直前の交代劇、BBCフィルハーモニック(オンライン)
今年のライブ・プロムス、2日ほどパスして9月2日の無観客公演を聴きました。パスした2公演は、今年生誕150年を迎えたレハールを中心にしたウィーン音楽プログラムと、ロンドン・シンフォニエッタの現代作品を並べたコンサート。パスしたと言っても45日間追っかけ視聴できますから、時間が空いた時にでも聴いてみましょう。
9月2日の放送を楽しみにしていたのは、イスラエルの新星オマー・メイアー・ヴェルバーの指揮を聴きたかったから。去年からBBCフィルハーモニックの首席指揮者に就任したヴェルバーは、去年のプロムスで二度接しました。特にハイドンの天地創造では画期的な解釈と演奏で小生も度肝を抜かれましたので、今回アナウンスされていたハイドンの第80番交響曲でどんなアイデアを披露するのか、実は待ち望んでいた次第。
ところが今朝、BBC3にアクセスすると、何と指揮者も演奏曲目も変更になっているではありませんか。結果、こんなコンサートでした。
9月2日
ハイドン/歌劇「フィレモンとバウチス」序曲
ブリテン/夜想曲
チャイコフスキー/付随音楽「ハムレット」第4幕間奏曲
チャイコフスキー/弦楽セレナード
BBCフィルハーモニック
指揮/ジョン・ストルゴーズ John Storgards
テノール/アラン・クレイトン Allan Clayton
変更になった理由を聞き逃しましたが、直前のことだった様子。代わって指揮台に立ったのは、同オケの首席客演指揮者を務めているジョン・ストルゴーズ。この方に付いては何度もプロムスに登場していますから、特に紹介することもないでしょう。
これに伴ってか、プログラムも替わりました。序曲に続いて演奏される筈だったウズベキスタン出身の女性作曲家アジザ・サディコヴァ Aziza Sadikova の新作初演は取り下げとなり、メインのハイドンもチャイコフスキーの弦楽合奏曲に入れ替えられています。冒頭のハイドンの序曲と、繰り上げられて2曲目に演奏されたブリテンの歌曲集は当初からの選曲。
ということで些かガッカリでしたが、折角の機会、1時間ほどのコンサートですから一気に聴き通してしまいました。
コンサートはコメンテイターを務めるトム・マッキニー氏の司会、テノールのクレイトンへのインタヴューを挟みながら進められます。
最初に取り上げられた珍しいハイドンの序曲は、現在では絶滅してしまった人形歌劇(マリオネット・オペラ)のための作品で、私は初めて耳にしました。楽譜も見当たらないほどの珍品で、どうやら急・緩の二部分から構成されているようです。ま、食前酒という趣でしょうか。
実はこれに続いて世界初演される予定だったサディコヴァの作品には「マリオネット」というタイトルが付けられていて、冒頭のハイドン作品と関連を持たせたものではなかったのかと想像されます。聴けなかったのは残念ですが、ヴェルバー共々捲土重来に期待しましょう。
ブリテンの夜想曲は、英国の様々な詩を題材に全曲通して演奏するように組み上げられた歌曲集。弦楽合奏をベースにしつつも、順にファゴット、ハープ、ホルン、ティンパニ、イングリッシュ・ホルン、フルートとクラリネットのソロが絡むというアイデア豊かな30分ほどの佳曲。LP時代にピアーズとブリテンが共演したデッカ盤が出ていて、ソロ楽器とテノールとが見事なバランスで収録されていることが話題になっていましたっけ。恐らくその時以来、久し振りに聴きましたが、あの比較的オンな録音が私の好みの原点にもなっている懐かしい歌曲集でもあります。
コンサートは、チャイコフスキーの高名な弦楽セレナーデで締められましたが、この作品はソーシャル・デスタンス時代の人気曲として改めて注目されてきました。平時なら弦楽合奏曲で演奏会が閉じられることは殆どありませんが、改めてセレナードというより「弦楽のための交響曲」として再認識されているようです。
それこそLP時代にはあちこちカットされた演奏が多かったものですが、この日のストルゴーズ/BBCフィルハーモニックもガット無し、完全全曲演奏で堂々とエンディングを迎えています。
その前に取り上げられたのが、同じチャイコフスキーの弦楽合奏曲。芝居の「ハムレット」のために書かれたレアな一品ですが、第4幕の最初に演奏される間奏曲で、実はエレジー。何とも美しい音楽で、チャイコフスキーのアンコール定番と言えばアンダンテ・カンタービレかユモレスクの弦楽合奏アレンジ版でしょうが、他にこんな素敵な音楽もあるのだ、ということを知る絶好の機会でしたね。
誰かチャイコフスキーの大きな交響曲の後で作品名も告げずにこの小品をアンコールしたなら、恐らく帰りに曲名を書いた告示板に黒山の人だかりが出来ること間違いなし。尾高忠さん辺りがやってくれるのでは、と期待しちゃいましょう。
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