今日の1枚(56)
フィリップス録音によるベイヌム/コンセルトへボウのシリーズ、2枚目は大物です。
UCCP-3332(442 7302) で、ブルックナーの交響曲第8番。長い作品ですが、この1曲がCD1枚に収録されています。
録音年月日は1955年6月6日から9日。モノラル録音でアムステルダム、とだけ表記されています。当然ながらコンセルトへボウでの収録のはず。
ベイヌムにとってブルックナーの第8交響曲は記念碑的な作品です。コンセルトへボウの第2指揮者に就任した最初のコンサート(1931年9月6日)でプログラムに組んだのもこの作品でしたし、コンセルトへボウとの25周年記念コンサートもブルックナーの8番でした。
ブルックナーの場合にはいつも稿や版が問題になりますが、ここでは当然ながら決定稿となる第2稿で演奏されています。
版はハース版による完全演奏で、カットや加筆などは一切ありません。
ベイヌムがティンパニを加筆しているという評を読んだ記憶がありますが、今回改めてスコアをチェックして、そういう箇所も無いことがハッキリしました。
ただ1箇所、第4楽章提示部の最後、ハース版250小節と251小節にあるホルンは、スコア指定の1番奏者だけでなく複数を重ねて吹かせていると思います。気が付いたのはここだけ。
そもそもブルックナーの第8交響曲は、ハース版の出版が1935年のこと。戦後の新全集であるノヴァーク版は1955年の出版ですから、ベイヌムがノヴァーク版を演奏するはずもありません。
ベイヌムの時代、ブルックナーはシャルクなどの改竄版が普通に流布していて、漸くハースがブルックナー全集を刊行し始めたころ。後に言われるハース版は、「原典版」 Originalfassung という呼ばれ方をしていたはずです。
当CDには版について何の記載もありませんが、恐らくLP初出の時から「原典版」という認識しかなかったためだと思慮します。
フィリップスがこの録音を出した時は、ABL 3086/7 という2枚組4面のLPで、最終4面にはシューベルトの第3交響曲がカップリングされていました。
そもそもブルックナーの第8交響曲は未だ録音が少なく、ベイヌム盤はヨッフム/ハンブルグ・フィルのポリドール盤に続く史上2番目の録音に当たります。
演奏・録音とも優れたもの。ノヴァーク版はあちこちカットがあるのでハース版の方が演奏時間が長くなりますが、ベイヌムは72分ほどで収録しています。
最近のブルックナー演奏は、演奏時間が長いほど良しとする妙な傾向がありますが、ベイヌムの演奏には変な思わせぶりは皆無。個人的には第8のザ・ベストに挙げたい1枚です。
参照楽譜
ブライトコプフ&ヘルテル No.3622(ハース版)
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