東京交響楽団・第159回名曲全集

今日は、約半年振りに多摩川を渡って川崎に出掛けました。県境を越えることに多少後ろめたさはありましたが、そろそろ我慢の限界だったのかも。
そしてもう一つ。様々な制約が設けられながらも演奏会が再開されて2か月以上が経ちましたが、舞台上の密集を避けるために、どうしても演奏される作品はせいぜい2管編成のものまでに限られてきました。そうなるとどうしてもレパートリーは偏りがちで、もちろんモーツァルトやベートーヴェンも良いけれど、そろそろオーケストラの大音響が聴きたくなってきます。

そんな時に見つけたのが、これ。私は東響の会員ではないので余り注意していなかったのですが、プロコフィエフという活字に目が釘付け。このコンサートはコロナ前からチケットが販売されていたようですが、暫く中止していたもの。漸く最近になって販売を再開するというニュースを指揮者の原田チャンネルで見つけ、躊躇うことなくチケットをゲットしました。
第5交響曲なら3管編成、打楽器もバンバン鳴らすし、会場はミューザ川崎シンフォニーホール。これなら久し振りに耳にとっての大御馳走と勇んだ次第です。

スッペ/喜歌劇「詩人と農夫」序曲
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第0番変ホ長調WoO4
     ~休憩~
プロコフィエフ/交響曲第5番変ロ長調作品100
 指揮/原田慶太楼
 ピアノ/鐵百合奈(てつ・ゆりな)
 コンサートマスター/水谷晃

その期待は、見事に的中しましたね。
もちろん、満足したのはそれだけじゃありません。滅多に聴く機会が無いベートーヴェンの第0ピアノ協奏曲という珍品もあり、これがまた若きベートーヴェンの新たな素顔に迫れる一品で、初めて味わった意外な食材、とでも言うような感触だったのです。(オンラインなら広島交響楽団で小菅優と下野指揮で聴きましたが・・・)

先ずは冒頭のスープ、じゃなくてスッペから味わいましょう。
原田慶太楼は、来年4月から東響の正指揮者に就任する期待の若手。と言っても経歴は既に充分で、私も東響のライブ配信でモーツァルトのハフナー交響曲やリムスキー=コルサコフのシェエラザードでその並々ならぬ才能に注目していました。これは早く実演に接しなければ、と。

最初のスッペで、原田はいきなり客席を驚かせます。指揮者登場を迎える拍手が未だ鳴り止んでいない最中、指揮台に飛び乗るやいきなり金管に指示を出して序曲が鳴り始めてしまいました。
詩人と農夫は美しいチェロのソロで有名。プログラム誌に榊原律子氏が解説されている通り、「開幕に相応しい華やかな音楽が楽しい」のではありますが、原田に料理されると楽しいというより激しい音楽になってしまう。打楽器が炸裂し、オケを煽ること煽ること。とてもオペレッタの気楽なスタイルじゃありません。

続いては最初に少し触れたベートーヴェンの0番。楽聖14歳頃の作品で、生まれ故郷ボンの宮廷楽団と共に演奏したと考えられているそうな。オリジナルのオーケストラ・パートは失われ、筆写譜のピアノ独奏パートのみが後世に伝えられているとのこと。今回演奏されるのは、そのピアノ譜に書かれた楽器の指示を基にヴィリー・ヘスというベートーヴェン研究家が復元した譜面でした。但しカデンツァは今回のソリストが独自に手を入れている、と聞いています。

オーケストレーションがフルート2本とホルン2本に弦楽合奏、というのもベートーヴェンの指示なのだそうですが、当時の楽器編成でオーボエが無いというのは変わっていますね。オーボエの代わりにフルート2本と言うのは、やはりベートーヴェンの実験的な姿勢が表れている、と見るべきなのでしょうか。
通常の3楽章ではありますが、各楽章で提示される主題は、特にピアノのパートでは技巧的な装飾が目立ちます。これもベートーヴェンが自分のピアノ・テクニックを誇示するための書法と見て間違いなさそう。特に第3楽章のロンド主題が如何にも踊り出すようで忘れ難く、曲の最後をこのテーマで堂々と締め括るのに思わず頬が緩んでしまいました。

ソロを弾いたのは、私は初めての鐵百合奈。大変に珍しい苗字なので手元の苗字辞典に当たってみましたが、見つかりません。鐵という漢字も珍しく、一度目にすれば忘れられないお名前ですね。
去年からベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲シリーズに取り組まれているようで、アンコールもやはりベートーヴェンのピアノ・ソナタ第19番作品49-1から第2楽章ロンド(2つの楽章しかないソナタ)でした。東響との共演も、ミューザ川崎も今回が初めての由。

休憩を挟んで、お目当てのプロコフィエフ。打楽器もティンパニの他に5人を必要とし、久し振りに聴く轟音を腹の底から味わうことが出来ました。
原田慶太楼もオケを思う存分ドライヴし、大太鼓やドラを容赦なく轟かせます。実に思い切りが良く、アイデア満載。特に第3楽章と第4楽章を休みなくアタックで繋いだのは、フェスタ・サマーミューザで聴かせたシェヘラザードと同じ。ロシア音楽には特別な愛着を感じている、と聴きました。客席も大いに沸き、時が時なればブラヴォ~の大歓声が上がったことでしょう。

ということで一言。あ~、スッキリした!!

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