ウィーン国立歌劇場公演「エレクトラ」

ウィーン国立歌劇場公演からのライブストリーミング、2月最後の演目はリヒャルト・シュトラウスの「エレクトラ」です。今シーズンのウィーンではリヒャルト・シュトラウスにもスポットが当てられていて、既に「ナクソス島のアリアドネ」「影のない女」「サロメ」が上演されてきました。このあとは4月に「ばらの騎士」が予定されており、通常見ることが出来るシュトラウスのオペラは全て出そ揃うことになります。
今回の「エレクトラ」は2月6・9・12・15日の4回公演のうち、最終日の舞台。大変登場人物の多いオペラで、画面に流れたタイトルロールには更に多くのキャスト名がクレジットされていましたが、主要な役どころとしては以下の面々で充分でしょう。

エレクトラ/クリスティーネ・ゲルケ Christine Goerke
クリュテムネストラ/ワルトラウト・マイヤー Waltraut Meier
クリソテミス/シモーヌ・シュナイダー Simone Schneider
オレスト/ミヒャエル・ヴォレ Michael Volle
エギスト/ノルベルト・エルンスト Norbert Ernst
第1の少女/モニカ・ボヒネク Monica Bohinec
第2の少女/マルガリータ・グリツコヴァ Margarita Gritskova
第3の少女/ウルリケ・ヘルツェル Ulrike Helzel
第4の少女/リディア・ラスコルプ Lydia Rathkolb
第5の少女/イルディコ・ライモンディ Ildiko Raimondi
監視の女/ドンナ・エレン Donna Ellen
若い召使/トーマス・エベンシュタイン Thomas Ebenstein
年老いた召使/ダン・パウル・ドゥミトレスク Dan Paul Dumitrescu
オレストの後見人/マーカス・ペルツ Marcus Pelz
クリュテムネストラの腹心の侍女/シミナ・イヴァン Simina Ivan
クリュテムネストラの裾持ち/ゾルヤーナ・クシュプラー Zoryana Kushpler
指揮/セミョーン・ビチュコフ Semyon Bychkov
演出/ウヴェ・エリック・ラウフェンベルク Uwe Eric Laufenberg
舞台/ロルフ・グリッテンベルク Rolf Glittenberg
衣装/マリアンヌ・グリッテンベルク Marianne Glittenberg
照明/アンドレアス・グリューター Andreas Gruter

最初に個人的な思い出に触れると、ウィーン国立歌劇場の「エレクトラ」は、確か1980年の来日公演を実際に舞台で見たことがあります。会場はオープンしてから7年ほどが経っていたNHKホール、指揮はクロブチャールだったと記憶します。エレクトラは、当時右に出るものがいないと評されていたビルギット・ニルソンで、他のキャストは忘れました。
演出なども全く覚えていませんが、あのウィーン・フィルでも客席奥まで音が届かず、エレクトラが間奏曲で武器を探す場面ではニルソンは舞台に出てきませんでした。噂では、ニルソンがホールの音響の酷さに抗議したためだったそうな。私の不満も専らホールに向けられ、今でも余程のことがない限りNHKホールでは音楽を聴かないことにしています。

余談はさておき、エレクトラと言えばオケの大音量が歌手の声をかき消してしまうことでも知られていて、初演の時から何かと逸話が絶えません。さすがにライブストリーミングでは歌手の声が聞こえないということは無く、それなりの環境で視聴できれば、音響的にもかなり満足の行く舞台だと思います。
ただし今回の演出は2015年にプレミエされた舞台と思われますが、個人的には疑問符が付くものでした。

音楽が始まる前にカーテンが上がり、舞台下手にはアガメムノンが殺害された現場と思しき風呂場が見えます。ドイツの役者でもあるという演出家のラウフェンベルクは、バイロイトでも演出をしている人だそうですが、いわゆる読み替え派。時代設定は本来の古代ギリシャではなく、現代に移行されています。シャワー、ピストル、車椅子、エレベーター、懐中電灯などの小道具が登場し、これまでのエレクトラの概念が壊されてしまいました。
2機が並ぶエレベーターの一室には「殺された」(Toetet)と赤字で殴り書きがあり、下手の風呂場にも血の跡が見えます。最後の場面ではこのエレベーターでクリュテムネストラの死体や気味悪い造形物が上下するのですが、作品の理解にそれほど資しているとは思えません。

幕切れのエレクトラの踊りは、国立歌劇場のバレエ団が登場しての集団的な舞に変えられます。最後の最後、クリソテミスが風呂場の壁に突き立てられた斧を掴もうとする場面で終わるのですが、これは何を意味するのでしょうか。私には理解できませんでした。最初の方で実物の犬が2匹登場するのも意味不明。

ということで演出は感心しませんでしたが、歌唱は皆秀逸。エレクトラのゲルケはアメリカのドラマティック・ソプラノで、メットで小さな役からスタートして大役に上り詰めた実力派。
クリソテミスのシュナイダーはドイツのソプラノで、エレクトラとの掛け合いも見事。大御所マイヤーのクリュテムネスとの存在感は言うまでもありません。オレストのヴォレもドイツのバリトンで、バイロイトでのハンス・ザックスとしても有名ですね。
今年1月のサロメではヴォレがヨハナーン、この時のへロディアスがマイヤーでした。ウィーンでは欠かせないシュトラウス歌いということでしょう。他の脇役たちも、これまでのライブビューイングでお馴染みのアンサンブル・メンバーたちが勢揃いしています。

指揮するビチュコフは、2014年の英国プロムスでもエレクトラの演奏会形式上演を指揮していて、その時のエレクトラもゲルケでした。この時はカットが多く煩わしかったことを思い出しましたが、今回の公演でもプロムスほどではなかったにせよ、少なからぬカットがあります。ウィーンでは伝統的なカットなのでしょうが、時間的には僅かなもので、個人的にはノーカットで上演して欲しかったと思っています。

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