ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(48)

6月も第2週に入り、いよいよウィーン国立歌劇場も限定的ながら再開の運びとなりました。そこで現地8日の月曜日には再開第一弾となる歌曲リサイタルが催されたのですが、これに合わせてアーカイヴ配信の時間が変更されたようですね。具体的にはライブで行われたリサイタルは現地午後5時半に開演され、その3時間ほど前からアーカイヴ配信が始まりました。
日本ではオッタヴァ・テレビの配慮により、いつも日本時間の早朝2時から始まるアーカイヴは前日の夜遅く23時にスタートし、これまでの配信時間にはリサイタルがライブストリーミングされています。

この項ではアーカイヴを優先し、月曜日の夜遅くに配信が始まったムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」を取り上げましょう。24時間限定、今日(6月9日)の23時までの配信となりますのでご注意を・・・。
今回の公演は2016年5月13日に行われた上演とクレジットされており、配役は以下の通りです。

ボリス・ゴドゥノフ/ルネ・パーペ Rene Pape
フョードル/マーガレット・プランマー Margaret Plummer
クセニア/アイーダ・ガリフッリーナ Aida Garifullina
乳母/ゾルヤーナ・クシュプラー Zoryana Kushpler
ヴァシリー・シュイスキー公/ノルベルト・エルンスト Norbert Ernst
アンドレイ・シチェルカーロフ/デヴィッド・パーシャル David Pershall
ピーメン/クルト・リドゥル Kurt Rydl
グレゴリー(偽ドミトリー)グレゴール/マリアン・タラバ Marian Talaba
ワルラーム/ライアン・スピード・グリーン Ryan Speedo Green
ミサイル/ベネディクト・コーベル Benedikt Kobel
居酒屋の女主人/アウラ・ツヴァロフスカ Aura Twarowska
陸軍大尉/イゴール・オニシュチェンコ Igor Onishchenko
愚者/パーヴェル・コルガティン Pavel Kolgatin
指揮/マルコ・レトーニャ Marko Letonja
演出及び舞台装置/ヤニス・コッコス Yannis Kokkos
演出助手/シュテファン・グレグラー Stephan Grogler
ドラマトゥルグ/アンネ・ブランカール Anne Blancard

「ボリス・ゴドゥノフ」は世界的に良く知られた作品でありながら、言語の問題もあって何時でも何処でも接することが出来るオペラじゃありません。日本では何と言っても1965年のスラヴ歌劇団の来日によって紹介された舞台が知られていて、当時学生だった私もNHKの放映によって襲撃を受けた一人でもあります。
何分にも初めて耳にするロシア語ということもあり、そのパワフルな魅力に圧倒されました。主役ボリスを歌ったミロスラヴ・チャンガロヴィチの深いバスの声量と、見事な演技が我々音楽好きの間でも話題になったことを良く覚えています。名前に合わせて「見ろスラヴ」チャンガロヴィチと言っては褒め合っていましたっけ。この時は日本初登場のロヴロ・フォン・マタチッチも大変な人気を博し、それがN響客演へと繋がったのでした。

現在では「ボリス・ゴドゥノフ」にはいくつものエディションがあることが知られていますが、あの当時はいわゆるリムスキー=コルサコフ版による上演が常識だったと思います。私も興奮してソヴィエト音楽出版所で出していた分厚いスコアを手に入れましたが、今見返せばそれもリムスキー=コルサコフ版です。共産圏の出版物だったので、信じられないほどに廉価だったことも嬉しい思い出。
そのリムスキー版ですが、スラヴ歌劇団の公演では、最後に白痴が歌う悲しいメロディーで終わり、ボリスというよりロシア全土の悲劇が強調されていたのが印象的でした。ところが現在は、ムソルグスキーの原作にもオリジナルと改訂稿があることが知られるようになっています。これに加えてリムスキー=コルサコフ版やらショスタコーヴィチ版などがあるのですから、事は複雑。

で、今回のウィーン上演、コックス演出では、全体が2時間半に纏められ、休憩は一度も入りません。「革命の場」として知られる場面もカットされている(元々無い版なのか)し、最後はボリスの死で終わります。白痴の場面はその前。これ、何版による上演なのでしょうか? ボリスと言えば長丁場を覚悟していましたが、一度も休憩が無く、2時間チョットで終わって了ったことに拍子抜けしてしまいました。

象徴的に簡素なセットが置かれているだけ。舞台前方に設えられた下から昇ってくる階段を利用する、シンプルな舞台。もちろんルネ・パーペのボリスが聴きどころですが、年代記の書記であるピーメンのクルト・リドゥルの存在感を忘れることはできません。主要な登場人物は上記13人ですが、登場場面が少ない役が多いのも「ボリス・ゴドゥノフ」の特徴か。個別にカーテンコールを受ける時の順番にも注意しましょう。
残念ながら日本語字幕がない(字幕はドイツ語と英語のみ)ので、このオペラを始めて見る方には厳しいかも。ピーメンの語る帝政の歴史が大いにヒントになるのですが・・・。対訳サイトなども活用して鑑賞されることをお勧めします。

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