ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(61)

昨日配信された「オルランド」は去年12月に世界初演されたばかり。当欄でも真っ先に取り上げましたから、初めての方はその時のブログを検索してください。
ということで、今日はベルリーニの「夢遊病の女」を取り上げましょう。古くはマリア・カラスが得意としていた演目で、私もカラスで育った世代。最近ではメトロポリタン歌劇場のライブ・ヴューイングでも話題になりましたね。今回の「夢遊病の女」は2017年1月13日にウィーン国立歌劇場で行われた公演で、この日付を良く覚えておいてください。キャストは、

アミーナ/ダニエラ・ファリー Daniela Fally
リーザ/マリア・ナザロヴァ Maria Nazarova
エルヴィーノ/フアン・ディエゴ・フローレス Juan Diego Florez
テレーサ/ロージー・オルドリッジ Rosie Aldridge
アレッシオ/マニュエル・ワルサー Manuel Walser
ロドルフォ伯爵/ルカ・ピサローニ Luca Pisaroni
公証人/ハシク・バイヴェルシャン Hacik Bayvertian
指揮/グリエルモ・ガルシア・カルヴォ Guillermo Garcia Calvo
演出、舞台及び照明/マルコ・アルトゥーロ・マレッリ Marco Arturo Marelli
衣装/ダグマール・ニーフィンド Dagmar Niefind

このところのアーカイヴ配信は何故かモノラル音声のものが続きますが、「夢遊病の女」も残念ながらモノラルです。
演出はメットのもの(演出家の名前は調べていません)とは全く違っていて、ウィーンでは「トゥーランドット」「カプリッチョ」「ペレアスとメリザンド」「西部の娘」でもすっかりお馴染みになったマレッリの舞台。衣装のニーフィンドとは上記4作品でもコンビを組んでいて、チーム・マレッリとして活躍しているのでしょう。

オペラは全2幕、夫々の幕も二つの場面で構成されていますが、マレッリ演出では全てが同じ舞台で演じられます。原作の設定どおりスイスのある村ではありますが、リーザが経営しているのは小さな村宿ではなく、現代風な洒落たホテル。窓からはマッターホルンと思しき山並みが見えています。この辺りが、読み替え・深読み系の演出家ながらツボを外さないマレッリならではでしょう。
第1幕と第2幕の違いは、第1幕の最後でアミーナに裏切られたと勘違いして怒ったエルヴィーノがホテルの扉を開け放ち、そこから吹き込んだ吹雪によってホテルのピアノが壊れ、ロビーも雪の吹き溜まりが出来ているという設定になっていること。夢遊病でアミーナが眠り込んだのはロドルフォ伯爵の部屋ではなく、ホテルのロビーということになります。

エルヴィーノを横取りしようと目論んだリーザに、アミーナの育ての母テレーサが浮気の証拠として突き付けるのも、ハンカチではなくリーザの靴下と片方の靴。この二点に付いても前半でちゃんと伏線が貼られているのは流石でした。幕切れで全員がアミーナとエルヴィーノを祝福する中、一人カウンターで不貞腐れるリーザ、というのも微笑ましい。
今回も残念ながら日本語字幕が出ません(ドイツ語と英語のみ)が、「夢遊病の女」はネット上で対訳も探せますし、主役6人の人物関係を理解しておけば難しいストーリーじゃありません。

典型的なベル・カントを楽しむオペラで、やはりフローレスの魅力全開のエルヴィーノと、ウィーンっ子の間で人気抜群のファリーが歌うアミーナの歌比べが聴きどころでしょう。
ロドルフォのピサローニも「ドン・ジョヴァンニ」のレポレッロでお馴染み。そう言えば伯爵の役どころが何処となくドン・ジョヴァンニを連想させるのは、それが原因かも。

理屈抜きで楽しめる喜劇ですが、終演後のカーテンコールもしっかり最後まで見ていてください。このキャストですからピット前に観客が押しかけていつまでも帰りませんが、最後の最後で天井桟敷辺りからでしょうか、“ハッピー・バースデー”の合唱が起こります。そう、1月13日はフローレスの誕生日だったんですね。こういうことまでシッカリ覚えていて歌手を称える、ウィーンの聴衆の暖かさも目撃しておきましょう。

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