秋の夜長はヴィグモア・ホールで(オンライン)
昨日はヴィグモア・ホールの秋シーズを紹介しましたが、今日もこのホールの話題です。
13日の日曜日はゲアハーハーのリサイタルだけでしたが、このホールは一日2公演が普通で、時には3公演開催される日もあるほど稼働率が高い会場としても有名です。日本では宗次ホールの稼働率が際立っていますが、ヴィグモアはそれを上回るかも知れません。
詳しいスケジュールはヴィグモア・ホールのウェブサイトに出ていますが、基本的に土日は1公演、平日は2公演というスケジュールが組まれているようですね。2公演と言うことはマチネーと夜の公演があり、マチネーは現地時間の午後1時に開演し、夜は7時半開演というのが定番です。3公演の時は、午前10時開演からスタート。
平日のマチネー、この時間にゆったりとコンサートを楽しむのはどういう人たちか、と最初は疑問に思いましたが、老熟した英国の大都会にはリタイヤードや暇人が多い、ということでしょうか。
ところで、イギリスと日本の時差は通常なら8時間。ヴィグモア・ホールのマチネーは、日本なら同じ日の夜9時ということになります。この秋にスタートしたライブ配信なら、日本ではマチネー・コンサートを夜9時から楽しむことが出来るわけ。
9時と言えば、昔なら子供を寝かしつけた後の大人の時間。もっと上の世代なら仕事を終え、一日の出来事をゆっくり振り返る時間帯でもありましょう。秋ともなれば夜長のシーズン、夕食も済ませ、リラックスしながら室内楽を楽しむなんぞ、神が与えてくれた至福の時じゃないでしょうか。8時間という時差がもたらした、マチネーと夜長の一時の逆転現象。マチネーは1時間のミニ・コンサートですから、クラシックの名曲に疲れた心を癒し、ぐっすりと眠ろう、という趣向です。
それに気が付いたのが、アフター・コロナで最初に開催されたマチネー。こんなコンサートでした。
9月14日 マチネ
ショスタコーヴィチ/チェロ・ソナタ作品40
シューマン/アダージョとアレグロ作品70
ベートーヴェン/チェロ・ソナタ作品102-2
チェロ/アルバン・ゲルハルト Alban Gerhardt
ピアノ/マーカス・ベッカー Markus Becker
こんなに豪華なアーティストのマチネーなんぞ聴いても良いんでしょうか? この日の主役ゲルハルトは、ドイツ・チェロ界の新皇帝と紹介される1969年ベルリン生まれ。去年の読響9月定期でヴァイグレとプフィッツナー協奏曲を共演したのを良く覚えています。あの時は定期の前半て、後半はロットの交響曲でしたっけ。
ピアノのベッカーは1963年生まれ、レーガーのピアノ作品全集を録音しているヴェテラン。二人の共演CDはハイペリオンから出ていますから、聴かれた方も多いでしょう。
ヴィグモア・ホールのマチネーは、BBC3のランチタイム・コンサートでも生中継されており、私も時々楽しんできましたが、映像付きで聴いたのは初めてでした。ラジオではプレゼンターが曲目解説を行った後に演奏というスタイルですが、今回初めてその様子、というかカラクリが判りました。
ホールの1階フロア、舞台下手の一番左側の最前列より更に前に小さなスポットがあり、そこにBBCのプレゼンターが座って解説するんですね。この日は段取りに齟齬があったようで、プレゼンターが解説を始める前に舞台上で演奏が始まってしまい、途中で止めるハプニングも。ランチタイム・コンサートがより身近に感じられた瞬間でした。
ショスタコーヴィチのニ短調ソナタと、ベートーヴェンのニ長調ソナタの間にシューマンの小品が挟まれるプログラム。アダージョとアレグロは本来ホルンとピアノのための作品ですが、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロでも演奏できる一品。もちろんこの日はチェロ版で楽しめました。
アンコールは、ベンジャミン・ブリテンのチェロ・ソナタ作品65から、全編ピチカートで演奏する第2楽章スケルツォでした。
今週のマチネーは、このあとヒース・クァルテットによるベートーヴェン/ラズモ3番、セーラ・コナリーのリサイタルと続きます。夜9時、テレビなんぞ見てないでヴィグモア・ホールからの上質な室内楽を楽しみましょう。
最近のコメント