ウィーン国立歌劇場公演「神々の黄昏」

本来なら3月のウィーン国立歌劇場の呼び物だった「ニーベルングの指環」、残念ながら劇場が閉鎖となり、アーカイヴによる配信となりました。そのシリーズも愈々最終回の「神々の黄昏」が始まっています。
日本ではオッタヴァ・テレビの特別な配慮により、本来のライブストリーミングに準じて29日から31日までの3日間無料にて鑑賞できますから、どうかこの機会を見逃すことがないように。

指環シリーズ、ここまでの3作は夫々別シーズンで行われた公演から選りすぐって放映されてきましたが、黄昏は前作ジークフリートと同じ2019年1月のサイクル、アクセル・コーバーが指揮した時の公演を聴くことが出来ます。
キャストは以下の通り。これまでの3作と共通した配役が多く、一貫して楽しめる舞台でした。

2019年1月20日の公演
ジークフリート/ステファン・グールド Stephen Gould
ブリュンヒルデ/イレーネ・セオリン Irene Theorin
グートルーネ/アンナ・ガブラー Anna Gabler
ハーゲン/ファルク・シュトラックマン Falk Struckmann
グンター/トマーシュ・コニェチュニー Tomasz Konieczny
アルベリヒ/ヨッヘン・シュメッケンベッヒャー Jochen Schmeckenbecher
ワルトラウテ/ワルトラウト・マイヤー Waltraud Meier
第1のノルン/モニカ・ボヒネク Monika Bohinec
第2のノルン/ウルリケ・ヘルツェル Ulrike Helzel
第3のノルン/フィオナ・ヨプソン Fiona Jopson
ヴォークリンデ/マリア・ナザロヴァ Maria Nazarova
ヴェルグンデ/ウルリケ・ヘルツェル Ulrike Helzel
フロースヒルデ/ゾルヤーナ・クシュプラー Zoryana Kushpler
指揮/アクセル・コーバー Axel Kober
演出/スヴェン=エリック・べヒトルフ Sven-Eric Bechtolf
舞台/ロルフ・グリッテンベルク Rolf Glittenberg
衣装/マリアンヌ・グリッテンベルク Marianne Glittenberg
ビデオ/フェットフィルム、フリードリッヒ・ツォルン fettFilm,
Friedrich Zorn

放映時間は6時間。開幕前の映像と2度の休憩を抜いても5時間の大作ですが、私はほぼ午前中一杯を使って一気に見てしまいました。やはり素晴らしい「リング」だった、というに尽きるでしょう。
「神々の黄昏」のストリーミングと言えば、先日のびわ湖リングを見たばかりですが、演奏や演出を別にすれば、やはりウィーンは音質と画質において断然勝っています。我が国の配信レヴェルも早くこの水準に到達することを願って止みません。もちろんオーケストラのライブ・ストリーミングについても同じことが言えましょう。

びわ湖が一切字幕が無かったのに対し、オッタヴァの配信では日本語字幕があるのが何とも有難いところ。ウィーン国立歌劇場のライブ・シリーズでは字幕が今一で、肝心な場面で出ない演目もあったのですが、今回の「神々の黄昏」はほぼ完璧に仕上がっていたと思います。やはりこの分野でも日進月歩が感じられますね。

舞台の感想は、実際にご覧になった皆様にお任せしますが、私が今回大いに納得したのが第1幕第3場。ブリュンヒルデとワルトラウテの場面ですが、ここを字幕を見ながらジックリと聴いていると、指環全体の物語の根源がここにある、と確信しました。今回の公演ではワルトラウテに大物のマイヤーを起用しているのですが、その歌と演技の見事さによって、この場面の重要さが際立っていると感じた次第。
思えばワーグナーは、指輪物語の台本を「ジークフリートの死」(現在の「神々の黄昏」)からスタートし、英雄の青春譚を語るために「若きジークフリート」(現在の「ジークフリート」)を書き足し、更にジークフリート出生の秘密を描くべく「ワルキューレ」に進み、その前段として「ラインの黄金」と、ストーリーを遡るように書き上げて行ったことを思い出しました。
もちろん作曲は逆に「ライン黄金」から始め、途中「トリスタンとイゾルデ」、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を書くために中断し、「ジークフリート」の第3幕から最後までを一気に完成させた。だから途中で作曲上の深化と言うか複雑さが増した、と習い覚えていましたっけ。

そうした意味で、「神々の黄昏」の第1幕第3場こそが指環全体のキモであり、ルーツでもある。そんなことを思い起こさせる名舞台だったと思います。
前回「ジークフリート」でも触れましたが、最初は違和感も感じられたべヒトルフ演出ですが、細部に付いては意外にリアリステック。2羽のカラスを映像で見せたびわ湖のハンペ演出ほどではないものの、映像を巧みに使って神々の黄昏を視覚的に実現させていると感服しました。

ハンペはジークフリートの葬送行進曲でヴォータンのシルエットを見せましたが、べヒトルフはワルハラ城の炎上シーンでヴォータンを出します。
そして最後の最後、抱き合う二人は何の象徴でしょうか? 神々が滅んだ後は人間が栄える? もしかしてアダムとイブ、などと考えてしまいましたが、皆様は如何でしたか。

この素晴らしいサイクルを指揮したアクセル・コーバー、何と来年2月に二期会が上演する「タンホイザー」を指揮することになっていますね(キース・ウォーナー演出、オケは読響)。熱狂したウィーンの観客からも圧倒的な喝采を浴びていました。
真の実力指揮者コーバーの二期会登場、これは何としても聴かなければなりませんな。

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