ヴィグモア日誌(15・最終回)
9月中旬にスタートしたヴィグモア・ホールの秋シーズン、クリスマス前までの予定でしたが、いよいよ最終週を迎えました。最後の週と言っても、実際に演奏会が行われたのは12月21日(月)のマチネと夜の2公演だけです。
何れもクリスマスに因んだプログラムで、イギリスを代表する二つの声楽アンサンブルを十二分に味わうことが出来ました。
ところでロンドンでは感染力が強い新型コロナウイルスの変異種が広がっており、英国政府はクリスマス前に予定していた一時的な緩和制限を撤回し、事実上のロックダウン再導入を決定しています。これに伴い世界各国は、英国からの航空便の受け入れを停止していることはニュースなどで報じられている通り。
当然ながらヴィグモア・ホール秋シーズン最後の2公演も無観客、英国の演奏家だけが出演して寂しいクリスマス・イヴェントとなってしまいました。その二つのコンサートとは、
12月21日(月)のマチネは、古いスタイルという意味の「スティレ・アンティコ Stile Antico」という名前のヴォーカル・アンサンブルが、スペイン黄金期のクリスマス音楽を取り上げました。
彼等の公式ホームページを見ると女声6人、男声6人の12名で構成されているようですが、この日は女声がもう一人加わって13名のアンサンブルでした。指揮者がいないのが特徴で、2001年に創設され、ハルモニア・ムンディへの多数の録音で知られています。
今回のコンサートはアロンソ・ロボ Alonso Lobo (1555-1617)のMissa Beata Dei genetrixがメインで、キリエ、グローリア、サンクトゥスとベネディクトゥス、アニュス・デイの四つの楽章の前後に様々なスペインの作曲家の作品を挟みながらミサを挙げるというもの。13人のメンバーが、編成と配置を変えながら次々と歌っていきます。
前後や間に取り上げられた作曲家は作者不詳のものから始まり、ペドロ・リモンテ Pedro Rimonte (1565-1627)、フランシスコ・ゲレロ Francisco Guerrero (1528-1599)、マテオ・フレッチャ Mateo Flecha (1481-1553)、トーマス・ルイス・デ・ヴィクトリア Tomas Luis de Victoria (1548-1611)、クリストバル・デ・モラレス Cristobal de Morales (c.1500-1553)といった面々。恥ずかしながら名前を聞いたこのがあるのはヴィクトリアくらいで、クリスマス音楽と言っても全く耳に馴染みのないものばかりでした。詳しい作品名はヴィグモア・ホールの公式ウェブサイトで確認してください。
アンコールはウイリアム・バード William Byrd (c.1529/40 or 1543-1623) の Ecce Virgo Concipiet 。
夜のコンサートは、マチネに登場したスティレ・アンティコと並び16・17世紀の音楽と現代音楽を専門とする英国の声楽アンサンブル、ザ・カーディナルズ・ミュージック The Cardinall’s Musick によるやはりクリスマス音楽特集でした。スティレ・アンティコと違って指揮者がおり、舞台下から指揮と解説を行ったのは、この団体の創設者でもあるアンドリュー・カーウッド Andrew Carwood 。
ソプラノ・アルト・テノール・バスの各声部が二人づつ、但しアルトは二人ともカウンターテナーという男性6名、女性2名が、互いの間隔を大きく取って歌っていきます。メンバーは、ソプラノがジュリー・クーパー Julie Cooper とセシリア・オズモンド Cecilia Osmond、アルトはパトリック・クレイグ Patrick Craig とデヴィッド・グールド David Gould 、テノールはスティーヴン・ハロルド Steven Harrold とニコラス・トッド Nicholas Todd 、バスがベン・デイヴィス Ben Davies とロバート・マクドナルド Robert Macdonald という面々。現在はハイペリオンの専属アーティストだそうです
プログラムのメインは何と言っても2番目に歌われたパレストリーナのミサ「おお大いなる神秘よ」で、ミサ曲集第4巻の第3ミサとして出版されているもの。クリスマスのプレイン・ソング(朗誦)を挟む本来の形での演奏で、この作品だけでコンサートの半分を占めるほどの大作です。他にシュッツやプレとリウスも歌われましたが、作品名と演奏順は次の通りでした。
パレストリーナ (c.1525-1594)/O magnum mysterium(6声)
パレストリーナ/Missa O magnum mysterim(5声、Agnus Dei のみ6声)
シュッツ (1585-1672)/Ach Herr, du Schopfer aller Ding(5声)
シュッツ/Geistriche Chormusic 作品11~Das Wort ward Fleisch(6声)
作曲家不詳/Josef lieber, Josef mein(8声)
作曲家不詳/In dulci jubilo(8声)
ミヒャエル・プレトリウス (1571-1621)/Magnificat quinti toni(8声)
ミヒャエル・プレトリウス/Josef lieber, Josef mein(8声)
ミヒャエル・プレトリウス/In dulci jubilo(8声)
ということで、当欄ではヴィグモア・ホールの2020年秋シーズンの内容を紹介してきました。公式ウェブサイトでは1月の予定も発表されていますが、冒頭で紹介したように計画通り演奏会が開催できるのか、秋と同様に無料配信されるのかも判りません。紹介という意味での私の役目も終わったものと考え、来年のヴィグモア・ホールはブログでは取り上げません。
もちろん個人的にはチェックし続けますが、皆様も興味ある演奏会を探して楽しんで見ては如何でしょうか。
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