ウィーン国立歌劇場公演「裏切られた海」(無観客オンライン)

ウィーン国立歌劇場の無観客ライブ公演、13日のトスカに続き、14日は新演出によるへンツェの歌劇「裏切られた海」が無料配信されました。世界中何処からでもアクセスでき、24時間だけの配信です。
ご承知のように、このオペラは三島由紀夫の長編小説「午後の曳航」を基にハンス・ウルリッヒ・トレイチェルがドイツ語に翻訳した台本に、ハンス・ウェルナー・へンツェが作曲した話題作。ザルツブルク音楽祭で初演され、日本ではこれを更に日本語訳したものが読響定期で取り上げられていましたから、既に聴かれた方も多いと思われます。

今回の舞台は、ウィーン国立歌劇場の新シーズンの為にプレミエとして計画されていましたが、ロックダウンにより歌劇場は閉鎖。それでも何とか日の目を当てようと企画されたのが、このライブストリーミングです。
事前にプロモーション・ビデオも流れいてましたし、この配信では開幕前と幕間に舞台関係者(演出家、舞台装置)、指揮者、歌手(スコウフス、ブレッカー)が揃って合計1時間ほどセッション・トーク(ドイツ語のみ)を行った映像も挟まれていて、ウィーン国立歌劇場の意気込みが伝わってきました。残念ながらドイツ語のみなので我々にはハードルが高いのですが、判らないなりに見ていてその雰囲気だけは伝わってきます。この中でヤングによる日本の大太鼓、オーボエ・ダモーレ、コントラバスクラリネットの解説があるのも見所でしょう。配役は以下の通り、舞台に登場するのは7人です。

黒田房子(ソプラノ)/ヴェラ=ロッテ・ブレッカー Vera-Lotte Boecker
黒田登(テノール)/ジョッシュ・ラヴェル Josh Lovell
塚崎竜二(バス)/ボー・スコウフス Bo Skovhus
不良少年グループの首領(バリトン)/エリック・ヴァン・ヘイニンゲン Erik Van Heyningen
2号(カウンターテナー)/カンミン・ジュスティン・キム Kangmin Justin Kim
4号(バリトン)/シュテファン・アスタホフ Stefan Astakhov
5号(バス)/マーティン・へスラー Martin Haessler
船乗り見習いの声(テノール)/イェルク・シュナイダー Jorg Schneider
指揮/シモーネ・ヤング Simone Young
演出/ヨッシ・ヴィーラー Jossi Wieler 、セルジオ・モラビート Sergio Morabito
舞台・衣装/アンナ・ヴィーブロック Anna Viebrock
舞台設計協力/トルステン・ケプフ Torsten Kopf
照明/アンドレアス・ホーファー Andreas Hofer

オペラは原作に忠実に二部構成。第1部(第1場から第8場まで)が夏、第2部(第9場から第14場まで)は冬という設定。トークや休憩などを含め、番組そのものは3時間25分を要し、オペラ本編は第1部が1時間半弱、第2部は1時間ほどでしょうか。
字幕はドイツ語と英語のみで、日本語が無いのが残念。但し小説の荒筋などはウィキペディアで確認することもできますから、字幕無しでも内容は何とか分かるでしょう。私も最初は英語字幕で見始めましたが、字幕が煩わしいのでオフに切り替えてしまいました。従って細部の歌詞などは全く判りませんでしたから、作品の理解度は1割にも満たないでしょう。

幕が上がると、オペラの結末を予感させるシーンで始まります。舞台は横浜港の岸壁で、ここが場面に応じて房子の部屋になったり、ブティックの店先になったりと、装置を歌手が自ら動かしながら変えていきます。
「午後の曳航」はかつて映画化されたこともあり、それがヒントになって作られたと思しき舞台装置もありました。日本語で横浜市港湾局とか、フジカラーと書かれた看板なども。また第2幕で房子が経営するブティックの正札に「ザ・ポピー」というカタカナ前が見つかりますが、これも原作通りですね。因みに原作の舞台は横浜元町に現存する高級洋服店「ポピー」なのだそうな。

少年・黒田登が憧れている貨物船の二等航海士・塚崎竜二が、何と自分の母親で未亡人の黒田房子と愛人関係となり、航海士を辞して房子が経営するブティックの亭主に納まってしまう。これを裏切りと捉えた登が竜二に殺意を抱き、自分も第3号として加わっている不良少年グループと共謀して竜二に詰め寄る、というストーリー。主役は登と見て良いのでしょう。
房子が着物にハイヒールという衣装で登場したりもしますが、歌手たちは服を脱いだり着たりと大変そう。アリアや愛の二重唱、三重唱から不良グループの5重唱などもあって、伝統的なオペラに沿っていると思える場面もありました。その意味では、白塗りで歌う房子のアリア(第2部13場)は狂乱の場と言えましょうか。

最後は無観客、拍手の無い中で通常通りカーテンコールがあり、配信が終わる最後には関係者から盛大な歓声が上がるのを微かに聞くことが出来ます。歴史に残る舞台と言えましょう。

トスカでは字幕の不具合や途中で止まるトラブルがありましたが、トスカをもう一度見てみると字幕も正常でしたし、最初から最後まで止まるようなこともありませんでした。最初は久し振りにウィーンにアクセスしたので拙宅のパソコンが面食らったのかもしれません。今回の「裏切られた海」は何のトラブルもなく、一気に楽しめたことを報告しておきましょう。
出来ることなら日本語字幕を付け、セッション・トークの解説も付してDVD化してくれないでしょうか。ウィーンとしても総力を挙げた舞台ですから、24時間の配信だけで終わってしまうのは如何にもモッタイナイ。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください