ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(64)
3か月半に亘って楽しませて貰ったウィーン国立歌劇場のアーカイヴ配信、残すところ「リゴレット」と「ファルスタッフ」というヴェルディの2作品のみになってしまいました。今日は「リゴレット」を楽しみましょう。
オッタヴァ・テレビが去年5月にウィーン国立歌劇場のライブ・ストリーミング配信をスタートさせたとき、最初の演目だったのが「リゴレット」。私はウッカリしていて配信開始に気が付くのが遅れ、これは見逃してしまいました。確か記念すべき第一弾として無料で視聴できたと思いますが、今回の映像はその時のものではありません。もちろん演出は同じだと思います。
2019年5月のキャストは調べていませんが、今回見ることが出来るのは素晴らしい配役で、2016年1月28日の公演。リゴレット、ジルダ、マントヴァ公にこの3人が揃えば文句ありませんね。
マントヴァ公爵/フアン・ディエゴ・フローレス Juan Diego Florez
リゴレット/カルロス・アルヴァレス Carlos Alvarez
ジルダ/オルガ・ペレチャッコ Olga Peretyatko
スパラフチーレ/アイン・アンガー Ain Anger
マッダレーナ/ナディア・クラステヴァ Nadia Krasteva
ジョヴァンナ/マーガレット・プランマー Margaret Plummer
チェプラーノ伯爵/マーカス・ペルツ Marcus Pelz
チェプラーノ伯爵夫人/リディア・ラスコルブ Lydia Rathkolb
モンテローネ伯爵/アレクサンドルー・モイシウク Alexandru Moisiuc
マルッロ/ミハイル・ドゴターリ Mihail Dogotari
ボルサ/カルロス・オスナ Carlos Osuna
マントヴァ侯爵の小姓/アンドレア・キャロル Andrea Carroll
指揮/エヴェリーノ・ピド Evelino Pido
演出/ピエール・アウディ Pierre Audi
舞台装置/クリストフ・ヘッツァー Christof Hetzer
照明/ベルント・プルクラベク Bernd Purkrabek
「リゴレット」を見るのは久し振り。私がオペラ初体験をしたいくつかの作品の一つがこれで、それはNHKが招聘した第3次イタリア歌劇団のテレビ放送でのこと。アルド・プロッティ演ずるリゴレットを何度も繰り返し見たものです。(当時家庭用ビデオはありませんでしたが、NHK自体がテレビ・ラジオで何回も再放送していたものです)
しかしリゴレットの音楽そのものはその時が初体験ではなく、小学校の課外授業でディズニー映画を見る時間があり、アニメ映画の中で第3幕の有名な四重唱をパクッて面白おかしく見せている映像を見た覚えがあります。更には「吾等がテナー」藤原義江がテレビのショーで「女心の歌」を披露するのを見た記憶も。へぇ~、藤原義江って男なんだ、と知ったのもこの時でしたっけ。
そんな訳で「リゴレット」は古い昔ながらの演出が頭の片隅に残っていますが、今回の演出を手掛けたアウディは1957年生まれ、レバノン出身の演出家とのこと。オランダ国立劇場の芸術監督、オランダ・フェスティヴァルの芸術監督も務めていたそうで、オールド・ファンには随分と斬新に映ります。
回り舞台を使ってマントヴァ公の館からリゴレットのあばら家、スパラフチーレの怪しげな居酒屋まで場面の転換も自然。前奏曲が始まると同時に幕が開き、枯れ木が立つ殺伐とした舞台はリゴレットの心象風景を象徴しているのでしょう。この殺風景な背景で、第2幕の復讐を誓うリゴレット父娘の前でモンテローネ伯爵の処刑を見せるシーンにはドキッとさせられました。
心理劇という意味では、第1幕第2場でリゴレットにスパラフチーレが仕事を仄めかす際にマッダレーナに色目を使わせたり、第3幕の有名な「女心の歌」も公爵の本性を4人が目撃するように読み込まれています。
改めて「リゴレット」を見直す良い機会となりましたが、マントヴァ公の死体(実はジルダ)を引き取りに来たリゴレットが12時を告げる鐘に「Mezzanotte」と呟く場面、明日配信される「ファルスタッフ」の終幕でファルスタッフが呟くシーンと全く同じだ、と気が付きました。今回のリゴレットを歌うアルヴァレスは配信された「ファルスタッフ」も歌っており、なるほど同じバリトンの台詞なんだと妙に感心した次第。
そのアルヴァレスは、スペインのバリトンでウィーン国立歌劇場の宮廷歌手。今年2月にライヴ配信された「オテロ」でイアーゴを歌った際に受賞セレモニーがありましたが、前シーズン6月の「トスカ」でスカルピアを演じた時にカヴァラドッシのピョートル・べチャワが宮廷歌手を受賞した折にも同席していました。いろいろな意味でウィーンとは繋がりの深い大スターでもあります。
一連のアーカイヴ配信では「清教徒」のリッカルド(この時のエルヴィーラはペレチャッコ)、「連隊の娘」のスルピースではコミカルな役、「ファルスタッフ」、「フィガロの結婚」ではアルマヴィーヴァ伯爵と、硬軟何でもござれの名優と言って良いでしょう。今期はドン・ジョヴァンニも歌う予定でしたが、劇場閉鎖で中止になってしまいました。何時かアルヴァレスの「ドン・ジョヴァンニ」も見てみたいものです。
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