ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(15)

復活祭明けのウィーン、現地11日に配信されたウィーン国立歌劇場のアーカイヴは、子供向けヴァージョンの「妖精」でした。子供向けということで現地も朝から、日本時間なら11日の夕方6時から見ることが出来、限定24時間の配信となります。
私もそうですが、「妖精」と言ってもピンとこない方もおられるでしょう。実はワーグナーが書いた最初のオペラで、オリジナルは3時間もかかる「3幕のロマン的オペラ」。それをウィーン国立歌劇場が子供にも親しめるように大幅に短縮し、言葉は不適切かも知れませんが、学芸会風に仕上げたものと言えばよいでしょうか。ワーグナーの「妖精」というオペラは、タイトルこそ知っていましたが、どんな形にせよ実際に音を聴いたのも初めて。簡単に記録しておきましょう。本来ならもっと多くの登場人物を必要としますが、今回のキャストは以下の通りです。

ワーグナー/歌劇「妖精」(子供向けヴァージョン)、2012年3月3日公演

妖精の王/ソリン・コリバン Sorin Coliban
アーダ(妖精)/ダニエラ・ファリー Daniela Fally
ツェミーナ(妖精)/ドンナ・エレン Donna Ellen
ファルツァーナ(妖精)/モニカ・ボヒネク Monika Bohinec
王子アリンダル/ゲルゲリー・ネメティー Gergely Nemeti
ゲルノート/ハンス・ペーター・カンマラー Hans Peter Kammerer
ローラ/カロリーネ・ウェンボーン Caroline Wenborne
グンター/マイケル・ロイダー Michael Roider
指揮/キャスリーン・ケリー Kathleen Kelly
演出/ワウト・ケーケン Waut Koeken

正味演奏時間は45分ほど、オリジナルと比べて4分の1ほどに短縮されています。前回子供ヴァージョン・オペラとして配信された「シンデレラ」と同じ会場での公演と思われ、オーケストラもいわゆる室内アンサンブルに編曲されていました。配信には字幕が無く、歌唱はドイツ語。どんなストーリーかだけは知っておかないとオペラの展開が全く分かりません。
その物語とは典型的な妖精物語で、王子アリンダルが狩りで牝鹿を射ると、その鹿は美しい妖精アーダだった。これはアーカイヴでも放映されたリヒャルト・シュトラウスの「影のない女」とそっくりな話で、王子に与えられた試練に耐えられないとアーダが石に変えられてしまう、という件もシュトラウスと同じです。

また、王子と妖精が結ばれる際に王子は妖精に名前を尋ねてはならないのですが、これはワーグナーが後に書くことになる「ローエングリン」と同じ。結婚によってアーダが不死の能力を失うという設定も、ブリュンヒルデやドヴォルザークの「ルサルカ」を連想させます。
最後は王子が歌をうたい、石になった妖精が元の姿に戻るというハッピーエンド。子供たちをハラハラドキドキさせ、自然にオペラの魅力に触れてもらおうと言うのが歌劇場の狙いかと思われます。

子供向けと言っても本格的な歌手たちが凝った衣装を着け、迫力ある歌唱を聴かせてくれますから、大人でも十分に楽しめます。チョッと聴くとベートーヴェンに似たメロディーがあったり、ウェーバーを思わせる場面、そして何より後のワーグナーを予感させるに充分なオペラでしょうか。
これを切っ掛けにオリジナル版「妖精」を聴いてみるのも良いでしょう。幸いスコアはペトルッチ楽譜ライブラリーで入手できますし、音源もNMLで3種類(サヴァリッシュ盤、ヴァイグレ盤など)が配信されています。私も後日、これにチャレンジしてみようと思っているところ。

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