二日続けての交代劇、バロックの夕べ(オンライン)
９月３日のプロムス無観客ライヴは、バロック音楽の夕べでした。私は普段余りバロック音楽は聴かないので感想はパスする積りでしたが、忘れられない一夜になったということで紹介することにします。
本来このコンサートはオーケストラ・オブ・ジ・エイジ・オブ・エンライトゥンメント(略してＯＡＥ)に二人のヴァイオリンの名手、ニコラ・ベネデッティとアリーナ・イブラギモヴァが加わってエンターテインメント性にも富んだ夕べになる筈でした。
ところが演奏会の前日、イブラギモヴァの父君が急逝され、演奏者が変更なってしまいます。キアロスクーロ・クァルテットのファーストも務めるアリーナの父リナト・イブラギモフ Rinat Ibragimov は、旧ソ連のモスクワに生まれたコントラバス奏者で、ソ連崩壊後はロンドンに居を移してロンドン交響楽団のコントラバス首席を務められた方。２０１４年に病を得てからは後進の指導に専念してきましたが、２日に逝去されました。
演奏会直前のこと。アリーナが弾くことになっていた３曲の二重協奏曲のパートはＯＡＥのメンバー３人が分け合い、プログラムは予定通り演奏されています。因みにアリーナ・イブラギモーヴァは今月下旬に来日して東京交響楽団とショスタコーヴィチの第１協奏曲を演奏することになっていましたが、当然ながらキャンセルになっています。理由は海外渡航規制によるものですが、家族の不幸も重なっていることも記憶しておいてください。
９月３日
ヴィヴァルディ/２つのヴァイオリンのための協奏曲ニ長調ＲＶ５１３
ヘンデル/合奏協奏曲変ロ長調作品３－２
ヴィヴァルディ/２つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調ＲＶ５１４
ヘンデル/歌劇「ラダミスト」第２幕～パッサカリア
ヴィヴァルディ/２つのオーボエのための協奏曲イ短調ＲＶ５３６
チャールズ・エイヴィソン Charles Avison (1709-1770)/合奏協奏曲第５番ニ短調(スカルラッティのソナタに基づく)
バッハ/２つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調ＢＷＶ１０４３
オーケストラ・オブ・ジ・エイジ・オブ・エンライトゥンメント
指揮とハープシコード／ジョナサン・コーエン Jonathan Cohen
ヴァイオリン／ニコラ・ベネデッティ Nicola Benedetti
オーボエ／アレクサンドラ・ベラミー Alexandra Bellamy、カタリーナ・シュプレッケルセン Katharina Spreckelsen
演奏会は休憩なく続けて演奏。冒頭ヴィヴァルディのニ長調協奏曲はロドルフォ・リヒター Rodolfo Richter 、３曲目のニ短調協奏曲はカティ・デプラッツィーニ Kati Debretzeni 、最後のバッハはマシュー・トラスコット Matthew Truscott との二重奏でした。
バロック作品については知識も無いので簡単に。
４曲目に取り上げられたヘンデル「ラダミスト」のパッサカリアの正体は不明です。グリュサンダー版のスコアを探しましたが、歌劇「ラダミスト」にパッサカリアという単独の楽曲は見当たりませんでした。別の資料によると第３幕の後半で踊られるバレー音楽から採ったものと解説されていましたが、オリジナルの「ラダミスト」にはバレエなど登場しません。あるいは第２幕にある３拍子系のアリアをオーケストラだけで演奏したものかとも考えましたが、全く別の音楽でした。
お終いから二つ目に取り上げられたチャールズ・エイヴィソンという作曲家は、１７０９年に英国のニューキャッスルで生まれ、１７７０年に同じニューキャッスルで亡くなった英国バロックの作曲家。１７７０年に亡くなったということは、ベートーヴェンが生まれた年。つまり没後２５０年に当たるのですね。
生地の教会でオルガニストも務めており、今回演奏された作品はアレッサンドロ・スカルラッティのキーボード・ソナタの編曲だそうです。エイヴィソンにはスカルラッティ作品を編曲した合奏協奏曲が１２曲あり、これらは１７４３年に纏めて出版された由。第５番と番号が振られたニ短調作品は全４楽章。基になったスカルラッティのソナタは、第１楽章 Largo は不明、第２楽章 Allegro がＫ１１、第３楽章 Andante moderato はＫ４１、第４楽章 Allegro はＫ５。Ｋはカークパトリック番号のことで、私は原曲のスカルラッティの譜面を見ながら聴きました。第３楽章はかなり縮めている印象ですが、他はほぼ原曲のままアレンジされています。
このコンサート、アンコールとしてパーセルのアブデラザードからロンドが演奏されれました。ブリテンが「青少年のための管弦楽入門」のテーマとして使って一躍有名になった、あのメロディーですね。
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