東京フィル・第817回定期演奏会
昨日は東フィルのサントリーホール定期でしたが、演奏されたのは全く初体験の作品。現代オペラの演奏会形式上演で、日本初演となるもの。恥ずかしながら作曲者名も知らなかった作品です。
従って予備知識もなし、開演30分前にホールに入り、慌ててプログラムに目を通したのは、
ショハット/歌劇「アルファとオメガ」(コンサートスタイル・オペラ)
指揮/ダン・エッティンガー
アルファ(テノール)/ヨタム・コーエン
オメガ(ソプラノ)/メラヴ・バルネア
蛇(メゾ・ソプラノ)/エドナ・プロフニック
虎(バリトン)/青山貴
ロバ(テノール)/児玉和弘
豚(バリトン)/原田圭
熊(バス)/畠山茂
ハイエナ(バリトン)/大久保光哉
合唱/新国立劇場合唱団(合唱指揮/冨平恭平)
副指揮/宮松重紀
コンサートマスター/青木高志
ホールに入ると舞台の照明は落とされ、前後左右に字幕を映し出す縦長の装置がズラリと並んでいます。指揮台を取り囲むように歌手のための譜面台も多数、如何にもこれから演奏会形式のオペラが始まるという雰囲気。
コントラバスが舞台下手に並べられ、エッティンガー好みの対抗配置で演奏されることが判りました。
初演ながらオケ側からは事前の紹介などは無かったようで、こうした場合に鑑賞の助けになるプレトークもありません。事前にCDやらスコアなどで予習してくる人が多いとも思えないし、演奏がスタートする30分前に長々としたプログラム曲目解説を読め、というのは些か不親切のように思いますがどうでしょうか。
ということで、感想を纏めるのが実に難しい演奏会でした。
プログラムには指揮者エッティンガーからのメッセージ、作曲者からのメッセージ、作品概要、曲目解説の他に、「現代ヘブライ語によるオペラ」、「芸術家(ムンク)とオメガ」、「最後の者が人間である」と3本の論文(評論?)が紹介され、歌劇の基礎となっているエドヴァルト・ムンクのリトグラフ「アルファとオメガ」全22枚の複写が掲載されていました。
この全てを演奏会の前に読むのは無理。帰宅してから拾い読みしている状態です。
更にネットで作曲家についてググると以下のショハット自身のホームページを発見、歌劇「アルファとオメガ」の一部を音で確かめることもできるし、作曲家の指揮姿を映した動画もあります。興味ある方は以下をクリックしてください。
なお当オペラはリコルディから出版(売り譜は無いみたいだけど)されているようで、リコルディのホームページからも情報を得ることができますね。
ショハット Gil Shohat は1973年生まれのイスラエルを代表する作曲家、指揮者、ピアニスト。この日も客席で見かけたように思いましたが、舞台には上がらなかったので確認は出来ません。
交響曲は既に9曲もモノにしていて、第2交響曲には「アルファとオメガ」というタイトルも。交響曲とオペラの関係は判りませんが、オペラの方が後で完成されているようです。
タイトルのアルファとオメガとは、ノルウェーの画家エドヴァルト・ムンクの連作リトグラフの物語から採ったもの。ムンク展を見たショハットが歌劇化の運命を感じた由。
このストーリーにかなり忠実にリブレットが書かれました。リブレットはドリ・マノールとアナ・ヘルマンの共作、プログラム誌の「現代ヘブライ語によるオペラ」の共同執筆者でもあります。
今回の上演では、舞台奥中央にスクリーンが設置され、場面に応じてムンクのリトグラフが映し出されました。特に17番目の「絶望するアルファ」は、彼の有名な「叫び」そっくりの表情が描かれ、名画との関連も垣間見える瞬間。
(「叫び」はつい最近、その1枚がオークションにかけられ、高値が話題になっていましたっけ。チョッとタイミングが良過ぎませんか)
場面は21の部分から構成され、歌劇としては全1幕の悲劇的なもの。一々内容は書きませんが、今回は第7曲「動物の合唱」、第9曲「アルファ、オメガ、蛇、動物の合唱」、第10曲「オメガ、蛇、動物の合唱」、第20曲「オーケストラによる間奏曲」の4部分は省略されました。
明らかに省略されたと思われる個所では字幕に内容が映し出され、演奏が一旦中断されることになります。また、最後の間奏曲はオメガの死を描く場面、作品の中では聴き所の一つかと思われます。作品全体では1時間45分ほど掛かるようですが、今回はカットして1時間半。単純に計算すれば15分ほどの短縮で、敢えてカットする必要は無かったのじゃないでしょうか。
現代作品とは言っても、ショハットの音楽は極めてメロディックなもの。もちろん歌劇というジャンル故なのかも知れませんが、まるでリヒャルト・シュトラウスの延長のようにも聴こえます。
オーケストラはかなり分厚いもので、時に歌手の声量を圧倒する場面も。ヘブライ語で歌われたので、言語に馴染が無いというハンデもあったでしょう、冒頭部分などはかなり聴き辛い印象も持ちました。
全編に亘って獣姦がテーマとなる暗い題材ですが、ロバ・豚・熊の三重唱などはスケルツァンドな音楽。とは言っても字幕を見ると内容はかなり卑猥なもの、純粋に楽しめる音楽とは言えないようにも感じます。
主役のイスラエル人3人にとっては歌詞は問題ないでしょうが、獣たちや合唱団にとってはヘブライ語はかなりハードルが高いと思われます。その点も考慮し、声量も含めて日本人歌手たちの頑張りが目立ちましたね。
主役3人では、蛇を歌ったプロフニックというメゾ・ソプラノが立派だと思いました。他の二人も熱演でしたが、オケの大音量にかき消されることも何度か。指揮者に問題があるのか、作品そのもの故か、また演奏会形式の宿命か、声を聴きたい人にはもどかしく感じられたかもしれません。
以上、大変に珍しい定期。題材が題材だけに隠された意味は大きいと思いましたが、音楽は逆に1世紀ほど遡った印象。不思議なオペラです。
なお今定期の放送は予定されていないようですが、舞台には集音マイクが何本も立ち並んでいました。単なる記録用とも思われませんので、いずれ何かの形で公開されるかも知れません(私の勝手な想像です)。
まとめtyaiました【東京フィル・第817回定期演奏会】
昨日は東フィルのサントリーホール定期でしたが、演奏されたのは全く初体験の作品。現代オペラの演奏会形式上演で、日本初演となるもの。恥ずかしながら作曲者名も知らなかった作品…