ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(46)
昨日、ウィーン国立歌劇場が6月8日に再開されるとレポートしましたが、国立歌劇場に縁の歌手によるリサイタルやオーケストラのメンバーによる室内楽も無料でライブ配信されることが決まりました。但し現地ウィーンでの話で、オッタヴァ・テレビがどう対処するかに付いては未発表。どうしても見たい方は直接ウィーン国立歌劇場のホームページからID登録されることをお勧めします。手続きは簡単、オッタヴァと同じようにメールアドレスと自身で設定したパスワードを入力すれば会員になれます。Live at Home のホームページに表記してある時間は、あくまでもウィーン時間ですからお間違えないように。
今日のアーカイヴ配信は、ジョルダーノの歌劇「アンドレア・シェニエ」。24時間限定の配信となります。
個人的には思い入れのある「アンドレア・シェニエ」を見るのは久し振り。率直に言って主役3人のオペラですが、いわゆる脇役もウィーン国立歌劇場お馴染みの顔が揃っていますから、細かい配役と役どころまで紹介しちゃいましょう、エイッ!
ジョルダーノ/歌劇「アンドレア・シェニエ」(2018年5月2日公演)
アンドレア・シェニエ/ヨーナス・カウフマン Jonas Kaufmann
カルロ・ジェラール/ロベルト・フロンターリ Roberto Frontali
マッダレーナ/アーニャ・ハルテロス Anja Harteros
ベルシ(マッダレーナの召使で混血児)/イルセヤー・カイルロヴァ Ilseyar Khayrullova
コワニー伯爵夫人(マッダレーナの母)/ドンナ・エレン Donna Ellen
老女マデロン/ゾルヤーナ・クシュプラー Zoryana Kushpler
ルーシェ(シェニエの友人)/ボアズ・ダニエル Boaz Daniel
ピエトロ・フレヴィーユ(小説家)/マニュエル・ウォルサー Manuel Walser
フーキエ・タンヴィル(検察官)/アレクサンドルー・モイシウク Alexandru Moisiuc
マシュー(共和派)/ヴォルフガング・バンクル Wokfgang Bankl
神父(実は詩人)/ベネディクト・コーベル Benedikt Kobel
密偵インクレディービレ/カルロス・オスナ Carlos Osuna
コワニー家の家老/マーカス・ペルツ Marcus Pelz
デュマ(裁判所長)/ダン・パウル・ドゥミトレスクー Dan Paul Dumitrescu
シュミット(サン・ラザール刑務所の看守)/アイク・マルティロッシアン Ayk Martirossian
指揮/マルコ・アルミリャート Marco Armilliato
演出/オットー・シェンク Otto Schenk
舞台/ロルフ・グリッテンペルグ Rolf Glittenberg
衣装/ミレアナ・カノネロ Mileana Canonero
私の世代にとって「アンドレア・シェニエ」は、確かNHKが1961年に招聘した第3次イタリア歌劇団が上演した日本初演のテレビ放送が忘れられない思い出でしょう。この時は大看板であるレナータ・テバルディとマリオ・デル・モナコが来日、しかも二人が同じ舞台で競演するのは「アンドレア・シェニエ」のみということもあって、私も中学生ながらテレビの前で興奮したものです。もちろん革命だの愛だのとは無縁でしたがね。
学生の身ということもあって演奏会場デビュー前でしたが、演奏会そのものはラジオやテレビで良く観戦していました。当時の記憶では、演奏が終わった後に客席から“ブラヴォー”が発せられることは全くと言って良いほどありませんでしたが、イタリア歌劇団への歓声は凄まじく、テレビの貧弱なスピーカーを通しても観客の興奮ぶりが伝わってきました。元来拍手の習慣が無かった日本に「ブラヴォー文化」をもたらしたのがイタリア・オペラ、特に「アンドレア・シェニエ」だったのじゃないでしょうか。
前置きが長くなりました。今回配信されているウィーンの公演も似たようなもので、タイトルロールのカウフマン、マッダレーナのハルテロス、ジェラールのフロンターリには、アリアを歌い終える度に大歓声が浴びせられます。
更には全曲が終了し、カウフマンとハルテロスの二人だけが最初のカーテンコールに登場すると、客席から一斉にスマホのカメラが向けられるのには笑ってしまいました。日本じゃあり得ない光景で、結構ウィーンっ子ってミーハーなんだな、と。というより日本は固過ぎますよ。スマホなど向ければ係員が飛んできて厳しく注意されますが、客席全員が同じ行動を取れば制止不能になるでしょう。今度カウフマン・クラスのシェニエが来日したら、日本のお堅い習慣が打破されるかもね。
作曲家ジョルダーノは、良くプッチーニと比較されます。プッチーニより9歳年下で、先輩ほどの才能は有りませんでしたが、「アンドレア・シェニエ」はイタリア以外でも人気があります。思えば同じイルリカの台本だけあって人物設定が「トスカ」とよく似ていて、ジェラールはスカルピアと同じ立場。それでもスカルピアほど大物ではなく、最後には自分の欲望を諦めてシェニエを助けようとする辺りが、如何にも小物という感じもします。
実は「アンドレア・シェニエ」は「トスカ」より先に作曲・初演されていて、ジョルダーノがプッチーニの二番煎じを狙ったのではない。逆にプッチーニはジョルダーノを意識したのでしょうか、この辺りはイタリア・オペラに詳しい方に伺ってみたいと思います。
全4幕。第3幕と第4幕は休憩なく上演されますが、二度の休憩は編集されており、正味2時間半弱。四つの幕が起承転結のスタイルで構成され、それがジェラールの運命に繋がっていることもあって極めて判り易いオペラと言えるでしょう。
ところで6月27日には、同じフランス革命が舞台となるアイネムの「ダントンの死」が配信されますから、これとアンドレエア・シェニエを比較して観るのも一興。アンドレエア・シェニエ、トスカ、ダントンの死と、フランカ革命が音楽にもたらした影響、なんて考えるのも籠城中の楽しみかもね。
このあとアーカイヴ配信は、明日の「レオノーレ」(フィデリオのオリジナル稿)へと続きます。このレオノーレは今年2月にライブで配信されたもので、感想は既にアップしました。歌と芝居を分離した、個人的には疑問を感じた演出ですが、フィデリオではカットされてしまった貴重なナンバーも聴けますからお楽しみに。
小欄は次のバレエ「ジゼル」もパスし、次回の「アドリアーナ・ルクヴルール」までお休みとします。
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