ヴィグモア日誌(14)

ヴィグモア・ホールの秋シーズンも愈々残り2週になってきました。連日の演奏会からスタートし、海外渡航規制に伴って相次ぐ予定変更、第2次ロックダウンを影響での無観客演奏会、そして一部規制緩和により観客が戻ってくるという波乱万丈を経て、2020年も暮れようとしています。
第14週となる12月中旬は、予定では4つのコンサートが開催される筈でした。しかし15日のテネーブレによるクリスマス・コンサートは不測の事態が発生したとのことでキャンセル。無事に配信されたのは以下の3つの演奏会です。

12月14日(月)はいつものようにマチネと夜のコンサートの2本立て。マチネではジャック・リーベック Jack Liebeck のヴァイオリンとカーチャ・アペキシェヴァ Katya Apekisheva のピアノによるデュオ・リサイタルが行われました。リーベックは、1980年生まれのイギリスのヴァイオリニストで、この日の共演者アペキシェヴァとのコンビで録音したクライスラー・アルバムが有名です。そのアペキシェヴァはロシアのピアニストで、1996年リーズ国際ピアノ・コンクールのファイナリストにまで進んだ方。
曲目は、最初がシューマンのヴァイオリン・ソナタ第1番イ短調作品105、続いてイ短調から同名長調のイ長調作品に続き、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタイ長調K526が弾かれます。最後に二人を有名にしたクライスラー作品から3曲、クライスラー自身のオリジナルであるウィーン奇想曲作品2、シンコペーションが取り上げられ、最後にファリャのスペイン舞曲をクライスラーが編曲した版で締め括られました。アンコールもクライスラーで、小さなウィーン風行進曲。

12月14日の夜は、世界的カウンターテナーのイェスティン・デーヴィス Iestyn Davies が登場し、アルカンジェロ Arcangelo というバロック合奏団との共演でヘンデルを中心にしたプログラム。アルカンジェロはハープシコードとオルガンをジョナサン・コーエン Jonathan Cohen 、リュートにトーマス・ダンフォード Thomas Dunford 、チェロのジョナサン・マンソン Jonathan Manson 、そしてヴァイオリンがマシュー・トラスコット Mathew Truscott という男性4人で構成されています。
コンサートはヘンデルの9つのドイツ語のアリア集が中心で、間にジェミニャーニ、ヘンデル本人、マラン・マレーの器楽曲を挟みながら次々と歌われていく趣向です。謳われた曲順と器楽曲の編成をリストアップしておきましょう。
ヘンデル/来るべき日々の思いわずらい
ヘンデル/うす暗い墓穴から来たお前たち
ジェミニャーニ/チェロ・ソナタヘ長調作品5-5(チェロ・リュート・チェンバロ)
ヘンデル/快い静けさ、安らぎの泉
ヘンデル/かわいい矢車草の花
ヘンデル/ヴァイオリン・ソナタイ長調作品1-3(ヴァイオリン、チェロ、リュート、チェンバロ)
ヘンデル/戯れる波のゆらめく輝き
ヘンデル/神をたたえて、歌え魂よ
マラン・マレー/Les Voix Humaines (リュート・ソロ)
ヘンデル/燃えるバラ、大地の飾り
ヘンデル/快い茂みのなかに
ヘンデル/私の魂は見つつ聞く
イェスティン・デーヴィスは2016年2月、鵠沼サロンコンサートで生演奏に接した思い出の名歌手で、あの時はダウランドを中心にしたプログラムでしたが、同行したリュート奏者も今回と同じトーマス・ダンフォード。今思えば、良くこの二人が鵠沼まで来てくれたものだと溜息が出てしまいました。
アンコールも用意されていて、クリスマスに因んでミヒャエル・プレトリウス (1571-1621) の「ばらは咲き出でぬ」でした。

12月15日(火)は、冒頭でも触れた通りテネーブレ tenebrae によるクリスマス・コンサートの筈でしたが土壇場でキャンセル。現時点ではクリスマス前には実現できるように調整中とのこと。楽しみにしていた配信だけに残念でした。

それと関係があるのでしょうか、14週の最後に行われた12月16日(水)内田光子のリサイタルは、再び無観客での演奏でした。曲目は、シューベルトのピアノ・ソナタハ長調D840と、幻想ソナタト長調D894の2曲。前半のD840は「レリーク」(遺作の意味)と呼ばれることもある未完成のソナタで、以前は第15番と数えられていたもの。クルジェネークが補筆完成させた版で演奏する人もいますが、内田はフィリップス録音でもそうだったように、完成している最初の二つの楽章だけを弾きました。リヒテルのようにシューベルトが書き残した音楽を筆が途絶えているところまで弾くピアニストもいますね。
後半のD894は以前18番に数えられていた長大な傑作。無人のホール(と言ってもコメンテイターとホール支配人だけが臨席していましたが)で普段着?の内田が静かに弾く孤独なシューベルトを味わうことが出来ます。従ってアンコールはありません。

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