日本フィル・第724回東京定期演奏会
台風(チャンホン)が近付いているという不安な情報もありましたが、10月9日金曜日にサントリーホールで開催される日本フィルの東京定期に出掛けました。つい先日まで暑かったのが嘘のような冷え込みです。
6月に演奏会が解禁されて以来、ほぼどの会場もソーシャル・ディスタンスに配慮した座席配置、つまり市松模様に着席するという決め事がありましたが、それも10月初めころからは緩和され、ボチボチながら通常の席で聴けるコンサートが増えてきたようです。今回の定期も1階席前方を除き、いつもの座席で聴くことが出来ました。但し事前の手指消毒、検温、マスク着用、時差退席はこれまで通りです。
限定付きながらも解禁ということで満席に近いのかな、と思いましたが、やはり空席は目立ちました。定期会員の席と思われるところも埋まっていませんでしたから、感染を恐れてパスされた方も多いと思われます。
降り続いている雨で客足が鈍ったのかもしれません。土曜日の二日目は、現時点では開催の予定ですが、台風の情況によっては中止もありうるとのこと。早く満席が実現し、盛大にブラヴォーを掛けられる状態が戻ってくることを祈りましょう。
そのブラヴォ~が飛び交っても良かったのが、昨日のブラームスでした。以下のプログラム。
シューベルト/交響曲第7番ロ短調D759「未完成」
~休憩~
ブラームス/ピアノ協奏曲第1番ニ短調作品15
指揮/飯守泰次郎
ピアノ/福間洸太朗
コンサートマスター/扇谷泰朋
ソロ・チェロ/菊地知也
本来なら日本フィルの10月はラザレフ御大が台風の如く登場し、床をドン、と踏みつけて元気な姿を見せてくれるはずでした。しかし今はそれも叶わず、特にロシアも含めてヨーロッパはコロナ第2波が拡大中とのこと。暫くは海外渡航規制が続きそうです。
どのオーケストラも同じで、指揮者やソリストの代演、曲目変更に追われていますが、この回も同じ。指揮者はマエストロ飯守、ソリストに人気絶頂の福間を迎えての上記内容に変更されました。
個人的にはこれまで聴く機会が無かった福間洸太朗が聴けるということで、大いに楽しみにして出掛けた次第。所定の手続きを経てホールに入ると、いきなりフラワー・スタンドが並んでいるのに目が行きます。
見ると、フィギュアスケートの伊藤みどり様、霞町音楽堂の永井美奈子様、とあります。福間の人気の高さがこれだけでも判ろうというもの。
初体験なのでプロフィール等を記録しておくと、パリ国立音楽院、ベルリン芸術大学、コモ湖国際ピアノアカデミーで学び、20才でクリーヴランド国際コンクール優勝(日本人初)とショパン賞受賞。これまで世界各地でリサイタルを開催し、国内外の著名オーケストラとの共演も多数。伊藤みどり氏からの花束は、恐らくステファン・ランビエルなど一流スケーターとのコラボレーションも行っていることからの縁なのでしょう。テレビ出演も多数あるようで、クラシック音楽ファン以外からも注目されていると想像できます。
何より背が高くハンサム。この日も飯守大先生の足元を常に気遣い、あくまでも謙虚な応対に徹している姿に好感を抱きました。
しかし音楽は別、飯守/日本フィルのパワーに一歩も引かず、それでいてスタインウェイから美しい音色で奏でるブラームスに、大きなスケールを感じました。特に第3楽章、圧倒的なコーダに向かって徐々に情感を高め、白熱のフィナーレを築き上げたピアニズムに感服。終演後、盛大な歓声が起きないことに違和感すら覚えます。
それでも客席は精一杯の拍手で二人の共演を称え、アンコールこそなかったものの、最後は福間も客席に手を振るほど。その若人を暖かく祝福する飯守マエストロにも大きな声援が飛んだ、はずでした。
前半で演奏された「未完成」。プログラム・ノートに萩谷由喜子氏も書かれていたように、「シ、♯ド、レ」が何度も繰り返されますが、このテーマが「地下から湧き上がるよう」(ワインガルトナー)に始まった後、更に下のドにまで下がった時の低弦の音たるや、正に地を這うが如し。
これに続いて高弦にトレモロが起こり、それに乗ってオーボエとクラリネット(!!)がユニゾンでテーマを歌う。それに応えるフォルツァート(fz)の強いアクセントが、これは名演になるぞ、という予感を抱かせます。
果たして期待通り、第2楽章にすら3本のトロンボーンを使うシューベルト狂気のオーケストレーションを意識させつつ、大柄なスケールの「未完成」を現出させてくれました。
マエストロは9月30日に80才を迎えたばかり。その硬派な家柄を象徴するように、背筋がピンと通った指揮姿は健在です。判り難いと言われた指揮法ですが、この日は不思議にも見易く感じられました。
海外の指揮者が来日出来ない昨今、日本人指揮者たちはフル稼働で指揮台に立っていますが、飯守泰次郎氏も、10月の定期だけでもこのあと札幌、そして関西フィルの指揮台に立たれます。いつまでも日本楽壇の背骨として活躍されることを祈念して止みません。
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