クァルテット・エクセルシオのベートーヴェン弦楽四重奏全曲チクルス(2)

2020年12月16日、千葉県浦安市の浦安音楽ホールでクァルテット・エクセルシオのベートーヴェン弦楽四重奏全曲チクルス第2回が開催されました。
日付に注目してください。そう、この日は楽聖ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンの250回目の誕生日に当たっていました。今更言うまでもなく、今年はベートーヴェンの生誕250年に当たる記念の年。残念ながら世界中に新型コロナが蔓延したためにこの記念を盛大に祝うはずだった催しは殆ど全てが無に帰してしまいましたが、12月16日は暦通り巡ってきたのです。

記念すべきこの日、ベートーヴェンを讃えて感謝する催しはいくつあったのでしょうか。セバスティアン・ヴァイグレ率いる読響が第9を演奏したと思いますが、それを除いては浦安のベートーヴェン・チクルスが一人気を吐いていたのではなかろうかと思われます。

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第10番変ホ長調作品74「ハープ」
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第8番ホ短調作品59-2「ラズモフスキー第2番」
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第16番ヘ長調作品135

クァルテット・エクセルシオのチクルスに付いては、10月14日に行われた第1回のレポートで詳しく紹介しました。ここでは繰り返しません。
前回と同様、事前にリハーサルと実況中継という形で公開リハーサルがあったのも同じです。リハと中継は12月4日、音楽ジャーナリストの渡辺和氏とヴァイオリニスト高橋渚氏がリハーサルの模様を解説するもの。この時はラズモ第2の第1楽章と、作品135の第4楽章が取り上げられました。参加した好事家たちは、クァルテットのリハーサルというものが如何に細かいこと、楽譜の読み方からニュアンスの付け方、クレッシェンド一つにしても何処から、どの程度、何処まで続けるかについて侃々諤々の議論が交わされていくのかに驚かれたことでしょう。これじゃぁ~演奏会一つを仕上げるのにどれだけ時間が掛かるのか分かりゃしない。

そうして仕上がったコンサート、さすがにプロの仕事は違うと納得させられます。課題になっていた箇所も4人の解釈がピタリと統一され、ここに至るまでの紆余曲折など一切無かったかのよう。もちろん彼らにとってベートーヴェンはライフワークとして取り組んでいる譜面。何度も演奏してきているとは言いながら、演奏は毎回異なり、作品は都度チャレンジしていく必要がある生命体でもあります。
第1回でも触れましたが、今回のチクルスはほぼ月一回のペースで進行することもあり、エクの姿勢には余裕すら感じられる。加えてこれまでの経験、ホールの響きを最大限に生かしてのベートーヴェン演奏には、王道の風格さえ漂ってきたのではないでしょうか。

この夜、最も感銘を受けたのはラズモ第2の第2楽章でした。一音一音が丁寧に紡がれ、心が洗われるような澄み切った演奏。そして最後に取り上げられた作品135の見事さ。改めてこの作品にはベートーヴェンのエッセンスが隙間もないほどに詰まっていることを思い知らされます。時折姿を見せる大フーガや第9交響曲の精神。聴く度に新たな発見があるのがベートーヴェンであり、エクはそれを聴き手に届けてくれるのです。

3曲もの大曲が続きましたが、何とこの日はアンコールというプレゼントも用意されていました。再度着席した4人、ファースト西野が口を布で覆いながらスピーチし、今日は特別な日ですから、どうしてもアンコールさせてください。曲はベートーヴェンの歌曲 Ich Liebe Dich を弦楽四重奏にしたもの。
お、そんなアレンジがあるのかと聴き始めましたが、あれ、何処かで聴いたようなメロディーが・・・。意表を突かれたので全部は捉え切れませんでしたが、田園、月光、第9などの断片がこっそりと忍ばせてあり、最後は Happy Birthday to You で締め括られる。アンコールの途中で舞台スタッフが曳き出してきたのは、ベートーヴェンの肖像画に250の文字を飾り付けたモニュメントというサプライズも。

これには客席も大喜びで、エクのメンバー共々、楽聖に最大限の祝福と感謝を捧げたのでした。Herr Beethoven 、あなたが生まれなかったら、世界はどんなに貧しかったか!!
ところでこの造り物、誰の発案で誰が作ったんでしょうね。またアンコールのアレンジは誰なんでしょう。何れ流行病が終息し、演奏会終了後に演奏者との懇談が出来るようになったらメンバーに聞いてみましょう。

今回のチクルスは本格的なシステムで映像収録されており、回ごとにDVDとして収録されています。希望者には有料で頒布されていて、私も第1回のDVDをゲットしました。
今回のものももちろん購入申し込みしましたので、例のアンコールも何れ解読できるでしょう。ということで、私にとってはこれが2020年のコンサート聞き納めでした。エクのベートーヴェン・チクルスは来年に引き継がれます。
次回は1月13日、また浦安でお会いしましょう。それでは皆様、良いお年を。

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