐ名手かも。

そして本編。前半のベートーヴェンは、大御所・堀米ゆず子のソロ。堀米のベートーヴェンは他の組み合わせでも何度か接していますし、彼女の音楽性が余すところなく楽しめる名曲の名演。この日もさり気無く登場し、ラザレフとの息の合った堂々たるベートーヴェンを満喫できました。クライスラー版に準拠したカデンツァも正に「独り舞台」。
その素晴らしさに、思わず第1楽章が終わって拍手が起きます。中々東京では無いことですが、ラザレフは客席を制するのとは真逆。どんどん拍手しなさい、とばかりに客席を煽り、自分でも率先して拍手するほど。これでクラシック音楽の敷居の高さはあっという間に消え去り、堀米のヴァイオリンも愈々熱が入ります。

グァルネリ・デル・ジェスのホール隅々まで行き渡る音色、丁々発止のオーケストラとの掛け合いが高らかにフィナーレを迎えると、真っ先に拍手、ブラヴォーを掛けたのは何とラザレフ御大その人。客席も負けじと拍手喝采を浴びせました。
何度も繰り返されるカーテンコール、アンコールは予定していなかったような堀米女史でしたが、促されるように弾き出したのはパガニーニのカプリスから第5番。特に華々しいテクニックを必要とする難曲ですが、ものの見事に弾き切ったソリストには爆発的な大喝采。客席には和やかで温かい雰囲気が溢れていました。

後半のブラームス第1。ラザレフのブラームス好きは夙に有名で、このシンフォニーも横浜定期で体験、その冒頭に圧倒された記憶が蘇ります。
奥田氏の解説「冒頭、コントラバスが奏でるハ音と弓づかい」も見所・聴きどころ。一音づつのダウン・ボウで重低音が唸りを立てるのですが、この日のラザレフは何と指揮台を降り、低弦を強調するわ強調するわ。客席からも思わず溜息が漏れ聞こえたほど。

この熱演に第1楽章が終わっての拍手。ラザレフはもちろん喜んでこれを受けます。同様に第2楽章の終わりにも拍手がありましたが、アメリカやイギリスではよくあること。東京は少し硬すぎやありませんか、と言いたくなってしまいました。
流石に第3楽章と第4楽章はアタッカで休みなく流れましたが、大盛り上がりのフィナーレ、未だオーケストラの全奏が鳴り止まぬうちに客席から大きな拍手が起きました。東京ではあり得ないような客席の反応ですが、私は、これ正解だと思います。心の底から感動を呼び覚まされた最後の一撃、勢い余って歓声を上げてしまうのは人として当たり前じゃないでしょうか。例えばロンドンのプロムス、こんなことは日常茶飯事ですよ。
東京のオーケストラでは、場内アナウンスが「拍手は指揮者のタクトが下りてから、最後の余韻を邪魔しないように」などと無粋な指示を出します。冗談じゃない。私は鹿児島の聴き手にも感動、ここはロンドン並みに素晴らしい耳と心を持った町だ、と感銘を受けました。またいつか来たい、そんな鹿児島公演でしたね。

もちろんアンコール。熱気を冷ますように、バッハのアリア(管弦楽組曲第3番)が静かに奏でられ、さすがにラザレフは拍手を遅らせるように手をブルブルと揺らせて空白を指揮。それでも聴き手の熱意に負けたか、もういいですよ、で最後の喝采が起きるのでした。
ベートーヴェン・ブラームスと聴いて、アンコールはバッハ。何のことは無い、三大Bによる堂々たるドイツ音楽、巨匠ラザレフを強く印象付ける二日目です。

このあと日本フィルの九州公演は熊本→北九州→大分→唐津→大牟田→福岡→佐賀→長崎と続き、19日にグランド・フィナーレを迎えます。今回のラザレフに東京公演はありません。どうしてもラザレフを聴きたくなったファンの皆様、今からでも遅くありません。ぜひ九州へお出かけくださいな。

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