日本フィル・第283回横浜定期演奏会

今年最後の演奏会カテゴリーです。個人的にも最後の演奏会、終わった後は出会った皆様に「良いお年をお迎えください」と挨拶、1年の締め括りをして来ました。

ベートーヴェン/「コリオラン」序曲
ベートーヴェン/交響曲第9番
 指揮/井上道義
 独唱/小川里美、小川明子、錦織健、青山貴
 合唱/東京音楽大学
 コンサートマスター/江口有香
 フォアシュピーラー/九鬼明子

第9だけは毎年聴くという音楽好きも多いでしょう。コンサートは年末の第9しか行かないというクラシックファンもおられるでしょう。
ですが小生は根っからの天邪鬼、第9は敢えて行かない、聴かないというのが長年の習慣でした。しかし初心を貫くのは難しい。近年は毎年何処かで接するのがパターンになっています。
それでも第9のチケットを態々ゲットするということはほとんど無く、今回も横浜定期会員に参加した関係上、止む無く(?)出掛けた、というのが実情ではあります。

とは言いながら何たってダイクですからな、それなりの感想もあり、感動もありました。
今回は指揮者の井上道義に注目。彼の振る第9は、失礼ながら初体験。これまでのイメージや実際の演奏に触れて予想していたのとは思い切り違って、真にマトモな第9でした。もちろん良い意味で、ですよ。

最近流行のベーレンライター新版ではなく、原典メトロノーム信奉の猛スピード系でも古楽器奏法系でもありません。日本フィル定番のコバケン版「炎の第9」でもないことは勿論。要するに、現在の私にとっては“第9はこうでなくちゃ”と納得できるものでした。

若干補足すると、場内アナウンスが“本日の演奏には休憩がありません。直前の変更をお詫びします”と繰り返していましたが、出演者全員が最初から登場し、序曲(かなり速目のテンポ)が終わると同時に交響曲に繋がったワケじゃありません。普段通りオープニングがあり、その後に合唱団が入場して指揮者の再登場を待つというパターン。
序曲の後で入場される聴衆もありましたし、第2楽章のあと、ソリストや打楽器陣と同時にホールに入ってくる猛者たち(お目当ては合唱だけという)もいました。

弦の配置がいつもとは少し異なり、第2ヴァイオリンが上手に座る所謂対抗配置ですが、チェロやコントラバスは変更なし。つまりセカンドとヴィオラが入れ替わっただけで、変則型対抗配置でした。事情通に聞くと、これは井上マエストロや故岩城宏之のスタイルだそうで、敢えて言えば金沢型とでも言えましょうか。
上記の通り、ソリストの入場は第2楽章と第3楽章の間で、立ち位置は合唱団の前。軽めの拍手に迎えられます。第3楽章と第4楽章はアタッカで続けられますが、間髪を入れず、という性急なものではありませんでした。

演奏は基本的には原典主義ですが、第2楽章のヴァイオリンのオクターヴなど所々伝統的な改訂も見られます。。フィナーレ冒頭のファンファーレもトランペットに加筆が加えられていたように聴きましたがどうでしょうか。
また、Seid umschlungen の一節では古楽器風に短いアクセントを採用している個所もありましたが、全体としては弓を一杯に使った現代風の第9が基礎になっていたと思われます。

歌手陣は井上が集散したメンバーと聞きましたが、テノールだけは日本フィルには欠かせない名歌手。近年の第9歌いとしては欠かせない存在に成長しています。女性陣はやや声質が硬かったかも。
前日にマーラーを聴きましたが、ベートーヴェンの Alla Marcia を聴いていると、マーラーがベートーヴェンの第9から受けた影響の大きさが感じられます。

ところで、合唱団が舞台に乗るため、オーケストラ全体がいつもより客席に近く配置されていました。そのためでしょうか、客席にはオーケストラの音が一層良く届いていたように感じます。例えばバリトン・ソロの歌う歓喜のテーマを伴奏する木管(オーボエとクラリネット)が明瞭に聴き取れました。
椅子1列か2列分のことでしょうが、大編成でなくても客席に出来るだけ近く楽器を並べることで、かなり演奏効果が上がるのではないかと思慮します。
であれば、舞台上に若干の客席を設けるのも一案。ウィーンの楽友協会での演奏会でも舞台上席が見られます。舞台後方のP席(Poor man’s seat の略だとか)に加え、OS席(On Stage seat)とでもしてみては?
オケの中で、直に楽器の振動を楽しむ、という聴き方があってもいいのじゃないでしょうか。面倒臭い法律による規制があるんでしょうかネ。

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