ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(47)

前回のアーカイヴではジョルダーノの「アンドレア・シェニエ」を取り上げましたが、今日の配信は同じイタリアのヴェリスモ歌劇であるチレアの「アドリアーナ・ルクヴルール」です。チレアはジョルダーノより一つ年上、その代表作「アドリアーナ・ルクヴルール」は、「アンドレア・シェニエ」に遅れること6年となる1902年にミラノで初演されました。
同じ傾向の作品ということで、今回のアーカイヴ配信では敢えて続けて選ばれたのかもしれません。恋の三角関係に政治が絡むという点でも共通していると言えそうですが、アドリアーナ・ルクヴルールの場合は四角関係とも言えそうですね。

アーカイヴとしては古いものに含まれ、2014年2月22日の公演とのこと。この日付は信じてよいのでしょうか。キャストはこちらです。

アドリアーナ・ルクヴルール/アンジェラ・ゲオルギュー Angela Gheorgiu
マウリツィオ/マッシモ・ジョルダーノ Massimo Giordano
ブイヨン公爵/アレクサンドルー・モイシウク Alexandru Moisiuc
ブイヨン公妃/エレーナ・ツィトコーワ Elena Zhidkova
ミショネ/ロベルト・フロンターリ Roberto Frontali
修道院長/ラウル・ヒメネス Raul Gimenez
キノー/パク・ヨンミン Jongmin Park
ポアソン/シャホウ・ジンシュ Jinxu Xiahou
家令/デヴィッド・プロハスカ David Prohaska
ジュヴノー/ブリオニー・ドワイヤー Bryony Dwyer
ダンジヴィル/ジュリエット・マース Juliette Mars
指揮/エヴェリーノ・ピド Evelino Pido
演出(オリジナル)/デヴィッド・マクヴィカー David McVicar
舞台/チャールズ・エドワーズ Charles Edwards
衣装/ブリギッテ・ライフェンシュトゥエル Brigitte Reiffenstuel
照明/アダム・シルヴァーマン Adam Silverman
振付/アンドリュー・ジョージ Andrew George

私にとって「アドリアーナ・ルクヴルール」は、「アンドレア・シェニエ」とは違ってほとんど縁がありません。同じくイタリア歌劇団が日本初演していますが、確か1976年のこと。当時私は社会に出たばかりで東京を離れていましたから、音楽界の話題は噂に聞く程度。その後もこのオペラが視界に入ってくることも無く、多分今回のアーカイヴ配信が初体験だと思います。
もちろん有名なアリアのいくつかは知っていましたが、オペラ全体の中に納まったのは今回が初めてでした。

予め荒筋を頭に入れておかないと登場人物の役割が捉え難いオペラですが、幸い昨今はインターネットのお陰で事前に予習して臨めました。
それでも理解に苦しむ設定があり、典型はアドリアーナ・ルクヴルールの恋敵となるブイヨン公妃が、夫がある身にも拘らず、何故相手を毒殺するほどにマウリツィオに執着したのでしょうか。ほとんどストーカーに近い存在。ま、そこがオペラなんでしょうが・・・。
更には、台詞の中で度々登場するブイヨン公爵の愛人という設定のデュクロという女性が出てこないのも不思議。尤もデュクロまで登場してはオペラとして複雑過ぎる、という配慮が働いたのかも。

そんなわけで色々勉強しつつ、疑問に感じながらも通して観戦しました。全4幕、第1幕と第2幕は続けて上演され、休憩は二度入ります。
オペラの幕が上がる前、舞台正面に彫像が置かれていましたが、多分モリエールでしょう。アンドレア・シェニエ同様アドリアーナ・ルクヴルールも歴史上実在の人物で、一世を風靡した女優だったそうですから、モリエールはその象徴。

第3幕では「パリスの審判」によるバレエが踊られますが、そのあとでアドリアーナがラシーヌの「フェードル」の一節を演じることと併せ、ブイヨン公妃にアドリアーナ毒殺のアイデアが浮かびます。これが第4幕への伏線となっており、役所としてはアドリアーナよりブイヨン公妃に焦点を当てた演出が可能かも。
今回の演出はマクヴィカーのものが原案、と書かれていましたが、恐らくこれを基に色々手が加えられているのだろうと想像されます。

アドリアーナを歌うゲオルギューは世界的なプリマ・ドンナですが、ウィーンのアーカイヴ配信で見たのは初めて。歌というより台詞回しがキーポイントになる役柄ですから、ゲオルギューもアドリアーナを歌うようになったか、という感慨も沸きます。それでも第3幕、最後の死の場面での演技は見事で、さすが大スターの貫録を見せ付けてくれました。カーテンコールでも花束が投げ込まれます。

アドリアーナに密かに思いを寄せるミショネは、前回アンドレア・シェニエでもジェラールを歌ったフロンターリですから、印象はピタリと重なります。
また悪女と言える公妃のツィトコーワも正に適役で、ウィーンでは「ドン・カルロ」のエボーリ公女、「ルサルカ」の外国の王女など、憎まれ役が見事に嵌っています。当然ながら彼女にも惜しみない拍手喝采が贈られました。

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